事例

オンライン診療とクラウドサービスが照らす医療の未来

コロナ禍の受診控えにより、医療機関も大きな影響を受けています。2018年3月にはオンライン診療が解禁されましたが、取り入れた病院はごくわずか。病院はセンシティブな個人情報を取り扱うこともあり、IT化・クラウド化が遅れている特有の事情があるからです。そのような中、医療法人正幸会は、業務のアナログ・属人化のリスクを感じ、2015年からいち早くデジタル&クラウド化に踏み切りました。オンライン診療の導入や病院内の業務改善&効率化のためにさまざまなクラウドシステムを利用。さらに、病院特有の業務効率化のため、専用システム「mawari」を開発します。病院のアナログ業務は、患者だけでなく働く人たちにも大きな負担です。適切な運用ルールを定めたうえでシステムを取り入れ、利便性を向上させることで医療の未来モデル実現を目指していきます。

医療法人正幸会

所在地:大阪府門真市中町11-54
創業:昭和58年6月
診療科目:内科・消化器内科・呼吸器内科・循環器内科・放射線科(入院病床数56床)
従業員数:65名
https://seikohkai-hp.com/

病院って、そもそも「企業」なの?

「病院ってそもそも企業なの?」とお思いの方もいらっしゃることでしょう。

確かに、医療法人は一般企業とは違って非営利団体です。そのため、利益の配分が認められていません。しかし、投資の回収や安定的な医療サービスの提供のためには、利益を上げることが必要です。つまり、病院にも健全な財務が必要であり、一般企業と同様に経営の効率化が求められます。

医療におけるDXの現状

医療には、世界でも最先端の科学技術が投入され、特に医薬品や医療機器の分野は巨大市場です。

しかし、実際には「病院ってなんだか遅れてるな」という体験をされる方も多いのではないでしょうか。

例えば、ネット予約ができず予約は電話のみとか、クレジットカードが使えず現金決済のみだったり、お薬をもらうだけのほんの短い診察のために、長い待ち時間があったりなどです。

電子カルテの普及率も低く、全国約18万件の医療機関のうち半数以上で未だに紙カルテが使用されています。

医療現場全体でデジタル&クラウドを活用できていないという課題があるのです。

ここがヘンだよ、医療人!?

ここで「医療業界あるある」をご紹介しましょう。

病院間の情報提供は基本的には「お手紙」。急ぐ時には巷では「化石」とさえ言われているFAXが主流です。

また、電子カルテの端末はインターネットにつないではいけないとか、クラウドと聞くだけで「絶対ダメ」、という風潮があります。

正しい知見や根拠に基づいたものではないローカルルールが、検証されないまま長年まかり通り、大きく利便性を損なっているのです。

デジタル&クラウド化に目覚めたきっかけ

2015年のある日のこと。当時2名体制だった外来事務スタッフの2名ともが「私たち明日、辞めます」と突然言いだし、本当にいなくなってしまった事件がありました。


その事件をきっかけに、業務のアナログ・属人化のリスクを痛切に感じ、病院の成長戦略の柱を「デジタル&クラウド化」に切り替えることになります。

この方針にしてからは、投資判断がしやすくなり、皆に説明がしやすくなりました。そして何より自分で納得できる決定ができるようになったのです。

私たちのクラウド年表

病院開設以来ずっと紙カルテを使用していた当院は「私たち明日、辞めます事件」以降すぐに電子カルテを導入しました。

その流れで2018年にはオンライン診療をスタートし、2019年からは院内業務改善プロジェクト「mawari」を始動しています。

当院が取り組んだこと

成長戦略の柱「デジタル&クラウド化」には2つのポイントがあります。

まず一つ目は「患者の医療体験の向上」です。このためにクラウド型オンライン診療システムCLINICSを導入しました

オンライン診療とはどんなもの?

