事例

隂⼭建設株式会社「建設現場を変える挑戦」

全国中小企業クラウド実践大賞は、クラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化したモデル事例のなかから、コンテストにより優れた取り組みに対して総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞等を贈るコンテストです。

2020年11月13日に行われた郡山大会より、法人名の事例をご紹介します。クラウド活用が難しいといわれる建築現場において、ドローンの活用を含めたシステムを自社で開発。将来を見据えた建設現場の課題解決に取り組まれているだけでなく、災害復興支援などの社会貢献活動も積極的におこなっています。IoT化、クラウド活用に後ろ向きな現場を変革したチャレンジをご覧ください。

隂⼭建設株式会社の概要

法人名隂⼭建設株式会社

事業内容 :総合建設業

■設⽴:昭和36年3⽉13⽇(設⽴59年)

従業員数: 42(内ドローンパイロット32名)

■公式WEBサイト:http://www.kageken.jp/

陰山建設株式会社は、福島県郡山市に本社を置く地場建設会社。2021年の3月で60周年を迎える老舗企業です。

社員数42名のうち、ドローンパイロットが32名という構成。「すべてはお客様のために」と地域に必要とされる企業になるため、社会環境の変化と共に進化する建設会社を目指すだけでなく、社員・協⼒企業の安⼼・安全を尊重することをモットーに事業展開をされています。

カゲヤマホールディングス株式会社組織図

 現在は、カゲヤマホールディングス株式会社という事業会社を設立。グループ会社として福島市と郡山市2つの建設会社を保有しています。

建設におけるDX推進のためにビルディングサポート株式会社という新たな子会社を立ち上げました。

ここで今回ご紹介する建設会社のためのサービスアプリを開発しています。

社会貢献活動

 陰山建設株式会社は、社会貢献活動に積極的な企業としても知られています。

 毎年行う「陰山建設株式会社 愛の献血運動」は、福島県内全ての献血車が集まる日本最大規模の献血行事です。

グループ社員で献血を行い、これまで38,476名の参加をいただきました。

 また、東日本大震災でお世話になった恩返しで、全国の被災地を支援する「恩送り活動」、

社員に万が一のことがあった際に、残された遺族のご子息を大学卒業するまで学資支援する「陰山育英会」を制度化。

社内外に対し、広く社会貢献活動を行っているのです。

受賞実績

これらの取り組みが認められ、2019年には「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「審査委員会特別賞」を受賞。

日本で一番大切にしたい会社7」でも紹介されています。

“お客様”のために、建設業を変える|ビルディングサポート設⽴

さて、陰山建設株式会社では、前述の通り、建設業でクラウド化を行い、地方建設業のDX推進をはかるため、「ビルディングサポート株式会社」を設立しました。

なぜあえて自社開発を行ったかというと、ビルなどの一般建築に関わる構造体や構造形態を知識のないIT企業に理解してもらうことが困難だったからです。

現場に対しての知識もあり、効率化したい工程も一番わかっている自分たちでチャレンジするべきだと考えました。

社会的背景

 IoTを進めるための社会的背景としては、今後の労働力の減少があげられます。

すでに2025年には、技能労働者が約130万人足りないと予測されている状況です。この数は、建設業における1/3の職人さんがいなくなるということをあらわしています。

自動車産業の2番手市場といわれる建設業界ですが、その企業構成を見てみると、90%以上の企業が中小企業。クラウドサービスの推進やデジタル化を行おうとしても、なかなか前に進まないという現状がありました。 

建築業におけるクラウド・IoT活⽤の難しさ

 建設業というのは、土木工事と建築工事と二つに大きく分類されます。

実は、この土木分野と、建築工事においても住宅工事については、クラウド化・IoT 化が比較的推進されてきました。

それに対して、ビルなどの一般建築は下請け構造が非常に複雑化していることもあり、なかなかシステム化が進んでいない現状があったのです。

しかしそれは逆に「ブルーオーシャン」だと考え、建設会社としてのアプリ開発をスタートしました。

主なクラウド・IoTの取組み沿⾰

 陰山建設のクラウド・IoTの取り組みについてまとめたものです。

まずは2011年頃から ICT(情報通信技術)を活用した 施工をスタート。その後2017年にドローンの導入をおこない、2018年にはすべての新築現場で自社パイロットによるドローン飛行を100%実施しています。

そして、建設情報を可視化するアプリ「Building MORE(ビルモア)」を自社開発し、2019年より運用を開始しました。

ドローンを活⽤した新しい施⼯管理

 まずはドローンを活用した新しい施工管理について解説しましょう。

ドローンを活用することで、これまで人が立ち入ることができなかった立ち入り禁止区域などの視認化もはかることができ、品質コスト・工程・安全・生産性が向上するだけでなく、様々な情報を取得できるようになりました。

災害復興⽀援への活⽤(2019年10⽉12⽇台⾵19号発⽣)

