全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。2022年10月12日に行われた「関東・信越大会」より、製造業のDXに関する東邦工業株式会の取り組みと成果をご紹介します。
東邦工業株式会社の概要
■法人名:東邦工業株式会社
■事業内容:製品設計(請負及び派遣エンジニアリング)
射出成形金型の設計・製作/成形/塗装/印刷/組立
■設立:1960年4月
■公式Webサイト:http://www.toho.ne.jp/
固定電話を廃止、社内の文化・習慣を変える
東邦工業株式会社は群馬県安中市に本社工場を持つプラスチックの受注製造工場です。プラスチック製品の製品設計から金型設計・金型製造・射出成形・塗装・組み立て・出荷まで一貫した製造を行っています。従業員数は約150名、年間売上規模は約30億円です。
弊社は2020年に社長号令のもと、社内のコミュニケーションとコラボレーションの加速を目指し、デジタル化に舵を切りました。本日は弊社の取り組みをご紹介させていただきます。
こちらは弊社の生産管理部のオフィスです。 デスクには、電話がありません。

2020年、デジタル化に踏み切った際にまず行ったのが、社内に150台ほどあった固定電話を なくすことでした。現時点で、10台程度はまだ残っていますが、今ほとんどの社員が会社貸与のスマートフォンを持ち、業務に使用しています。
品質会議では、 製造部長が製造課長から、成形状況のデータをスマホで確認しながら説明を受けています。製造記録や日報なども、紙ではなくクラウド上にデータとして格納され、 スマホやPCでリアルタイムに記入・変更・確認が可能になっています。
会議にも、紙は必要ありません。 皆、PCかスマホ一つで参加します。
ではなぜ、このような働き方ができるのでしょうか?
東邦工業において、スマホは単なる携帯電話ではなく会社の内線電話として機能しています。社員が常にスマホを持ち歩く環境を作ったのです。それに追従して、業務データ入力・確認さらには社内申請書などの業務系処理を、デジタル化することができました。
もちろんこれらのデータ・書類はクラウドサービス上に格納されていますので、スマホでもパソコンでも同一のデータを扱うことが可能です。
製造ラインではデジタルサイネージを活用
しかしこうなると、製造業では問題が出てきます。普段PCを操作しない、現場作業に従事している社員は、情報から取り残されてしまうのです。
弊社でも、これが課題でした。
そこで、事務所や工場内の各所に大型ディスプレイを設置し、そこに必要な情報を表示するようにしました。社内ではサイネージと呼んでいます。顔を上げればそこに情報がある、デジタルのホワイトボードを設置したわけです。

場所により表示される情報はさまざまですが、すべての情報がリアルタイム表示で、同じ情報をPC・スマホでも確認できます。
このように、コミュニケーションの基盤だった固定電話をスマホ化し、そこに必要な、デジタルデータ化された情報を載せる。その情報は、スマホ・PCを持たない社員でも確認できるよう、サイネージで表示する。
このようにして東邦工業は、電話と紙のないオフィスを作り上げてきました。
高額な基幹システムは導入しなかった
しかし、ここで皆さん思われるでしょう。 「業務データをクラウドで扱うには高額な生産管理システムなどの基幹システムが必要で、それはうちには無理だよ」と。弊社もそこにハードルを感じましたし、 実は現在でも、最新の生産管理システムなどは導入していません。
ではどのようにして、このような働き方が可能になったのでしょうか?
東邦工業で採用したシステムは、たった3つです。

まずはKDDI「ビジネスコールダイレクト」です。これはauスマホを内線化するサービスです。スマホ同士を5桁の内線番号でつなげるだけではなく、会社代表にかかってきた電話をスマホに転送したり、スマホから会社代表電話を受けたり・かけたり、といった対応が可能になります。
社内をデジタル化するにあたり、いつでもデジタルデバイスが手元にあることが非常に重要です。入力・確認が可能なデジタルデバイスが手元になければ、結局紙にメモするステップが間に挟まり「メモ用紙に書くなら、そのまま書類に書けばいいじゃない」とデジタル化の妨げになってしまうのです。
そのため、業務に欠かせない内線電話をスマホに置き換えることで、デジタルデバイスが常に手元にある状態を作り出しました。
そして同時に「Google Workspace」を導入しました。 Google社が提供するクラウドサービスで、メールやクラウドストレージのような基本機能から、スケジュールやチャットなどのグループウェア、スプレッドシートにドキュメント ・スライドなどの業務系アプリ、Web会議を行うMeetなど、基本的な業務に必要なサービスがオールインワンで提供されています。
導入・管理もGoogleアカウント一つだけなので、専任管理者を設置できない中小製造業にもぴったりなサービスです。
「クラウドにデータを格納するって、セキュリティは大丈夫なの?」と感じる方も多いと思いますが、Google WorkspaceはISO27001、ISO27017、27018といった高度な規格を取得していますし、 何よりも世界の名だたる企業が採用している実績もありますので、弊社も安心してサービスを利用しています。
Google Workspaceの最大の特徴は共同編集です。クラウド上にある一つのファイルを複数人で同時に共同編集できます。そのため、特別なシステム導入が不要で、それぞれの部門が管理する数字情報を一元化できます。たった1枚スプレッドシートを用意する、ただそれだけです。
弊社では、売価を管理する営業、材料管理をする購買、生産管理をする生管、人を管理する製造など各部門が持っている数字を集めて、いつでも製品に関する数字を最新に更新し、保つことができるようになりました。

そして3つ目の仕組みが「Zeit(ツェイト)」です。
Google Workspaceの機能を拡張すると同時に、ワークフローなど、GoogleWorkspaceにはない機能を実現してくれます。 製造ラインのサイネージ表示も、Zeitの機能をベースにしています。

特にワークフローはスマホとの併用でかなり効率化でき、現在弊社では稟議の決裁に2日以上待つことは稀です。決裁された稟議書は自動的に経理担当者にも配布されるので、請求書の詳細を毎月確認する手間もなくなりました。
また、製造業には欠かせない改善提案もZeitでデジタル化できました。2021年度は年間322件の改善提案が提出されました。これは月平均28件と、社員数に対して非常に多く、Zeit導入前の3倍の数になりました。Zeitは単に業務を紙からデジタルに変えただけではなく 構造改善の活性化という大きな効果をもたらしてくれました。
社内のデジタル文化形成に成功
弊社は大きな投資による基幹システム導入でデジタル化したのではなく、効率的に成果を出せるクラウドサービスと、その サービスを使える環境を構築することで、社内のデジタル文化形成を果たしました。
実際イニシャルコストは電話装置やネットワーク改修など数百万程度であり、クラウドサービスのコストも年間300万円程度です。
年間300万と聞くと「高い」と感じられる方もいらっしゃると思います。しかし弊社社長は「年間300万で新卒を一人採用しても、これだけの効果は出せない。つまり、この300万円は安い」と述べています。確かに、新卒社員1人が改善提案を年間で300件出し、会社を良くしていくことは不可能ではないでしょうか?
クラウドサービスの導入により、東邦工業は以前に増してより良い工場になりました。単にペーパーレス化・デジタル化するのではなく、会社そのものを変えることができました。
社内で、紙ではなくPCやスマホを使って仕事をする文化が芽生えてきたことを活かし、今後は基幹システムのクラウド化も進めていきたいと考えております 。
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