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障がい者の可能性を拓くAIアノテーション事業 – 社会福祉法人太陽の家の挑戦

AIやロボティクス技術の発展に伴い、部品製造などの単純作業の自動化が加速しています。それは、障がい者の就労機会の減少につながる懸念があります。こうした中、障がい者自身がAIの開発に携わることで、新たな雇用の可能性を切り拓こうとしているのが、社会福祉法人太陽の家です。

同法人は、摂南大学と連携し、AIの教師データ作成をする「アノテーション」の分野で、障がい者が活躍できる体制の構築を進めています。障がい者が最先端のAI研究に主体的に関わり、創造的な就労の機会を得られる。その先進的な取り組みの背景と展望について、太陽の家ICT推進担当の曽川稔氏に話を聞きました。

背景: 「働く選択肢の縮小」という危機感

太陽の家が、AIアノテーション事業に乗り出したのは、テクノロジーの発展に伴う「危機感」があったからだと曽川氏は言います。「ロボティクスやAIの普及により、障がい者が担ってきた部品の組み立てなどの単純作業が自動化されつつあります。働く選択肢の縮小は、障がい者の自立を阻む大きな課題になると感じていました」。

一方で、AIの普及は「新たな就労の可能性」も示唆していました。AIを学習させる大量の教師データを人の手で作成する「アノテーション」の需要が高まっているのです。「障がいを持つ方にこそ、アノテーションは適した仕事ではないか」。そう考えた太陽の家は、摂南大学との産学連携で、その実現に動き出しました。

実践事例の紹介: 障がい者が創る「社会に必要なAI」

アノテーションの具体的な作業としては、例えば画像に写った物体の輪郭に印を付ける、動画内の人物の姿勢を検出するためのデータを作るなど、多岐にわたります。太陽の家では、これらを口マウスやトラックボールなど、障がいの特性に合わせたデバイスを活用しながら行っているそうです。

また、骨格の検出AIについては「ヘルスケアにおける姿勢や筋バランスの評価、まちづくりにおける人流調査などさまざまな場面で役立てられるのでは」という声が上がっています。当事者の視点から社会に必要なAIを考える機会にもなっているそうです。

アプローチ: 創造性を発揮できる環境づくりがカギ

アノテーション作業は企業からも受託をしています。それをもとにAIが作成され、摂南大学の研究論文の謝辞には、太陽の家の障がい者の名前が記載されるなど、社会的な承認も得られつつあります。

「ただ、私たちが目指すのは、障がい者が受け身の作業をするだけではありません」と曽川氏。「自ら仮説を立て、クリエイティビティを発揮しながらアノテーションに臨める。そんな創造的な就労の場を作ることが重要だと考えています」。

そのために、太陽の家では、障がい特性に合わせた柔軟な働き方を推奨。体調管理を最優先にしつつ、一人ひとりが能力を存分に発揮できるような配慮を重ねています。また、大学との連携により、障がい者と学生とが対等な立場で議論を交わす場も生まれているそうです。

課題と克服: 持続可能なビジネスモデルの確立へ

一方、アノテーション事業を継続的に行っていくためには、安定した受注を得られるビジネスモデルを築くことが欠かせません。。

この点については、法人化して仕組みやノウハウを蓄積、提供していくことによって、持続的な取り組みを実現する考えです。また、アノテーションの作業実績を障がい者の新しい能力指標として活用するなど、就労支援にも役立てられないかを模索中だそうです。

「AIで障がい者の可能性を拡げる」。太陽の家の挑戦は、障がい者の働き方そのものを問い直す取り組みへと進化を遂げようとしています。

まとめ: 「チャンス」を生み出す挑戦に期待

太陽の家の取り組みは、AIという新しいテクノロジーの活用により、障がい者の就労の選択肢を広げる可能性を示しています。障がいの特性を生かした働き方を実現し、創造的な活躍の場を拡げていく。そうした挑戦は、障がい者の社会参画における新たな道筋を示すものと言えるでしょう。

「”Charity(施し)”ではなく”Chance(機会)”を」。太陽の家が掲げるこのメッセージには、障がい者が助けられる存在ではなく、社会を支え、価値を生み出す当事者として活躍する。そんな未来への期待が込められているように思えます。

AIの活用は、障がい者の潜在的な能力を引き出し、その可能性を花開かせるカギとなるのかもしれません。誰もがその個性を存分に発揮できる。そんな「インクルーシブな社会」の実現に向けて、太陽の家の挑戦から目が離せません。