全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。
2022年10月26日に行われた「九州・沖縄大会」より、食品製造販売業におけるクラウド活用を進めた風月フーズ株式会社の事例をご紹介します。
風月フーズ株式会社の概要
■法人名:風月フーズ株式会社
■事業内容:喫茶、レストラン営業、和・洋菓子及びパン製造販売
■設立:1949年5月
■公式Webサイト:https://www.fugetsu.co.jp/
事業承継で直面した多くの課題

代表取締役社長 福山 氏:
風月フーズは1949年、福岡・天神で喫茶店として開業しました。
その後、「心を込めた一杯のコーヒー」の精神に基づき料理やパン、洋菓子といった商品の軸を展開、またその活動拠点を高速道路のサービスエリアや空港、鉄道の拠点に移していくことで70年間、福岡を中心に事業を営んでまいりました。
そんな70年の歴史を持つ会社を、私は2020年に事業承継しました。
そこには、たくさんの課題がありました。
組織内のコミュニケーション不足、スキルやデータの属人化…これらの課題を私は「風月クラウドチャレンジ」と称して、クラウド化で乗り越えていこう、と考えましたが、そこには「5つの壁」がありました
その「5つの壁」をどのようにして乗り越えていったのか、ご紹介をさせていただきます。
トップの壁

経営企画課 田中 氏:
今までさまざまなデータに関してトップから「これを出してほしい」といった要望は、
あまりありませんでしたが、現在の社長においては商品ごとの売上分析等、データ共有を重要視するようになってきました。
やはりオフコンや、サーバーといった閉ざされた環境では、データをすぐに提示することができません。
弊社はサービスエリアを4拠点、営業しておりますが、昨今は管理会社指定のシステムを使わざるを得なくなってきています。その中でさまざまな制限があり、細かい分析ができないことも課題でした。
そこで、次世代システムプロジェクトを提案し、社長にもこの会議に入っていただき、あらゆる問題点を共有していきました。社長を巻き込んだことで、「トップの壁」を突破することができました。
代表取締役社長 福山氏:
具体的な取り組みの一つとして、社内チャットツールの活用を始めました。従来はメール・紙で行っていた報告を、社内チャットツールを使うことにより、クローズからオープン化し、コミュニケーションを活性化することができました。
また、売上速報システムの再構築にも取り組みました。弊社には約30店舗の売上情報が毎朝送られてきますが、各店舗で採用しているレジシステムが異なるため、毎朝FAXを送信、
本社でその情報を手入力、そしてExcelを会社のパソコンでのみ閲覧ができる…そういった 状況がありました。
この仕組みを、各店舗にて売上情報を即Googleスプレッドシートへ入力、作業はそれだけとし、あとは各自パソコンやタブレット、スマートフォンでいつでもどこでも見ることができるフローに変えました。
さらに、嬉しい副産物がありました。私たちは年間に A413000枚分のFAX用紙を使ってい ましたが、これをやめることができ、換算して「木1本分」の環境負荷を軽減することができました。
基幹システムの壁
経営企画課 田中 氏:
社内サーバーと、過去に投資したシステムが、組織が進化する上で大きな壁となりました。
それを解消するために、次世代システムプロジェクトで、まずはシステム俯瞰図を作成し、 現状を整理して、「どのシステムがどこにつながって」「どこがつながっていないか」等を、皆で共有することにしました。課題点の発見ができ、できるところから少しずつ、 基幹システムを分散して切り替えていこう、という流れになりました。
さらに、セキュリティ面・コスト面・ファイルの共有の懸念事項がクリアになったことで、社内サーバーも一気にGoogleへ切り替えていこうという話になり、フルクラウドへの道を歩み始めました。

