建設業界は、大量の紙の図面や資料のやり取りが全工程で発生する、根強い紙文化の業界です。国土交通省は、BIMの導入など建設業界のDXを多方面から後押ししていますが、BIMを閲覧するには専用のソフトを使いこなせる人材と高スペックのパソコンが必要です。大成建設では、BIMデータを没入型へと変換させ、誰もがゲームをプレイする感覚でメタバース上で自由に歩いて意思決定を簡単にできる「建設承認メタバース C2Quest」を複数の企業と協働して開発しました。
「建設承認メタバース C2Quest」の説明動画はこちら 【大成建設】建設承認メタバースのある世界「the World We Work.」
「BIM」の壁、「合意形成の齟齬」による膨大な手戻り――誰もが使える3次元データへの挑戦
大成建設でも数年前から活用している「BIM(Building Information Modeling)」。BIMとは、測量データや設計図面から3次元モデルを作成し、従来図面や紙で管理していた建物の資料を、パソコンの中で管理する手法です。国土交通省がBIMの使用を推奨していて、2023年から、公共工事や詳細設計でBIM/CIMの使用が原則適用となっています。
しかし、BIMを使うためにはRevitやArchicadなどの専用のソフトが必要です。3次元データは、10数年前から日本の企業でも導入が進んでいますが、それを操作できる専門知識も高画質のビジュアルデータを表示するハイスペックのパソコンも必要で、データ変換にも3日〜1週間かかっていました。BIMは建物の情報を豊富に内包していますが、誰もが直感的に、一人称視点で没入体験できるリアルタイム性はありません。
一方、建設業界では、紙の文化が根強く残り、業務のデジタル化が遅れているのが現状です。特に、図面と契約図書は、膨大な量の紙を必要とします。ときに数百〜1,000ページになるケースも多く、紙とペンと付箋と定規で1個1個チェックをしなければならず、かなりの労力を要します。また、図面などをテーブルに並べて発注者側と受注者側の間で行われる打ち合わせのスタイルは、現在でも建設業界に残っています。しかし、綿密な打ち合わせを重ねても、「外壁の色が違う」「指定した材質と別のものが届いた」など、しばしば合意形成の齟齬が起きがちです。
そこで大成建設は2023年、BIMをベースに、3次元モデルを活用したメタバース上での合意形成が可能になる「建設承認メタバース」の開発をスタートさせたのです。
※契約図書:契約書(不動産契約、賃貸借契約、工事契約、設計契約、委託契約などの施設に関連する書類)と工事監理仕様書(質問回答書、現場説明書、仕様書)の2種類からなる書類を指す。
クエストクリアのように課題を解決――ゲーミフィケーションが変える承認業務
「建設承認メタバース (C2Quest:Construction Contract Quest)」は、ゲームコントローラーで操作可能な没入型3D空間へと置き換え、会議の際のメモや紙で管理されていたさまざまなデータをクラウド上に保管・可視化(アイテム化)することで、会議中に出た課題の取りこぼしを防ぎます。

これを開発する際、大成建設は、幅広い業界でDXを世界規模で支援してきた実績と知見を持つ日立製作所を開発パートナーに選定。日立製作所のグループ企業やゲーム制作会社、AI文字起こし・議事録サービス会社なども加わり、世代、部署、業種、国、文化も超えた、多様な専門家集団で構成されました。開発手法も従来のウォーターフォール開発ではなく、相性の良いアジャイル開発を採用。多様なメンバーが一つの目標に向かうことは容易ではないので、このプロジェクトにかける思いや未来像を映像に落とし込んだ三部作を作成し、チーム全員に共有しました。

「建設承認メタバース C2Quest」には、建築承認における関係者の合意形成を効率化させる仕組みに、ゲーミフィケーションが導入されています。ゲーミフィケーションは、ゲームの思考法をゲーム以外の領域に応用する取り組みで、ユーザーはアバターを操作し、まるでプレイヤーがクエスト(=ゲーム内で達成しなければならないミッションやタスク、依頼)をクリアしていくかのように、建物内を自由に探索しながら関係者の合意形成を進めます。今まで書き込んでいた書類をクリスタルに置き換え、紙の図面では伝わりにくいスケール感も、アバターを車椅子に変えて通路幅を確認したり、ワンボタンで寸法を計測したりすることで、直感的に理解できるようにしました。

