事例

トクヤマが内製開発で実現した「デジタルツイン」× 経営シミュレーター「T-FORCE」の全貌

総合化学メーカーのトクヤマは、CO2削減と収益性が相反するという「化学メーカーの宿命」を打ち破った。その鍵は、プラント群をバーチャル空間で再現する「デジタルツイン」と、複雑に連動するプラント稼働を最適化する「経営シミュレーター」の融合にある。既に年間6,500トン超のCO2削減や年間2.5億円の燃料費削減といった成果を生み出しており、この画期的な挑戦の全貌に迫る。

主要生産拠点・徳山製造所が抱えていた「局所最適」では解決できない根本課題

世界中で地球温暖化への対策が急務となる中、製造業で共通の経営課題として挙げられているのが、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(以下CO2)の排出量削減と収益性確保のバランス判断です。CO2排出量削減を目指そうとすると、収益性が悪化することがほとんどで、多くの企業は対応に苦慮していました。また、化学メーカーの多くは複数のプラントを所有し、一つの材料から複数の製品を製造するなど、プラント間で複雑かつ密接に連携しています。そのため、1箇所のプラントでCO2を削減しようとしても、連携先の別のプラントに影響が及び、結果としてCO2排出量削減と収益性向上の両立を図る、「全体最適化」を考慮した経営判断が難しいという課題がありました。

こうした課題は、総合化学メーカーであるトクヤマでも例外ではありません。トクヤマは、主力製造拠点の徳山製造所(山口県周南市)に、マテリアル(塩素・水素など)とユーティリティー(電気・蒸気)が高度に統合された10以上の化学プラントを保有しています。

トクヤマの主力製品であるセメントや、多結晶シリコンなどの電子先端材料、ガラスの原料となるソーダ灰などの化成品は、製造過程で大きなエネルギーを消費します。各プラントで必要な電気や蒸気などのエネルギーは、製造所内にある4つの自家発電設備で賄っており、一部バイオマスなどへの燃料転換によって削減努力を続けていますが、燃料起源で排出される温室効果ガス(GHG)は依然として高い状況にあります。これに加えて、いくつかの製造工程では原料起源のGHG排出もあります。

高効率かつ統合された生産プロセスは、トクヤマの強みであると同時に、製造過程の統合が進んでいるがゆえに柔軟性に欠け、小回りも利かないため、収益性を維持しながらGHG排出量を削減しようとしても、製造計画の見直しや最適化が難しいという課題がありました。

2022年4月、トクヤマは社長をプロジェクトオーナーに据えた全社DXプロジェクト「トクヤマDX」(TDX)をスタートしました。トクヤマで取り組むべきことを8つのカテゴリーに分けて、25のプロジェクトを立ち上げました。そのうちの一つ「製造DXプロジェクト」では、事業ポートフォリオの転換、地球温暖化防止への貢献、CSR経営の推進といった、中期経営計画2025で掲げている3つの重点課題解決のため、2022年6月からプロジェクトマネージャーを務める徳山製造所長が中心となって、製造所運営の大規模改革を進めています。

「プラントデジタルツイン」で生産性向上を実現

本取り組みの第一歩として、トクヤマは「プラントデジタルツイン」を構築しました。プラントデジタルツインは、徳山製造所内の発電所やプラント全体を仮想空間上に再現したモデルです。これらの各モデルに対して、リアルプラントの運転データを用いてパラメータ調整を行うことで、運転条件や設備構造の改善を目指す高精度なバーチャルプラントです。デジタルツインとは、現実世界にある設備や機械、プロセスなどを仮想空間上にコピーする技術で、設備改造や増設、運転条件の最適化といった、安全面や法的な制約などで現実では試行錯誤できない事象は、仮想空間上のプラントや発電所で何度でも試行可能です。仮想空間上で検討した最適解を現実環境にフィードバックすることで、リアルの発電所やプラントを効率的に改善できる検討基盤を整備します。

実際のプラントは、装置内の汚れや劣化などによって時間の経過とともに性能が徐々に変化します。化学プロセスをコンピュータ上で計算する設計ツールは存在するものの、それらが弾き出した結果通りに実際のプラントが常に挙動するとは限りません。バーチャルプラントは、運転条件や設備構造の変更などさまざまなケーススタディを行っても高精度で計算することが可能であり、そこで得たベストな解をリアルプラントに適用することで、生産性向上を迅速かつ安全に短期間で実現しました。なお、現在では徳山製造所内にあるほぼ全てのプラントでデジタルツインが完成しています。

