連載・コラム

中小零細企業・個人事業主の「デジタル化」を成功させる秘訣

前回の事業戦略ニュースで郵便法や電子帳簿保存法の改正、来年10月に迫るインボイス制度の開始の果てに問答無用で進めざるを得なくなる「経理のデジタル化」の必要性について記しました。

その後、2022年1月から改正予定だった電子帳簿保存法の罰則について国税庁が課す要件が厳しいと各所から異論が噴出し、2年間施行が猶予されたものの対応準備をしてきた企業の4割が、改正法対応の延期をしているといわれます。

実際に私どもの支援先の中小零細企業・個人事業主をみると法改正への認識は約8割。そのなかで対応できているのは2割弱。この2割弱の企業に診られる傾向に、世代交代(たとえば社長だった父親が会長に、息子だった専務が社長に・・・というような代変わりのようなこと)があります。世代交代は、積極的な「デジタル化」のベストなタイミングとみて良いようです。今回は、中小零細企業や個人事業主でも「デジタル化」をスムーズに推進できるのかを考察していきたいと思います。

創業者(父親、会長職)と息子(社長)が営む企業にて「デジタル化」を支援した事例があります。この企業は会長が「国産精密機器部品」を取り扱う本社兼卸売り店舗を取り仕切り、社長は、「輸入精密機器部品」を取り扱う物流センターを取り仕切るという構図でした。

会長は創業当初から「販売至上主義」で在庫管理等の経理に関心がありませんでした。辣腕の「税務調査官が匙を投げた」というエピソードがあります。

実際の経営も、棚卸が曖昧で、利益が出ているのか損失が出ているのか判然としません。財務を誰も把握できない事態に気づいた社長(息子)は、せめて正確な損益を把握したい、海外からの部品の在庫管理は徹底したい思いを抱え私どもに相談がありました。

社長の思いを端的に言えば、創業当初からの「どんぶり勘定的」なアナログな財務を、在庫過多や販売機会の損失を防ぐために「デジタル化」したいという内容のものでした。

指導の結果は素晴らしいもので、DX化は成功し、社長(息子)の思いは叶いました。国産精密機器部品を取り扱う本社兼卸売り店舗の適正な在庫管理も実現しました。 加えて業界においては「老舗」というブランド力と注文に対する的確かつ迅速な対応が評価され今でも実績を伸ばしております。

この事例で注目すべき点は
①すべてを管理するためのシステム導入によるデジタル化ではなく社長自身の目の届く範囲からのシステム導入によるデジタル化からスタートさせた
②デジタル化を進めるうえで非正規社員でも操作・入力・管理できるまでに仕組みづくりをあわせて導入するシステムを簡略化したこと、の2点にあると思っております。

つまり中小零細企業や個人事業主においてデジタル化を実現しようとする際に必要なこととは、会社全体の仕組みを一気に変えようとするのではなく優先順位を決めつつ「できるところから」「自分の指示できる(目の届く範囲)から部分的」にシステム導入しデジタル化をおこなうことが成功の秘訣なのだ、と考えます。

システム導入の際によく勘違いしがちなのは「システム導入したら会社全体の生産効率が上がる」というシステム会社の営業トークを盲目的に信じてしまうことです。その結果、IT導入によって会社全体が短期的に効率化を図れるという夢のような成果や過剰な期待を以ってしまう経営者や担当者が少なくないことです。

また、デジタル化を図るうえで新たな仕組みやシステムの導入を行う際に、どうしても抵抗する世代や派閥など、対抗する勢力が生じることもあります。「デジタル化」を目指す経営者や担当者は「抵抗勢力」の存在も意識する必要があります。

つまり「対立が想定される相手」の意識をどこまで中和化しつつ、デジタル化を試みる経営者や担当者主導ですすめていくことができるかが成功のカギではないかと思うのです。 税制改正も発表され、来年度の予算も決まり国の施策は「デジタル化」にますます加速している昨今、「当社ではデジタル化なんて・・・」とあきらめている企業に対し、このような支援をひきつづき筆者もNPO東日本の活動としても継続していきたいと考えております。

執筆者

高巣 忠好氏
認定経営革新等支援機関NPO東日本事業支援機構 理事長
http://npo-east.jp/

1971年生まれ。愛知県豊田市出身。
時計・輸入雑貨量販店・ベンチャー系卸売会社・輸入卸売会社に勤務。チーフマネージャーを務め、コンサルティングファームに転職後独立。
「過去を否定せず、時流に合った方針・計画に書き直す」=アットリライトを理念として中小企業の経営改革支援や事業承継、事業再生の指導を実践している。
認定経営革新等支援機関NPO東日本事業支援機構[関財金1 第145 号] 事務局長

【コラム提供】
BFCA 経営財務支援協会
http://kaikei-web.co.jp/