業務や打ち合わせで作成するメモを、可能な限り構造化されたデータとしてクラウドに蓄積できる仕組みを構築。ゲーム制作会社との協議を重ね、クラウドを基盤としたMicrosoftとAutodeskのAPI連携を中心に、認証や社内セキュリティ、データベースとの接続をスムーズに行える設計です。AIが自動で議事録を作成・共有するため、会議運営も大幅に効率化されます。セキュリティや認証についても、大成建設が契約するAzure環境内で完結しており、安心して利用できる体制を整えています。
建設業界では従来、建築の知識の有無に関わらず、建設予定の建物を理解するため大量の図面や資料を渡すのが通常でした。ゲーミフィケーションを導入した本メタバースは「誰でも簡単に、いつでもどこからでも、事務職員や営業職員でも参画できること」を目指しています。
メタバースがもたらす働き方改革――多様な人材が活躍できる現場へ
従来は作業所と呼ばれるところに出向いて、図面などを確認することが必要でした。メタバース空間を操作するには、ゲーミングパソコンと言われる高性能かつ高額のパソコンを購入しなければなりませんでした。社員が実際に業務で使っているノートパソコンからお気に入りのアバターを操作して、少しでも業務を楽しんでもらいたいという思いから、「建設承認メタバース C2Quest」は、自宅からでもプロジェクトに参画できる環境を実現しました。これにより、育児や介護などで時短勤務中の社員が、子供が寝た後の数時間だけ品質チェック業務に参加したり、海外の人材が時差を活かしてプロジェクトに参加したりといった、多様で柔軟な働き方が可能になります。

また、専門知識の有無に関わらず、誰もが直感的に空間を理解できるため、建築知識のない事務職のスタッフや経験の浅い若手でも、合意形成のプロセスに主体的に貢献できる道が開かれます。特に若年層には、オンラインゲームをプレイするときのような、直感的な操作が可能です。これは、国土交通省が掲げる「生産性1.5倍、要員3割削減」という目標達成にも繋がるアプローチで、現在は5現場導入済みですが、今年度は4現場、26年度10現場の導入を目指しています。
建設から維持管理、そしてAI教師データへ――新たな企業資産となるデジタルツイン
大成建設では、展示会などで多くの来場者から寄せられた具体的な活用イメージを、「建設承認メタバース C2Quest」に反映しています。例えば、関西支店の建物にマニュアルを紐付けたり、関西・横浜・九州といった複数の拠点を1つのメタバース空間に一括で建物管理を行ったりするといったことです。これまでエレベーターの取扱説明書を探すのに時間がかかっていた業務も、建物にデータを直接紐付けることで効率化できるようになりました。また、従来はシルバー人材を3名配置して対応していた管理業務を、メタバース上では事務職員2名で代替できるケースもあります。現時点では販売実績はありませんが、業務負担の軽減と新しい価値の創出につながると、大成建設では考えています。
「建設承認メタバース C2Quest」の中にあるデータは建設完了後も利用可能なため、建物関連のPDFなどを格納した「建物空間アプリ」を開発し、同業他社への展開を現在検討中です。
今後はiPadからでもメタバース空間にアクセスできればと考えており、「建設承認メタバース C2Quest」の活用方法も、工事期間中のコミュニケーションツールに留まらず、建物機能の把握や施設管理などへも広げていこうとしており、さらなる機能強化と操作性向上を推進していきます。
まとめ
大成建設は、建設業界の根深い「紙文化」と、それに伴う「合意形成の齟齬」という課題を解決するため、「建設承認メタバース C2Quest」を、日立製作所とグループ企業など多くの企業の参画のもと開発しました。専門家ツールであったBIMデータを、ゲーミフィケーションの概念を取り入れたゲームのような3D空間に変換し、誰もが直感的に操作できるWebアプリとして提供。これにより、専門知識やハイスペックモデルのパソコンが必要になるBIMの壁を取り払い、多様な人材がテレワークでプロジェクトに参画できる働き方改革への道を開きました。
今後、同業他社やIT企業などと連携して多様なテクノロジーを活用した技術開発を進めるとともに、建設業界の業務スタイルの変革に積極的に取り組んでいこうとしています。