日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。2022年6月21日に行われた「中小規模法人部門」より、株式会社八芳園の事例をご紹介します。
株式会社八芳園は、ブライダル事業のほか、企業向けのパーティー、イベント実施など社会に貢献する総合プロデュース企業として成長してきました。ホスピタリティ業界の社会的地位の向上という夢のもと、DX推進を行っています。その背景と成果を紹介します。
株式会社八芳園の概要
■法人名:株式会社八芳園
■事業内容:
結婚式場・宴集会場・各種パーティー会場・レストランの運営、DX推進サポート事業、
オンライン配信事業、フード配送事業、地方自治体との連携によるプロデュース事業ほか
■設立:1952年9月29日
■公式Webサイト:https://www.happo-en.com/
シュリンクする業界―ブライダル業界の厳しさ
当社は創業79年目を迎え、老舗の結婚式場として知っていただける機会が多い会社です。
ここ6、7年は 企業様向けのパーティー、イベントを実施したり、東京2020大会における一般社団法人ホストタウンアピール実行委員会の主観企業を務め、全国の自治体のホストタウン活動を支援したことをきっかけに自治体プロデュースなども取り組みをさせていただいております。
「ホスピタリティ業界の社会的地位の向上」という夢のもと、DXを推進しています。
いわゆる業界の大きさを表した「市場規模マップ」というものがあり、1990年時点で、
我々ブライダル業界は2.7兆円ぐらいの規模でした。個人向けECサイトとだいたい同じくらいの規模だったと言えます。
それが、2020年になると成長産業がだいぶ減りました。
これは、いわゆる成長産業がなくなっていることを表しています。その中で、1990年時点で我々と同じぐらいの市場規模だった B2C-ECは4倍以上に大きく膨らんでいます。
その一方、我々のブライダル業界はと言うと、20%ぐらいダウンしました。コロナ禍で結婚式の延期・キャンセルは20万組も発生し、1兆円規模の喪失でした。またコロナ禍以前から人件費の高騰や、婚姻率減などの影響も受けています。
ではその中で、八芳園が何に取り組んできて、どのような結果を出したかというのをお話しさせていただきます。
結果を出すために重要な役割を果たしたDX推進
結果を出すために重要な役割を果たしたのが、DX推進です。
DXには、「盾(守り)」と「刀(攻め)」があります。「守り」とは、自社でコントロール できる生産性の向上など。一方「攻め」とは、顧客中心の変革、つまりお客様にどうインパクトを与えるかという視点です。この2軸で、我々はDX推進を進めてきました。
一番初めに、営業赤字だったので「攻めのDXを導入しよう」として、SFAやMAツールを
導入したのですが、見事なまでに失敗しました。まったくうまくいかなかったです。
理由としてはやはり、デジタルリテラシーがあまり高くない業界だったこと、あとは、
「デジタルをどう活用するか?」ということばかりで、大切な「イノベーションを起こす」というのが置いてかれてしまっていました。
そこで、ちょっと気を取り直して、我々は取り組みを変えました。
まずはやはり、「守り」です。積み上げが大切だと思い、社員が身近に使うチャットツールの導入をしたり、まずはデジタルリテラシーを上げるところから行って、その後に「攻めのDX」を展開してきました。
今では、MAツールやCRMツールも導入・活用しています。
皆さんにお伝えしたいポイントは、まずはデジタル地盤をしっかりとしていかなければ、
営業で利益が出るような「攻めのDX」はできないということです。
チャレンジとその結果
DX推進の成果として、2019年10月と2021年11月では、
■人件費:12%ダウンコスト 15%ダウン
■利益:40%UP
■利益率:3.1%UP
という数字が出ました。
もちろんスタッフの頑張りもあるのですが、デジタルの効果は如実に出ました。
2年以上前から取り組んできた内容が、徐々に結果として現れたと思っております。
また、DXのその先には、我々が一番大切にしているお客様と向きあう時間への余裕が
生まれ、よりホスピタリティの充実に目を向けることができています。
未来へのアプローチ
2020年7月に、DX推進室を本格的に立ち上げました。
その後、クラウドサービスをいろいろと導入しました。ただし、クラウドを導入するのが
目的ではありません。複数のクラウドをつなげていくことによって、生産性が上がることが分かりました。「攻め」も「守り」もできるツールもあります。ツールを互いに連携させるイメージを描きながら導入していくことが大事です。1個ずつにこだわりすぎると、「1個入れたからいくら安くなったの?」という発想に陥ってしまいます。そうではなく、いかに互いに繋げていって、絵(ビジョン、イメージ)をどう描くか、文化を変えていくことが大切です。
さらに我々は、DX事業も立ち上げ,、今ではDXコンサルもさせていただいております。
八芳園が実際に取り組んできたことが、ブライダル業界だけでなく、多くの企業様のお役に立てればと思っています。
「WE ROOM」というオンラインイベントプラットフォームもロンチしました。
我々の業界内で、こういうシステムを作るというのは珍しい取り組みです。結婚式場だけではなくて、いろんな企業様にも取り扱って頂けるオンラインイベントプラットフォームで、いわゆるテレビ電話やweb 会議とは少し違って、ルームの中を自由に行き来できる等の特徴があります。
もう一つサービス開始させていただいたのが、DXコンサル「SOLVE EIGHT」です。
自分たちがDX推進の中で苦労したことを活かし、中小企業のDX推進に対して相談・助言できるのではないかと思い、提供を開始しました。どうしても「DXの相談」と言うと、デジタル分野に長けた人や、 IT業界の人が出てきます。しかし我々のようにリアルでサービス・
おもてなしをエンドユーザーに届けている、ラストワンマイルが分かる、苦労が分かる方というのはなかなかいないと思っています。このコンサルサービスは今いろんな方に注目をいただいて、ブライダル業界の方だけでなくて、複数の中小企業の方にお声がけいただけるまでになっております。
まとめ
DX推進する上で大切な考え方としては、短期で考えるのではなく、複数年、中期で考えることです。そして「一個のクラウドサービスの導入」ではなくて、複数で考えることも大事です。
たった1個の取り組み導入で、何か短期間に結果を出そうと思うと、なかなか推進・継続していけません。短期ではなく、中期で事業を考えていく中でイノベーションを常に意識して、変革を起こしていくと、推進できるのかなと思います。
結果論で良いと思います。 「イノベーションを起こしたいので、デジタルを武器にしてDXを推進する」「短期で考えるのではなく、中期で考える」この2点が大切です。
あれこれ考えるよりは、まずは一歩踏み出す事も大切です。