全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。
2022年10月12日に行われた「関東・信越大会」より、河川防災のDXに関する株式会社イートラストの取り組みと成果をご紹介します。
株式会社イートラストの概要
■法人名:株式会社イートラスト
■事業内容:設備工事、検査・整備・メンテナンス、情報処理、プラント・エンジニアリング、コンピュータ・通信機器
■設立:昭和10年4月
■公式Webサイト:http://etrust.ne.jp/
中小河川の監視体制構築のハードルを下げる
イートラストは新潟県長岡市で創業した電気・通信の設備工事会社です。長年にわたって 防災監視システムの構築や、道路・放送設備・携帯電話の基地局建設など、生活の安心・安全を守る仕事に携わってきました。
しかし景気の変化、社会構造の変化、技術革新などで私たちを取り巻く環境も大きく変わってきて、従来の業務だけでは経営が難しくなってきています。特に、少子高齢化による主任技術者不足が深刻です。
そこで私たちはITの普及に合わせて開発部隊を立ち上げ、クラウドやインターネット機器を活用した防災システムを開発しました。
それが今回ご紹介する「防災クラウド」です。現場を知り、公共のニーズを熟知している 私たちだからこそ分かる必要な機能を盛り込んでおり、低コストで扱いやすいものになっています。
2022年秋も、伊勢湾台風並みの超大型台風が九州地方などに被害をもたらしました。近年こういった甚大な被害を引き起こす台風や豪雨災害が顕著に増加しています。さらに気候変動による災害の多発は世界的な問題になっています。
その中でも日本は最も災害被害が大きい国だと言われています。2019年の日本の水害被害額は統計開始以来最大の2兆1,500億円に達しました。しかし2019年の東日本台風によって決壊した河川のうち、公的な氾濫リスク評価が行われていた河川はわずか3割ほどでした。半数の水害は、氾濫が想定されていなかった、規模の小さな中小河川で発生しました。
日本には1万9000もの中小河川がありますが、そのうちハザードマップなど防災対策が施されているのは1割程度に過ぎません。
その一方で、防災システム構築・運用には大掛かりで多額のコストが必要です。ゆえに、予算規模が大きい国や都道府県の一部でしか導入されていませんでした。
中小河川における河川監視体制構築の必要性を感じた国土交通省が、これを機に市町村レベルでも導入しやすい、低コストでメンテナンスフリーの簡易型河川監視カメラや機器管理型水位計の開発を目的にオープンイノベーション方式の革新的河川技術プロジェクトを立ち上げました。
私たちは以前から開発していたクラウド型監視カメラおよび水位計を持って、プロジェクトに参加し、改めて国の要求仕様に則ったシステムを完成させました。
河川防災のクラウド化・DXを実現
弊社が開発したクラウド型防災システムをご紹介します。
静止画による河川監視を行うシンプルなシステムです。


河川脇に設置されたカメラ・水位計から管理クラウドに画像・データが集まり、管理画面から画像・データをモニタしたり、各種設定変更等ができます。電圧や電界なども監視できシステムの保守に役立ちます。過去画像のモニター、ダウンロード機能、タイムラプス動画機能を活用することで災害状況の推移を確認でき、今後の防災対策に役立ちます。
5分おきにカメラで静止画を撮影しますが、ソーラー電源とLTE回線を使用し、外部電源や 通信線を使用しない独立型です。河川の画像は随時LTE回線を通じてクラウドサーバーへ送りますので大規模な電気工事や通信工事の必要がありません。そのため現地のインフラ条件に左右されず設置することが可能です。
カメラには超高感度モジュールを採用し、夜間の状況もクリアに確認できます。加えて、クラウド型水位計などを組み合わせることで写真・数値の両方で河川の変化を捉えることもできます。
クラウドへ送られた画像・水位データは自治体担当者向けの管理画面に表示されます。さらに一定期間クラウドに保存されますので災害の予兆から発生までの経緯を確認できます。

