全国中小企業クラウド実践大賞は、クラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化したモデル事例のなかから、コンテストにより優れた取り組みに対して総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞等を贈るコンテストです。
2020年11月18日に行われた岡山大会より、株式会社スターメンテナンスサポートの事例をご紹介します。クラウド導入に懐疑的だった上層部へ業務効率化を訴え、社員向けのマニュアル作成なども行ってシステム化。当初の目論見であった業務効率化を達成し、働き方改革を成し遂げるとともに、営業スタイルの変革によりコロナ禍において過去最高益を達成した事例です。社員数が少ない中、導入検討と社内提案、社内の定着化および運用中の機能改善など一連の流れを担当することで、一気通貫のシステムを作り上げました。
株式会社スターメンテナンスサポートの概要

■法人名:株式会社スターメンテナンスサポート
■事業内容 :電気保安協会の運営、エネルギーマネジメント事業
■設⽴:2001年8⽉1⽇
■従業員数:12名
■公式WEBサイト:https://www.ecopu.net/
株式会社スターメンテナンスサポートは、中国地方で電気保安協会の運営をおこなう会社です。社員数は12名。工場やスーパー病院や学校にある高圧受電設備(キュービクル)の点検を外部のパートナーに外注しています。
売上高推移

クラウドサービスを導入したのは2017年の末。創業から20年分の過去データを入力し、徹底した営業管理と顧客管理を行うことで、コロナ禍でも過去最高の売上を達成しました。
また、事業拡張もおこない、現在の拠点は岡山・広島・中部(岐阜)の3拠点となっています。
導入当時は、クラウドの効果に対して「本当にできるのか」と懐疑的だった役員もおりましたが、2020年の今に至って「もしクラウドを導入していなかったら業績が下がっていたかもしれない」「導入して良かった」という評価も得ることができました。
なぜクラウド導⼊したのか
まず「なぜクラウドの導入に至ったか」「クラウド導入に当たって苦労したこと」などを解説します。
⾊んなところに情報が重複して存在

クラウド化する前は、様々なところに情報が重複して存在していました。
例えば、大量の Excel リストだったり、誰も見ない名刺の束や、とりあえずで収納されている書類などです。また、グループウェアや独自の保安管理システムもあったので、お客様へ見込み客のデータが散在している状況だったのです。
散らばってるだけならまだ良いのですが、データが重複して存在しているため、古い情報や未更新のデータが混ざっていたり、データ精度自体が信用できないものでした。
そのため、何度も営業リストを作り直していたのです。
データだけではなく、担当者の頭の中にしかない情報も多くて抜け漏れがあったり、周囲からもフォローのしようがないという、潜在的な問題もありました。
情報が散在していることによって、お客様への適切なアタックやフォローができずに解約が増加、毎月のようにリスト作り直しをする人件費などがかさみ、情報の散在が散財を生んでいたのです。
社員は一所懸命にやっているのですが、確実に事業成長の足を引っ張っていました。
あまりにも複雑な業務プロセス

もう一つの問題は、情報の散財によって生じた、あまりにも複雑な業務プロセスです。
この図は、クラウドツール導入時に棚卸した業務プロセスですが、顧客リスト、アポ取り、訪問というような段階ごとに、確認・参照する場所が非常に多い状況でした。
例えば、顧客リストは4つのリストにバラバラになっており、さらにアポ取りだけで4種類のデータをチェックしなければいけません。ここですでに8種類のデータ参照です。
しかもそれぞれのリストに入力が必要という、非常に複雑なものになっていました。
作業量が多くなると、業務に追われてしまい、お客様への提案タイミングを逃したり、接点を一年以上も持てていない既存顧客が存在したりといったように、攻め(新規営業)も守り(契約継続率)も、どちらもうまく行かない状況になっていたのです。
すべての顧客・営業情報をクラウドへ

そこで、全ての顧客営業情報をクラウドに一元化しようということで、これまでバラバラになっていた情報をまとめて「ここを見ればわかる」というという場所をつくりました。
使っているシステムはSalesforceの「Sales Cloud」です。Salesforce導入時に紹介して頂いた開発会社さんに希望を伝えて作成してもらいました。
この時点では、正直なところ営業的な成果がどうなるというのはわかりませんでした。
とにかく事務作業が効率化され、時間がこれだけ削減できるということを示し、年間で考えた時に十分ペイできるということで訴えました。
社員数が少ないなかで本当にできるのかという声もありましたが「何としてでもやります」と伝え、熱意で導入に至りました。
苦労したこと

導入については、ひとすじ縄では行かず、苦労したことも多いです。
ボトムアップというところについては「今のままで問題ない」「新しいものを入れても入力が増えるだけ」「投資してまでにしなくても」と渋る社員に対し、導入でどれだけ楽になるか明るい未来をイメージしてもらえるよう尽力しました。
担当者は決してITに明るいわけではない素人だったのですが、社員が運用に対して面倒に感じないように、データ入力やマニュアル作成などを一手に引き受け、スムーズに運用開始できる下地を作ったことが功を奏しました。その他の問題にも一つずつ向き合うことで解消へ。徐々に社員に向けて定着を図りました。
社内の定着状況
クラウド化の取り組みの結果、どのように社内で定着したかを見ていきましょう。
定着状況