「オンライン診療」は、近年の医療を取り巻く状況から「外来」「入院」「在宅」に並ぶ第4の診療スタイルとして注目されています。

当院では、2018年3月にオンライン診療が制度解禁されてすぐに導入しました。

家からスマホで受診ができるオンライン診療は、待ち時間がなく薬も郵送で受け取ることができます。人と会わないので感染リスクがありません。支払いも現金ではなくオンライン決済ができるなどの利点があります。

当院でのコロナ前後の変化

新型コロナウイルス感染症の蔓延は、オンライン診療にとって大きな転機となりました。

2020年4月。街から人の姿が消えたアンダーコロナにおいては、病院に来る患者が減る一方で、オンライン診療回数は急増しました。

その後 With コロナの状況となっても、オンライン診療が定着したことが見て取れます。

病院内の業務改善&効率化

デジタル&クラウド化2つ目のポイントは、「病院内の業務改善&効率化」です。

その方法として、まずは各種クラウドサービスを導入しました。

クラウドサービスの導入

世の中には、たくさんの便利なクラウドサービスがあります。

業務改善&効率化のために、病院内外でのさまざまな局面に対応する各種サービスを導入。サービスを導入する際に「病院とは初めて契約しました」と言われることもしばしばありました。

中でもLINE WORKSの導入は院内コミュニケーションに劇的な変革を及ぼしたと思います。

mawariの開発

そして病院内の業務改善&効率化のためにクラウドサービス導入とともに行ったもう1つが「mawari」の開発です。

mawari始動前のアナログ混沌期

病院固有の業務の中心である電子カルテの部分でデジタル化をしても、その周りに位置する業務ではアナログ体制が残ってしまうと、全体の業務の効率性を大きく損ないます。

当時はまさに混沌の状態でした。

これは市販のクラウドサービスではカバーしきれない部分なので、当院に限らず多くの病院で抱えている問題だと思います。

mawari誕生

そこで「病院視点だからこそ実際のニーズに即した効率化アプリを作れるはず」と考え、IT に精通した大学時代の友人と共に、病院業務を支援するメディカルサービス法人「 D&Dメディカルジャパン株式会社」を設立。

「mawariプロジェクト」と銘打って独自にアプリを開発することにしました。


院内業務改善プロジェクト「mawari」

これらのクラウド型アプリケーションを開発したことで、電子カルテの周りに位置する様々な業務がデジタル&クラウド化されました。こうして、デジタル同士をアナログでつなぐという、非効率的で矛盾を孕んだ多くの状況を解消することができたのです。

marari効果

mawariを導入したことによる効果は絶大で、このように業務の大幅な効率化に成功しました。

デジタル・クラウド化推進には困難がつきもの

一方で、実際にデジタル化を進めていく上での障害がなかったわけではありません。

トップが「デジタル化をしましょう」と言っても、現場スタッフの抵抗感が強く、導入の障害となることがあります。

対応策としては、丁寧な説明や環境整備が必要です。また敬意や礼儀正しさを持ってコミュニケーションを図ることも忘れてはなりません。

トップが、デジタル&クラウド化を経営戦略の中心にする信念や覚悟を持つだけでなく、デジタル&クラウド化を下に見たり、既存の組織のやり方を優先したりしないことも重要です。そして何よりデジタル&クラウド化のわくわくする未来をトップが語れること。

これらを、デジタル&クラウド化のための3つの提言としてお伝えしたいと思います。

そして、未来医療へ

これからの未来医療において、存在感を高め「柱」となるのは、オンライン診療などの遠隔医療、AIによる診断や治療、そしてスマートロボットの3つだと考えています。

遠隔医療・AI診断治療に関しては、当院ではこれらのサービスを既に導入済みですが、スマートロボットについては、実用化され普及するのはもう少し先になりそうです。

医療の未来モデル実現のために “正幸会フライホイール”

当院は、医療の未来を実現すべく、このようなフライホイールを回していきます。

「素晴らしい患者体験」は「集患」につながり、そこから「患者のニーズ把握・分析」を行うことで「よりよい診療体制」の構築へ。そしてまた「素晴らしい患者体験」へとつながります。

患者のニーズ把握・分析に必要になるのがmawariです。オンライン診療は素晴らしい患者体験に貢献します。

我々が開発したmawariを、これから医療インフラとしてどの病院でも使えるようなものに育て、医療業界の発展に貢献するのが願いです。

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