管理画面はパソコンや スマートフォンからすぐにアクセスできるので、大雨の中担当者がわざわざ危険な川を見に行く必要がなく、二次被害を防止することができます。安全性が担保されるとともに管内全体の状況を一括して把握でき、的確な防災活動に役立ちます。
このシステムにより、河川防災のクラウド化・DXを実現できました。
一般市民への公開は市のホームページから公開クラウドへリンクします。マップ画面から知りたい情報に素早くアクセスできます。現在の状況だけではなく 過去からの推移を見ることで一般の人でも状況がわかりやすいように工夫しています。
一昨年に発生した熊本豪雨が各地に大きな被害をもたらしたことも、記憶に新しいと思います。この熊本豪雨の際も弊社の防災システムが、降り始めから5分ごとの画像を撮影し、避難判断の一助になりました。またその後、熊本県庁が災害状況の分析に弊社システムの画像を活用されました。
全国各地の減災対策の一助に
画像による監視のメリットは「とにかくわかりやすい」ことです。 「水位が80cm上昇している!」と数字で示されてもなかなかピンとこないことも多いのですが、写真で見ればどのぐらい危険で、普段とは違う異常な状態なのか、すぐに理解できます。
その他、当社独自の特徴としてスマートフォン用画面、大画面モニター表示機能、気象情報をマップ上にオーバーレイ表示、国や都道府県のカメラ・水位計を取り込む機能、災害時の輻輳でもダウンしないCDN機能などを備えています。
ここ3年で、全国各地の自治体への導入が進んでいます。全国で発生している河川水害や内水氾濫のニュースの際など、当社のシステムの映像が活用されているのをよく見かけるようになりました。様々な機関で使っていただくことで減災対策の一助になっていると捉えています。
またSDGsの取り組みが注目される中、地域や環境への貢献につながる事業としても社内外で認識され始めています。
自社の強みを活かし、新しい事業の柱を創出
2017年に国交省革新的河川技術プロジェクトが始まり、2019年には新潟県や福岡県・大分県などに河川カメラを約900台導入していただき、新しい事業の柱とすることができました。
その後も受注が進んでおり全国の25都道府県、国交省の5地方整備局、30の市町村に当社
のシステムを採用していただくことができました。
約2500台のクラウド型河川カメラ・水位計、そして77の防災クラウドシステムが全国で稼働中です。
JICAや総務省の事業を通じて東南アジアを中心に海外での設置実績もできました。
このクラウドを活用した河川監視防災システムを導入していただいた地域の防災威力向上に寄与できていると自負しています。
また、道路や火山・砂防・鳥獣害監視などの分野にも応用され、広がりを見せ始めています。
さらに AIや5Gなど最新技術の導入も取り組みを進め、より良いシステムに発展させるべく取り組んでいます。
自治体の防災システムは建設業に準じた入札制度で発注されます。多少独特の制度ですが 長年公共事業に携わってきた私たちはこの制度への対応経験もあります。
また同時に一般的な工事会社には無い、IT関係の開発部門も20数年にわたり地道に活動してきました。それら両方の経験を持っていることが弊社の強みです。
コロナ禍や、世界的なモノ不足の影響を避けられない中、防災情報システム関連の販売は順調です。特に2019年度、2020年度は災害多発を背景に国土強靭化計画による販売の押し上げがありました。
厳しい世界情勢の中、21年度の経常利益は2.3億円、売上高経常利益率は4.7%と、過去最高となりました。
クラウド活動による新規事業創出で社員のモチベーションアップ
「クラウドを活用して、地域の防災力の向上に寄与できる!」と、社員のモチベーションも高まっています。
その思いに共感した新しいメンバーも増えています。
今後も開発体制及び営業体制を整え、さらに防災クラウドシステムを普及させるべく取り組んでいきたいと思っています。
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