まず、システムへのログイン率は役員も含めて100%を達成しました。
顧客/⾒込客データ件数の推移

顧客見込み客のデータ登録については、名刺データの登録が必要になるのですが、初期投入データは9,335件に対し、運用後の登録データ6,740件と右肩上がりで社員が登録してくれるようになりました。
商談件数の推移

商談件数についても、社員皆が日々入力することで案件データが増加しています。
活動件数の推移

営業活動記録については、日々「誰がいつお客様の誰に対して何をしたのか」という行動を登録してもらっており、こちらは運用後に57,246件の入力が入りました。
クラウド導⼊の成果

クラウドシステムへのデータ入力を定着してもらった結果の具体的な成果です。
想定よりも定量的成果も定性的効果も多く出ましたので、いくつかピックアップして解説いたします。
顧客/⾒込客/パートナーのあらゆる情報を瞬時に把握

情報を一元化したことにより、顧客・見込み客・パートナーのあらゆる情報を瞬時に把握
することができるようになりました。
誰が・いつ・何をして・どの提案して・どういった理由で断られたか・受注を受けた方・次回は誰がが・いつ・何をするのかなど、5W1Hでわかるようになったのです。
しかし、毎日大量の情報を入力するのは現場の営業の負担になりますので、日常的には2カ所の入力でデータ作成できるようにしています。
⼊⼒データから様々なアウトプットや分析が可能に

データを一元化して整備したので、以前は重複していた信用できないデータが常に使えるデータになりました。このデータをもとに、グラフ化をはじめ、様々なアウトプットや分析に活用が可能になったのです。
例えば、自分の弱点はどこなのか、成果が出ている営業は何が違うのか、どのサービスが売れているのか、どういった顧客がサービスにマッチしているのか、長期間アプローチできてない顧客は誰なのかなど、現状を把握し、分析ができます。
新規成約率

社員が便利になっただけでなく、売上アップにも貢献しました。
まず、新規の成約率が平均7%から28.6%に!新人も含めて営業のほとんどが3割バッターになりました。
紹介件数

次に紹介件数です。以前は年間14件という紹介件数だったのですが、年間238件と、実に17倍の紹介をいただけるようになりました
もちろん、紹介をいただき続けるということは難しいのですが、現在のところ年間100件以下になったことはありません。
顧客解約率

そして、守りである顧客の解約率です。以前は平均2.2%の解約を頂いておりましたが、クラウド導入後は0.3%まで縮まることに。
総合職の残業時間

そして、従業員の就業環境の変化です。総合職いわゆる営業の残業時間はこれまで1日平均3.5時間だったのですが1.2時間まで縮まりました。
有給休暇の消化日数

そして、有給休暇の消化日数ですが、1.4日が9.8日と大きく日数を伸ばしました。
もともと1.4日が少なすぎるという状況でしたが、業務の属人化が深刻だったため、ベテラン社員ほど有休が取りにくいという状況だったのです。クラウド導入で大きく改善されました。
紙データの削減

そして、クラウド化することで、ペーパレスが進み、紙書類の多くが不要になりました。
また、新しく使う紙も減ったことでコピー用紙の消費率は7.4%削減できています。
そのほか
クラウド化でテレワークも可能になり、コロナ禍の大分前である2018年9月から実施しています。
また、以下のような効果も出ています。
● 新⼈教育の時間が⼤幅短縮
● 退職、産休時などの引継ぎ時間⼤幅短縮
● 離職率の低下
● 情報やモノを探す時間が⼤幅削減
● 情報・業務の属⼈化からの脱却
● 広島・岐⾩へのエリア拡⼤(⽀店開設)
などなど
売上高推移

こうした結果の中で、冒頭に提示したとおり、コロナ禍でも過去最高売上の達成に至りました。
今後のDX展望
点検パートナーへの波及

今後の展望としては、点検実務を行ってくれている高齢の点検パートナーへの波及を考えています。
業界全体で技術者は人手不足で、平均年齢67歳と高齢化が進んでいる状況です。点検業務の電子化を進めることでパートナーの業務を楽にするとともに、正確に現場を把握できるようにしたいという考えです。
会計システムとの連携

また、経理業務について、会計システムとの連携を行うことで。マーケティングから支払いまで一気通貫の基幹システムに成長させたいという展望を持っています。
私たちの企業理念は「お客様=私たち=社会が共に喜べる価値を創造します」という三方よしの考え方です。
変わり続ける社会の中で、この志だけは変わらず挑戦し続けることが使命だと考えています。
地方の中小零細企業で人数が少なく、IT知識 もなく、上の理解がなかなか得られない状況でもクラウド化で成功できる成果を出すことができ、売上アップもできるということが、DXに悩む中小企業の皆さまに伝われば幸いです。
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