経営企画課 金山:
次世代システムプロジェクト参加者は、課長クラスなど、一部のメンバーに限られています。しかし 、実際の業務ではより多くの従業員が新システムや業務フローに慣れていく必要があります。
そこでポイントになるのは、ハードルの低いところから変化に慣れてもらうことです。
ZOOMを使って 全拠点で月1回の全社朝礼を行ったり、Googleスライドを作成して取り組みや成果を発表し、得票を競い合う「風月甲子園」を開催するなど、基幹システム解体と、フルクラウド活用という大波に、組織的に備えていきました。
ちなみに基幹システムの機能を全てクラウド移行するのに約1年かかりました が、ほぼ移行が終わった頃に、長年働き続けてくれた社内サーバーが急停止するという事件がありました。クラウド進行を進めていなかったらと思うと…本当に、プロジェクトに取り組んで良かったと思います。
社内抵抗の壁

商品企画室 内門氏:
大きな変化の一つが、クラウド勤怠管理システムの導入でした。20代から60代まで、合わせて約600名のスタッフに関わります。これまで紙のタイムカードに慣れていた従業員が
システムでの打刻に適応できるか、大きな壁があると感じていました。
そこで、いきなり全員に変化を起こすのではなく、スモールスタートからの全社展開作戦を 考えました。まずは一部の拠点に対象を絞り、システム打刻を体験してもらい、どのような問題が起きるかを洗い出しました。
そして全社展開時には、まずは管理職への説明会を実施しました。特にその管理職の皆さんには丁寧に対応を行い、導入後のサポート窓口を社内に設置して、不安をなるべく持たせない状況を作りました。
導入後1週間ほどは問い合わせがありましたが、それを過ぎると何事もなかったかのように全員がシステム打刻をしていた様子は壮観でした。
今までは何か少しでも変えようとすると大きな抵抗に遭っていたのに、社内の抵抗を克服する成功パターンが見えた瞬間でした。
周辺業務DXの壁
経営企画課 田中氏:
例えば、サービスエリアのショップでは、毎月月末に常時3000アイテムの棚卸業務があり
ます。棚卸業務に特化したシステムがない中、いかに進めるかが課題でした。
すでにGoogleWorkspaceを導入していた中で、ノーコードアプリを開発できることを知り、現場を巻き込んで自社開発し、スマホ・タブレットによる棚卸業務を実現できました。
それにより、クラウド上でデータを集約して一元管理することも可能になりました。
この成功体験を受けて「社内で勉強会をやってみたらどうか?」と、プロジェクトメンバーから意見が上がりました。その後、月2回「FFテックキャンプ」を開催することが決まりました。メンバーは 50代のプロジェクトメンバーを含み、社長も含めて合計6名で、紙・Excel等で運用しているワークフローをノーコードアプリに置き換えるべく、開発中です。
経理課 岩佐 氏:
経理課自体が、電子帳簿保存法など、デジタルの方にどんどん移行していっていますので、今まで紙ベースでやり取りしていたことが、「FFテックキャンプ」で作ったアプリを利用して作業ができるようになると、スピードアップ・ペーパーレス推進になるので、デジタル化をさらに進めていけたらいいなと思っております。
データ活用の壁
経営企画課 金山 氏:
管理会社指定のレジと、販売管理システムを変えられないため、これまでデータ活用をしようとすると、非常に手間がかかったり、技術的な壁がありました。
しかし、販売促進やマーケティングを行うには、売上データ分析が欠かせません。
フルクラウドに切り替えたことがきっかけでGoogleプラットフォームという、データ分析を 比較的簡単にできるツールがあることを知りました。近い将来は、過去の天候情報などを掛け合わせて、AIを使った売上予測も実現可能だと考えています。
実際、2022年のゴールデンウィーク期間について、単純売り上げ予測をAIで行い、マネージャー予測と比べた結果、AIはやや低めに、マネージャーは高めに予測する傾向があることがわかりました。
これらの分析を続けることによって、より細かい経営判断につなげていけるよう、クラウドの活用を進めていきたいと思います。
おわりに
代表取締役社長 福山 氏:
自分たちで考え、自分たちで現場の問題を解決していく…そういった、自律的な組織改革を今後も続けてまいりたいと考えています。
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