全体最適化の限界を打破する製造所経営シミュレーター「T-FORCE」

製造所全体のオペレーションを最適化するためには、マテリアル(原材料)や廃棄物、ユーティリティー(電気・蒸気)のバランス及び各供給網の制約を考慮しながら、発電設備とプラントの稼働を同時に全体最適化する必要がありました。しかし、稼働率の調整も含めて、これらの組み合わせは天文学的数値となるため、最適化検討を行うこと自体が難しく、これまで全体最適化シミュレーターの構築はほぼ不可能であると考えられていました。

そこで、こういった従来型の全体最適化計算の限界を打破するために、徳山製造所経営シミュレーター「T-FORCE」(Tokuyama Factory Optimizer with Rapid Calculation of Economic efficiency)」の内製開発に2023年から取り組みました。当初は外部ベンダーに構築を依頼することも検討しましたが、高度に統合された徳山製造所の内部構造を理解してもらうことは容易ではありませんでした。さらに、「2026年度からスタートする中期経営計画の策定にシミュレーターを活用したい」という経営陣の要望に対して短期間での構築が不可欠であったこと、加えて、既に構築を進めていたプラントデジタルツインを活かせることが、全体最適化シミュレーターを内製で開発するという判断に至ったのです。

「T-FORCE」は、Excelの操作画面とPythonによる内部計算を連携させることで、使いやすい操作性と高速計算を両立した設計となっています。予算・原価といった収益情報と、電気・蒸気バランス、塩素バランス、廃棄物バランスといったマテリアル・ユーティリティ情報を参照情報として活用し、炭素税やCO2排出量の上限、売買電気代など製造を取り巻く外部環境をインプットすれば、最適なプラントの稼働指針や売電・買電量を瞬時に提供することができます。これにより、CO2排出量の最小化や収益最大化など、全社の利益やCO2排出量をKPIとして、目的に応じた最適な製造所の運営方針の提案を可能にします。本方針に基づいて運営を開始した後も、設備トラブルや原燃料価格に大きな変動が生じた際には、即座に再計算を実施し、常に利益最大化を目指す製造所運営方針に修正します。

地球温暖化対策と収益性のバランスを図りながら、サステナブルな経営を行うための中長期的な経営方針を立案することを目指しました。

デジタルツインと「T-FORCE」の連携で生み出された成果

本プロジェクトは、参画メンバーだけではなく、多くの関係部署とも連携をしながら推進されました。デジタルツインと経営シミュレーター「T-FORCE」のダブルで全体最適化に取り組み、具体的な成果を生み出しています。

デジタルツインの導入により、2023年度は500万円弱の成果が生まれましたが、2024年度に運用を開始した「T-FORCE」による効果が積み上がり、今年度は3億円弱の成果となる見込みです。また、デジタルツインによる装置改良で年間6,500トンのCO2削減を実現しました。

「T-FORCE」ではシミュレーションベースですが、なりゆきベースとシミュレーションベースの差異として、年間4万トンのCO2を削減できるポテンシャルがあることも見出しています。

今後、本ソリューションを用いて様々なシミュレーションを行い、徳山製造所の最適運営を実現して、CO2削減と収益性確保の両立を図っていきます。

デジタルツイン×製造所経営シミュレーター「T-FORCE」の波及効果

トクヤマは、自社のプレスリリースや業界メディアなどを通じて、本プロジェクトの取り組みを積極的に発信しています。本ソリューションは他の製造業でも活用可能と捉えており、プロジェクトが広く認知され、各社へ展開することができれば、各企業の発展を維持しながら、非常に大きなCO2削減効果が期待されます。これにより、日本や世界全体でのサステナブルな社会構築の実現に貢献できると考えています。

まとめ

総合化学メーカーのトクヤマは、CO2削減と収益性の両立という「不可能」に対して、内製開発したプラントデジタルツインと経営シミュレーター「T-FORCE」で挑戦し、年間6,500トン超のCO2削減と年間2億円超の燃料削減を実現しました。本取り組みのエッセンスを積極的に発信しており、他の製造業でも応用してもらうことでCO2削減に貢献しようとしています。トクヤマでは、2050年のカーボンニュートラル達成に向けてCO2削減の中長期計画も策定するなど、さまざまな活動を進めています。

<参考記事>

経営シミュレーター「T-FORCE」開発物語 DXが導く、トクヤマの未来

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