 この技術を災害復興支援に活用した例です。

2019年10月の台風19号で、郡山市も被災しました。その際に、ドローンで取得した

点群データを活用することにより、災害ごみの3次元化に成功。

ごみの量を瞬時に結束することができました。こうした活用は世界初の例です。

建設情報可視化アプリBuilding MORE「ビルモア」

それでは、⾃社で独⾃したアプリ、Building MORE「ビルモア」について解説しましょう。

2018年2⽉から、地元ITベンチャー企業と共に開発を開始するとともに、社内環境の整備に着⼿しました。

建設構造の複雑さについて、IT 目線だけではなく、実際に作業に携わる建設業者側からの目線を取り入れています。

PC、タブレット、スマホなど、どのようなデバイスでもすべての建設現場が把握できるようなアプリを作成しました。

ビルモア|お客様画⾯①

機能の中身についてですが、まずはその日の現場状況だったり、進捗が分かるように、現場の映像を見ながら確認できる機能を備えています。

 また、今後の予定や工程の流れなどについて、建設会社ならではの工程表ではなくカレンダー表示することによって、お客様のニーズにそった予定確認の機能を備えています。

ビルモア|お客様画⾯②

 また、新築施工の場合は、全部約4000~6000枚の写真を撮影します。その工事写真を瞬時に部屋別・日付別に仕分けて管理できるような機能を有しています。

 さらに、図面、プランボードを更新した場合、最新の情報を共有できる機能も付与。図面と写真は連動しているので、図面から部屋のアルバムを閲覧することも可能。

ビルモア|お客様画⾯③

 さらに、ラインのようなコミュニケーションツールでお客様との直接のやりとりができます。

見積書や打ち合わせ議事録、変更契約書についても、瞬時にデバイス一つで見られるように管理する機能があるため、お客様や社内での意思疎通レベルがアップ。 

ビルモア|建設会社管理画⾯

ビルモアを導入し、建設現場の管理を行うことで、工事情報のリアルタイム共有ができ、それまで散らばっていた様々な情報を探す時間もなくなりました。

情報が一元管理されているため、顧客情報の管理なども非常に簡単になっています。

「ビルモア」導⼊の効果

 ビルモアを導入したことで、経営者や管理者が、どこからでも今の建設現場をデバイス一つで確認できるという状況を作ることができました。

また、現場監督の業務の削減にも大きく貢献。月間約50時間の残業時間が減っています。

業務ミスについてもアラートで指摘されますので、結果的に粗利率が上昇。

様々な角度から現場写真を撮影することにより、建設現場が非常にきれいに整備されるようになったため安全性も高まりました。

また、業務改善が行われた結果、有給消化率も向上し、残業も削減。働き方改革に適した従業員満足度の向上も図れています。

 「ビルモア」導⼊の効果|利⽤者からの声

 次に、ビルモアを導入し、実際に使った方々からの利用者の声です。

施主様からも毎日工事の進捗を確認できることに好評をいただいています。プロジェクトを現場で担当した以外の方も現場が見えるので、打ち合わせもスムーズにできるということで CS向上に結びついています。

また、従業員からは、打ち合わせ内容が密になり工事記録として残っていくことで生産性が上がったとの評価を得ています。加えて受注の機会売上のアップにもつながっているという声もいただいています。

建設現場ですと、現場代理人にすべてのお客様の対応を任せるようになりがちですが、そういった部門間の垣根を越えてフォローアップもできるようになったことで、高評価に繋がっている状況です。

「ビルモア」による成果報告の⼀例

「ビルモア」が評価され、福島の県立高校の改修工事を受注しました。

工事中もビルモアとドローンを使うことにより、建設現場の可視化を図り、精密な調査を行うことで、スムーズに工事を進めた結果「福島県優良建設工事表彰」を受賞。

進化するビルモア|協⼒会社との連携(来春予定)

 「ビルモア」と「ビルモア・プラス」はどう変わるのかというところですが、「ビルモア」はお客様と建設現場をつなぐクラウド使った管理をするアプリです。

さらに、プラスでは、協力業者たちとも外部連携をすることによって、見積もり提出・受発注・出来高管理などをデジタル化する予定です。

図の中央にある「連携企業」のところでは、大手企業にも入ってもらっています。API連携であったり、それぞれが持っているデバイスと連携しながら、「ビルモア」「ビルモア・プラス」との協業を模索していただいているところです。

私たちが考える地⽅建設業のDXステップ

 地方建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)のステップとして、最終的にはAIやロボット活用を見据え、5つのステップを考えています。

まずレベル1がデバイス環境、職場の環境整備からはじまり、レベル2で「ビルモア」の導入による工事情報のデジタル化と活用をおこないます。

現状をさらにステップアップさせるため、現在の「ビルモア・プラス」来春の予定で今開発に着手しているところです。

建設現場の課題解決を⽬指す共創コミュニティ

 「ビルモア」の開発を通じ、大手建設会社をはじめ様々な企業との協業が始まっています。

例えば、金融機関と工事の適正な支払金額を把握したり、保険会社と適正な保険料の設定を行うなど、建設現場にまつわる課題解決に取り組むコミュニティを作り出そうという動きです。

社会貢献に向けたクラウド・IoTの活⽤

一方でほかのクラウドサービスとして、災害時のプラットフォームを同時に並行で製作しています。

建設会社としてのあり方ということを社内で議論し、震災などの災害が非常に多いという状況の現代において、災害時の被害情報をアウトプットの共有化の必要性を感じ、被災状況の写真を投稿できたり、停電やボランティアの情報を投稿できるプラットフォームを作っています。

 参考サイト:
災害復興info:  https://saigaifukko.info/

また、大手企業は災害用のデバイスをいろいろ保有していますが、いざ災害が起こった場合は、混乱しているために被災地に行き渡らせることができない状況にあります。

また、現地では生産性の上がらない復興事業を行っていることが多く、そうした被災地の行政側に革新的なデバイスを紹介するなどという橋渡しもやっています。

 メディア掲載について

「ビルモア」については、コマツと連携した取り組みとして、⼤⼿商社や⼤⼿保険会社と並んで中堅建設会社の取り組みとしてビルモアも紹介されました。

そのほか、野村総合研究所や日経コンストラクションといったメディアにも取り上げられています。

まとめ|建設業におけるクラウド・IoT活⽤

 建設業は、DX、クラウドサービス、IoT化などのIT化には非常に後ろ向きなところもあります。しかしこれからも、CS向上、生産性向上、ES向上、受注力強化、社会貢献につながるチャレンジを引き続きやっていきたいと考えています。