事例

直接介護時間17%増を実現―福祉施設が進めるアナログに寄り添うデジタル改革

特別養護老人ホーム「サンライフ御立(みたち)」で、アナログな介護業務に寄り添う形でのデジタル改革を実現した結果、直接介護時間の17%増に成功した、社会福祉法人ささゆり会の事例をご紹介します。

段階的なデジタル化への歩み

兵庫県姫路市に本部を置くささゆり会は、阪神淡路大震災を機に1995年に設立された社会福祉法人です。ささゆり会が運営している施設の一つ、サンライフ御立は長期入所、短期入所(ショートステイ)、通所介護(デイサービス)、ケアハウスが利用できる特別養護老人ホームで、116名のスタッフが在籍しています。

2010年に最初の介護ソフトを導入して以来、2017年、2020年、2023年、2024年と、段階的にデジタル化を進めてきました。

アナログに寄り添うデジタル改革

生成AI「Mapify」で介護業界のDX化の課題をマッピングしてみたところ、4つの大きな障壁があることが分かりました。

アナログの作業を一気に全てデジタルに置き換えようとすると、紙の書類を使う作業に慣れている従業員からの反対にあってしまいます。ささゆり会ではデジタル化を進めるために、「デジタルがアナログに寄り添う」という姿勢を大切にしてきました。

そうした背景から、デジタル化を進めるために、「デジタルがアナログに寄り添う」という姿勢を大切にしてきました。

iPadなどApple社専用の端末管理ソフト(MDM)「Jamf Pro」を活用した、デバイスの一元管理を実施しています。iPad端末の管理を笹山博司氏が行うことにより、職員の端末設定負担を最小限に抑えました。クラウド型介護ソフトには「CAREKARTE」を中心に導入しています。slackやgoogleを活用することで職員のコミュニケーションが密になり、災害時でも連絡が取れるようにしています。

デバイス操作に不慣れなスタッフでも、iPadを開いて、アプリのボタンを押すだけでよいという状態にしたことで、デジタルインクルージョンも実現しました。

非営利団体向けのテックスープジャパンのサービスを活用し、Google WorkspaceやSlackといったツールを無償で導入。管理者それぞれにアカウントを配布し、情報共有の基盤を整備しました。

介護施設では、利用者の写真を日々撮影していて、家族にも印刷して渡しています。しかし、デジタルに不慣れなスタッフが多いこともあり、撮影データの管理が非常に大変かつ煩雑で、パソコンの写真フォルダにひたすら蓄積されていきました。これをGoogleフォトでの管理に切り替えたところ、顔認証技術により利用者別の管理がしやすくなりました。iPhoneやiPadで撮影すると、自動で撮影日や場所のタグ付けがされるので、必要な写真がすぐに検索可能です。

クラウド型介護ソフトがもたらした変革

クラウド型介護ソフトとiPadの導入は、サンライフ御立での業務プロセスを大きく変えました。

従来は介護の記録に多くの時間が費やされていましたが、iPadで記録をしながら排泄介助や食事補助といった直接業務ができるようになったことで、介護記録にかかる時間を大幅に短縮。1人あたりの作業時間も10分~20分程度の短縮につながったことで、直接業務にかけられる時間が17%増加しました。なおかつ職員の業務負担も軽減できました。

「誰が最後に作業をしたのか、紙のチェックシートを見れば安心できる」という従業員の声に応えて、チェックシート(afterの画像右側)だけ運用しています。今後、チェックシートの廃止を目指しています。

介護にあてられる時間ができたことにより、介護の質も向上。利用者と過ごす時間や会話が増え、個々のニーズに応じたきめ細やかな支援が可能になりました。また、デジタル技術によるリアルタイムのデータ収集・情報共有も実現しました。最新機能や、セキュリティの迅速なアップデートも可能です。

今後の課題と展望

24時間365日体制で入所者を介護している特別養護老人ホームでは、人員配置基準を満たすことが求められます。そのために、非常勤の職員を雇用している介護施設も多くあります。一方で、そうした施設では常勤・非常勤、平日2時間だけ、土日だけといったスタッフの複雑なシフト管理が発生するので、ささゆり会では複雑なシフト管理の効率化に取り組む予定です。

介護業界では、介護従事者が年々減少しています。ささゆり会は地域の高齢者が安心して過ごせるよう、従業員の声を拾いながらも、デジタルツールの導入を通じて介護業務の効率化を推進していきます。

まとめ

ささゆり会の働き方改革は、アナログの業務を少しだけ残しながらも、従業員に寄り添う形でデジタル化を進めるというアプローチを採用しています。

近年、介護現場における労働生産性の向上は急務となっており、厚生労働省もその認識を示しています。介護業界では、3年おきに介護報酬改定が実施されています。2024年4月改定で、生産性向上を図る介護施設に対して「生産性向上推進体制加算」が新設され、介護業界のDX化はさらに加速していくでしょう。

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