全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。2022年10月14日に行われた「東海・北陸大会」より、金属プレス加工業における人材育成・技術伝承の課題をDXで解決した株式会社樋口製作所の事例をご紹介します。
株式会社樋口製作所の概要
■法人名:株式会社樋口製作所
■事業内容:精密金属プレス加工品、一般金属プレス加工品、各種金型設計・製造、
プラスチック成形品、各種溶接加工品、各種切削加工品、各種組立加工品
■創業:昭和12年5月
■公式Webサイト:https://hig-jp.net/
経営課題は「人材育成」と「技術伝承」
株式会社樋口製作所は、日本・アメリカ・メキシコ・中国に拠点を持ち、コア技術である「深絞り技術」による精密金属プレス加工を行っており、様々な材質や複雑な形状に対応しています。プレス加工だけでなく、プレス製品の品質・生産性を左右する金型は、社内で設計・製作をしています。

また、品質・生産性向上を目的とした省力化・自動化設備も社内で設計・製作や、社内全部門が扱うデータプラットフォーム構築や、生産設備からの自動データ取得などのシステム開発も、社内で対応しています。
弊社の経営課題として「人材育成」と「技術伝承」が挙げられます。
技術者は、教育に関しては素人であるため、技術伝承のプロセスが属人化しています。
習う側の社員も、学び直しの機会・時間がありません。
また、弊社の技術は専門性が高いため、教育コンテンツを社外で探してきて購入・活用することもできません。そこで、弊社独自の教育コンテンツの開発・制作を自社内で行い、さらにシステム化・クラウド化を図ることにしました。
標準化された教育コンテンツを、社員自らがそれぞれ好きな時間に自分のペースで学習ができるセルフラーニングスタイルを確立し、社員の学習意欲と教育の効率を改善することを目標にしました。
外部人材登用を機にクラウドを導入
専門性の高いデジタル教材を社内で開発・制作するためには、既存社員である技術者の力量だけでなく、ITスキルを持ったエンジニアや、教育事業に関する力量も必要です。 そこで2021年1月から、ITスキルや教材制作経験を持ったフリーランスや、学生アルバイトと協業することにしました。
コロナ禍や地理的な理由もあり、彼らとのコミュニケーションは原則リモート形式で、クラウドサービスを使ったプロジェクト進行となりました。
テキストメッセージや、リモート会議、ファイル・スケジュール共有など、様々なクラウドサービスを利用することで、業務の高度化とコミュニケーションの高度化を実現できました。
社内で新たに育成したデジタル人材「ブリッジエンジニア」

学習システム開発に参画する「金型技術者」「ITエンジニア」「教材制作経験者」の間には、それぞれの専門知識力の違いが顕著で、なかなかスムーズなコミュニケーションが成立しませんでした。
そこで、社内におけるデジタル人材の育成を決断しました。
簡単なプログラミング学習や、既存教科書による学び直しをはじめ、 IT技術者や教材制作経験者とスムーズなコミュニケーションが取れる「ブリッジエンジニア」と呼ばれる人材を育成しました。
ブリッジエンジニアが 金型技術者とシステムエンジニアの間に入り、お互いの考えを相手に分かりやすく伝え、教育システムの要件定義を行いました。
eラーニングシステム「ヒグトレ」の完成
その結果、プロジェクト進捗管理だけでなく、デジタル教材の制作、eラーニングシステムの構築、成果物の品質チェックなど、一連のプロセスが 社内でスムーズに完結するようになりました。
「属人化しない技術伝承」を目的とした学習システム 「ヒグトレ」が誕生し、弊社技術に関する教育テキストをデジタル化、152本の教育動画や、理解度テストを盛り込むことができました。

システムを使って学習した社員のスキルを管理する「スキルマップ」も同時にデジタル化し、人事管理改革も進みました。
市場における金属加工エンジニアの掘り起こしや、社外の方にも弊社専門知識に関する学びの場を提供することを目的として、 「ヒグトレ」をアレンジしたデジタル教材をクラウドサービス化し、外販を2022年2月からスタートさせました。
専門性が高く 経験者以外には理解しにくいプレス加工技術・金型設計技術の基礎教材を制作し、 クラウドサービス化したことで、属人化していた教育体制を改革できました。
クリエイティブ業務に充てられる時間が大幅に拡大

社員各自が空いた時間を活用し、動画コンテンツで技術を学ぶ能動的なセルフラーニングが進んでいます。学習にかける時間は、以前の集合教育を行っていた場合と比較して約5倍に増加しました。
技術伝承をシステム化し、セルフラーニングスタイルを確立したことで社員の学習意欲も大幅に向上したのです。
また、教えることに苦手意識があった技術者も、教える負担が相当に軽減され、教育・フォローに割いていた時間を本来のクリエイティブな業務に充当できるので、業務効率も同時に改善できました。
教材は多言語対応を開始し、外国人人材の発掘にも挑戦中です。これはまさに当社の本業に関するノウハウを、クラウドサービスを利用して行ったDX達成事例であると自負しています。
クラウド化で得たもの
弊社の経営課題である技術伝承に対し、「システム化」「セルフラーニング」をキーワードに教育動画の制作を進めてきました。
これまで、社内リソースだけでは作ることのできなかった教育ツールの制作を、業界も世代も違う外部パートナーと協業することで達成できました。
今回の取り組みの中心にあったクラウドサービスの利用によって得たものは、「情報共有の高速化」「議論の高速化」「判断の高速化」です。現在は、教育動画制作以外にも、ノーコード開発によるオウンドメディアや、簡易業務アプリの開発も進めています。
圧倒的な開発リードタイム短縮と、コスト低減への効果が見込めるクラウドサービスを、社内技術強化のツールとしていきたいと考えています。
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