日本における輸出入は全体でおよそ140兆円にも登る巨大市場です。それを支えているのが、輸出入のコンテナ物流業。しかし、物流業界は長らくアナログで非効率な業態で、長時間労働が常態化していました。吉田運送株式会社は、その現状を変えたいと、コンテナラウンドユースを活用することで、コンテナが空の状態での陸送を劇的に減らすことを発案。業務効率化を低コストで行うために、無料で使えるGoogleクラウドシステムを活用した輸送の仕組みを「身の丈DX」として考案します。そして、Googleフォームやスマホカメラ、GoogleマップやGoogle翻訳を利用した業務効率化で、事務オペレーションにおいては1 年あたり 792時間、トラック輸送については、1 年あたり 2640時間の削減に成功。現場からも活発にDXへの意見が上がる環境を作り上げました。日本の物流の未来をアップデートしたいという大きな構想も、まずは身近な取り組みから始まるという好事例です。
吉田運送株式会社
所在地:茨城県坂東市半谷224-15
設立: 1973年8月
事業内容: 一般貨物運送事業、コンテナラウンドユース事業、コンテナデポ運営、コンテナ販売
従業員数:70名
https://www.yoshiun.com
コンテナラウンドユースとは

まず「コンテナラウンドユース」について解説しましょう。
これまでの輸入コンテナ輸送は、港に到着した後に目的地までコンテナを運び終わると、戻る時は、中身が空のコンテナを運ぶことが当たり前でした。逆に、輸出コンテナ運送の場合もそうです。工場から港へ製品を輸送し、再び製品を取りに行く時は、やはりコンテナが空の状態で移動していました。つまり、帰り道はコンテナが空だったのです。
コンテナラウンドユースでは、輸入用に使った「中身が空になったコンテナ」をいったんインランドデポに集めます。それを輸出用に転用してから、輸出工場で荷物を集荷して港に持ち込みます。逆に、輸出の時は輸入用に転用して港から荷物を回収します。
輸入輸出双方で、積荷をして陸送することで荷物あたりの走行量が削減できるシステムです。

コンテナラウンドユースを用いて、コンテナが空の状態での陸送を劇的に減らすことで、コストの削減や CO2の削減、業務効率の向上など様々なメリットが生み出せます。日本全体の物流効率化の希望の 1つが「コンテナラウンドユース」であると当社は考えております。
無料クラウドサービスの活用によるDXへの取り組み

当社ではコンテナラウンドユースのさらなる効率化を目指し、無料クラウドサービスの活用による DXに取り組んできました。
自社システムの構築も検討しましたが、導入コストや維持管理コストがかかるほか、他社との連携が困難であることが分かりました。そこで、低コストであるGoogleの無料クラウドを活用をして身の丈 DXを行うことを思い立ちました。
身の丈DXプロジェクト取り組み開始

まずは、代表である私が、企業向けGoogleサービス活用講座にて一年間学びました。この学びを元に、幹部クラスと活用法について検討を重ね、使用方法を検討し実施。最後に、各従業員クラスや外部取引先に落とし込みを行い、身の丈 DXの活用体制の構築を進めました。
実際の活用事例

船会社との連絡事項については、これまでは FAXのやり取りが中心でした。
この部分を、Googleスプレッドシートでの情報共有へと業務フローを変更。運送依頼者である荷主や、ラウンドユースで陸送を担当する運送会社との連絡は Googleフォームを活用しました。

Googleフォームでの簡単な入力フォームを提供することで、協力会社にもほぼ 100%無理なくご利用いただけています。こうしてクラウドを介した迅速正確なやり取りが実現しました。

さらに、積荷場所、目的地、荷物の内容などのデータを蓄積し、Googleマイマップで可視化。
それまで、大手の船会社でもできていなかった、大陸でのコンテナの動きを見える化しました。

管理ドライバーの手間を最小化したオペレーションを徹底しています。
具体的な流れとしては、ドライバーとの伝票のやり取りは、コンテナに貼り付けられた伝票をドライバーがスマホで撮影し、Googleドライブにアップ。当社オペレーターはその写真データをOCR変換によって読み込みます。Google翻訳も併用しつつ、データベースに記載します。
こうした業務効率化の影響は、当社だけに留まりません。関係各社も業務効率化になり、それによる港の混雑緩和や残業の削減など、働き方改革にダイレクトに繋がっていきました。
具体的な時間の削減

具体的に、どれだけ業務効率が向上されたか見てみましょう。
事務オペレーターと、現場のコンテナをハンドリングするスタッフとの間の業務におけるクラウド化で、現場と行き来する実伝票の受渡し時間が1日当たり0.5時間削減されました。
これは、1ヶ月で11時間、さらに1年で132時間に登ります。これは1名当たりの時間です。

事務所を中心としたクラウド化による、全体の業務効率化による労働時間の短縮は 1年あたり 792時間の削減となりました。

さらに、港湾事業者との連携でクラウド化されたコンテナ搬出入の時間は、1年あたり 264時間です。 1日にコンテナヤードに行く車両数は10台なので、1年あたり 2640時間の削減に成功したことになります。

成果は、数字に現れるものだけではありません。当初はトップダウンで始まった身の丈 DXですが、今では現場の方からボトムアップで「このアプリを使ってもっとこうしたらどうか」と改善案が上がってくるようになりました。これも大きな効果と捉えています。

物流の効率化といえば、巨大な物流倉庫や船会社の施策などに注目が集まりがちです。しかし、それらをつなぐ重要な歯車の 1つとして、各地に点在するインランドデポを忘れてはいけません。
当社としては、今回の発表を 1つのきっかけとして、会社の規模は関係なく展開できるこれらのノウハウをパッケージ化し「身の丈DX」としてを広めていきたいと考えております。
港の混雑緩和や、輸送効率化による CO2の削減、女性も男性も共に活躍できる職場環境を作ることからの働き方改革、海上コンテナを有効活用した防災倉庫などスマートな街づくりへ、SDGsにも掲げられた項目に対しても、大きく貢献していきたいと考えております。
そして何より、各地に点在する内陸港であるインランドデポのアップデートに貢献すること。それが、ひいては日本の物流自体をアップデートすることだと当社は信じております。
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