全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。2022年10月12日に行われた「関東・信越大会」より、製造業の受発注業務のデータ化・クラウド化に関する株式会社ウイングの取り組みと成果をご紹介します。
株式会社ウイングの概要
■法人名:株式会社ウイング
■事業内容:コンピュータシステムの導入提案・コンサルティング・開発・運用支援
ソフトウェアサービスの企画開発・販売・運用支援
AI、IoTなどDX推進支援
■設立:1991年5月
■公式Webサイト:https://www.weing.co.jp/
新潟・燕の金属加工業が抱える課題
金属加工業が盛んな街・新潟県燕市では、製造業を中心に受発注などの企業間取引業務のDX化を進めるべく、自治体主導でクラウド型のWeb-EDIサービスを構築、今年4月から本格的にサービスを本稼働させました。
弊社は今回ご紹介するクラウドサービスの開発と運用を担当しています。本日は、このクラウドサービスに関する取り組みをご紹介します。
新潟県燕市は、高度な金属加工技術が集まる日本有数のものづくりの街として知られています。スプーンやフォークの国内生産量は95%以上のシェアを誇り、ノーベル賞の晩餐会でも採用されるなど世界的に品質が評価されているほか、フライパンや鍋、包丁、ザルやボール、その他、樹脂性しゃもじなどあらゆるキッチン用品の主要産地となっています。
燕市では、一つの製品を作り上げる上で、複数企業が各専門工程を担当する「分業体制」が古くから確立されています。具体例としてザル製造の流れについてご説明します。製造にあたり、まずは商社から製品メーカーへ注文が行われます。すると製品メーカーは各専門分野の加工メーカーに対して材料の調達や、部品加工などの発注を行っていきます。また、受注した加工メーカーから、さらに別の加工メーカーへの発注が行われ、場合によっては「孫請け」「ひ孫請け」となる場合もあります。加工され、組み立てまで完了した商品の洗浄・包装についても、また別の業者に発注を行って最終的に工程完了となります。
このような分業体制によって商品開発や生産体制の変更が容易であること、小規模でも専業化による技術進歩が可能であることなど、変化に強いメリットがあります。
しかしその一方で、多くの企業間取引が必要となるデメリットがあります。それに伴う業務は現在でもFAX・電話などのアナログ手法が中心です。従業員は紙の帳票作成、FAX送受信、電話問い合わせ対応などの作業に、膨大な労力を費やしている現状があります。
今後将来的にさらに少子高齢化が進み、労働人口が減少していくことが予測される中で、各企業が事業を継続していくためには無駄な業務を省き、今まで以上に社員一人一人の生産性を向上させることが課題となります。
課題解決のためには一つ一つの企業がそれぞれ単体でDX化に取り組むだけでは限界があると考えました。

地域全体が一つのクラウド上につながることができ、受発注などの企業間取引業務をリアルタイムでデータ交換できるシステムの構想が生まれました。
燕市ではこれまで製造業全体のデジタル化が思うように浸透していなかった現状を踏まえ、各企業がより安心して新しい取り組みにチャレンジできるよう、自治体主導で産学官金が連携して「燕市IoT推進ラボ」を立ち上げ、プロジェクトを推進してきました。
この構想をもとに開発したのが「Smart Factory Tsubame Cloud(通称SFTC)」です。当初の構想から約3年かけて構築を行い、2022年4月からサービスの本格稼働を開始しました。
企業間取引のDX化
SFTCは受発注や、製造進捗、入出荷情報をクラウド上でデータ管理し、企業間でのリアルタイムな情報共有を実現するクラウドサービスです。SFTCを活用いただくことにより、企業間取引業務のDXを推進し、帳票作成・管理、FAX送受信、電話問い合わせなど、既存アナログ業務の作業時間の削減効果が期待できます。
加えて、各企業で活用される業務システムなどと汎用的にデータ連携できますので、取引情報を自社のシステム上に手入力で登録する手間・入力ミスも削減できます。またデータ化によってこれまで企業間でやり取りされていた様々な帳票のペーパーレス化を推進できます。
クラウド上にデータが蓄積されていくため、過去の取引情報も容易に検索でき、取引先に対してのみならず自社での情報共有にも効果的で、業務の属人化を防ぐ効果も期待できます。
またSFTCはクラウドサービスですのでインターネット接続環境さえあればどこからでも利用でき、テレワーク推進効果も期待できます。
このようにSFTCを活用いただくことで、これまで以上に自社のものづくりに対してリソースを集中できる環境となるため、生産性向上や付加価値創造につながっていきます。
受発注業務に係る時間を約7割カット
続いて、このSFTCを構築・運用するにあたっての、これまでの燕市の「IoT推進ラボ」の取り組みについてご紹介します。
まずSFTC構築にあたっては「燕市IoT推進ラボ」の会員である、調理器具などを販売する製品メーカーさんや材料屋さん、加工屋さんなど、合わせて5社の企業様にご協力いただき、毎月の定例会などを通じて現場の方々のご意見・ご要望を反映させながら必要な機能の検討・開発を進めていきました。
こうして構築されたSFTCを利用した実証実験では、各参加企業での受発注取引業務に係る作業時間が平均して約7割削減、という結果が得られました。
加えて導入企業様からは、サービス導入以降、これまで属人化していた業務のやり方や様式が社内で統一されたことで社員同士のダブルチェックが行えるようになり、作業ミスが削減されたという声や、毎月1000枚もの大量の伝票を取引先とやり取りされていたという企業様からは、ペーパーレス化によるコスト削減の効果を実感しているといった声もいただいております。
まだサービス導入されていない企業様に向けて、燕市では導入経費の一部を補助する制度を整備するとともに、定期的にセミナーを開催するなど、サービスの認知度向上や、新規導入の後押しをする取り組みを行っております。
今後の展望
最後に今後の展望をお話ししたいと思います。
まずは、導入企業数の増加による利用メリットの増大です。導入企業数が増えて、クラウド上でつながる企業数が増えていくと、企業間取引業務のDX化が進むこととなり、生産性向上のメリットが増大していくことが見込まれます。
現時点での導入企業数は7社ですが、まだサービスを導入されていない企業様に向けて今後働きかけを行い、製造業全体のDX化生産性向上を目指し、自治体が中心となって引き続きプロジェクトを推進していきます。
そして、サービス機能のさらなる拡充も目指しています。今後も随時、導入企業様からのご意見・ご要望を反映させていくとともに、クラウド上に蓄積されていくデータに対してAIを活用して需要予測を行ったり、各企業様の製造実績データを企業間で共有し、生産計画の策定などに役立つ情報として見える化するなど、取り組んでいきたいと考えております。
これまでのアナログ業務では把握しきれていなかった情報を可視化することで、さらなる業務改善に役立つようなプロダクトをお届けできるよう、引き続き努めてまいります。
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