事例

179ものシステム開発を実現した、香川大学の独自のDX推進体制

非情報系の職員が2年半で200近い業務システムの開発・運用を実現しただけでなく、情報分野を専攻する学生を中心に組織されたDXラボの設立、デジタルONEアンバサダーなど、独自路線で大学業務のDXを進めている香川大学の事例をご紹介します。

非情報系の職員たちが約2年半で取り組んだシステム開発

国立大学法人香川大学は、DX推進戦略として策定した「デジタルONE戦略」に則り、学生・職員・教員が一体となってDXを推進しています。事業部門のDX推進に携わるのは、システム開発の専門家ではなく、業務の知識をよく知る非情報系の職員で、その中でも特にDX推進研究センターの主体として任命した一部の職員(=デジタルONEアンバサダー、後述)によって、2年半で179件のシステムを開発・運用しています。

質問(入学手続きなど)に対応するチャットボット

入試の合格者を対象に、入学手続きに関する問い合わせに対応する業務をチャットボットに変えました。従来、合格者から担当者にメールや電話で質問を受けたら、メールや電話で回答していましたが、チャットボットの導入により業務担当者の工数が削減されました。それ以上に大切なのは、受けた質問とその回答をナレッジとして蓄積できますので、担当者が変わっても同じ回答ができるようになったことです。業務の標準化や引き継ぎを簡単にすることに貢献しています。

落とし物管理システム「KadaMikke/カダミッケ」

落とし物があれば、キャンパスごとに設置されている透明なショーケースに展示されていましたが、学生からは「分かりづらい」「窓口が開いている時間しか探せない」などの声が多くありました。また、落とし物を探すために複数の校舎を回らなければなりませんでした。職員の視点でも、問い合わせが多く寄せられるうえに、他の部局への情報共有がなかなかされず、業務負荷もかかっていました。

そこで香川大では、2023年に落とし物管理システム「KadaMikke/カダミッケ」を開発、同年5月に運用を開始しました。システムに登録された落とし物一覧から、落とし主は自分の落とし物を探し、そのときには見つからなくても後で落とし物が届いた際にはメールで知らせてもらえるようにしています。

「KadaMikke/カダミッケ」の派生開発で誕生した、医学部建物修繕依頼システム

学生や教職員から建物の修繕箇所の報告を受けたら、管理課や病院保守管理業者へ修繕を依頼します。ときには、修繕を担当する職員自身が学内を見回って調査を実施します。電話や窓口で修繕箇所を聞いただけでは状況が分からないため、現地に赴いて確認しなければなりませんでした。

一方で、香川大学医学部のキャンパスの建物の多くは築年数が40年を経過していて、壁面や配管、設備に不調がありますが、「修繕依頼をかける窓口が分からない」といった声もありました。ゲリラ豪雨や台風、地震といった災害発生時には速やかに建物の被害状況を把握し、二次被害を防ぐために、また大学のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の観点からも、非常時・通常時問わず、建物内外に存在する不調や問題を共有しておかなければなりません。

開発されたシステムでは、修繕箇所を発見したら建物修繕依頼システムに写真をアップするだけなので、修繕を担当する職員が改めて現地調査をする必要がなくなりました。これらの報告は一元管理されているので、修繕が必要な場所や現在どのフェーズにあるのかなどを一目で把握できます。「KadaMikke」からの派生で、非情報系の職員が1ヶ月弱で開発しました。

市民開発者、プロ開発者、ITプロフェッショナルの三位一体で進める「フュージョン開発体制」

香川大学では「フュージョン開発体制」と呼ばれる組織構造を採用しています。フュージョン開発体制とは、ローコード・ノーコードツール(香川大学の場合はMicrosoft Power Platform)で開発を進める市民開発者、その相談役であるプロ開発者、全体の方針を策定・制御するITプロフェッショナルの協働体制です。

市民開発者(デジタルONEアンバサダー):全事務部局(約40部局)から選出・任命された約60人の非情報系職員。身近な課題を解決するシステムを自分で開発・運用。

プロ開発者(DXラボ):情報分野を専攻する学部学生や大学院生の他、システム設計・開発を専門とする学部学科の教職員などからなる。香川大学のDX推進の実働部隊。各事業部門の業務担当者からの技術的な相談受付、問題解決に必要なシステムの内製開発などを担当。

ITプロフェッショナル(DX推進研究センター):DXラボの上位組織。創造工学部やDX推進研究センターの教員などが参加。DXラボよりも専門的な技術や知識を持つエキスパート集団。

現場主導の変革を支える思想

DXラボ内のプロジェクトに共通するのは、「デザイン思考」です。デザイン思考は「こんなシステムがあったらいいな」というふんわりとしたアイデアを、内製開発やハンズオンで具現化し、検証・改善するサイクルで、DX推進研究センターでは、デザイン思考に基づいてDX推進のポリシーやDX推進人材の育成プランを全体設計しています。

香川大学では、市民開発者とプロ開発者が協働することがDX推進の鍵となると考えており、デジタルONEアンバサダー、DXラボ、DX推進研究センターの三位一体の協働体制を整備したことが、200近いシステムの開発・運用につながったと捉えています。

この取り組みを通じて、職員の間にDXに対する深い理解が育まれています。

新たなワークスタイルの確立と大学DXの今後

香川大学では、業務を既定のプロセスに従って遂行するワークスタイルが主流でした。業務改善に取り組んだ事業部門では、業務の見直しが進み、業務プロセスを標準化していく取り組みが実施されるなど職員のワークスタイルの変革に成功。IT部門ではなく、業務改善に取り組みたい担当者自身がシステム開発を手掛けるスタイルが定着しつつあります。

DXの目的は業務改善です。業務改善を進めることで職員が楽になることはもちろん大切ですが、香川大学では、DX推進により創出された時間や人員を、大学の本来の業務である教育や研究活動、教員のサポートに回していきたいと考えています。また、これまで開発してきたアプリで収集したデータを、大学経営に活かす取り組みを今後増やしていくとともに、生成AIなどの最新技術を取り入れたシステム開発も検討中です。

まとめ

自社でプロの開発者を確保することは容易ではありません。そのため、香川大学の事例をそのまま自社のDXに取り入れることは難しいかもしれません。しかし、外部ベンダー企業との協働を通じて、香川大学が実践したようなフュージョン開発体制を構築することは可能です。

業務改善に必要なノーコード・ローコードツールを用いたシステム開発は、人事や経理、総務といった非エンジニアの事業部門(いわゆる市民開発者)に任せることができます。そして、社内の情報部門や外部ベンダーのサポートを受けながら、検証からリリースまでを自社内で完結させることが可能です。一方、コアとなるシステム開発は、社内の情報部門(プロ開発者)が担当し、必要に応じて外部ベンダー(ITプロフェッショナル)への依頼も検討する必要があります。

ただし、システムを導入するだけではワークスタイルを変えることはできません。業務の振り返りを行い、社員自身が業務改善に取り組み、自らの手でワークスタイルを変革していくことが大切です。

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