中小企業においては、人員が一人抜けるだけでも業務に大きな支障をきたします。しかし、テレワークによって配偶者の転勤や親の介護といった「家庭の事情」での転居は、もはや仕事を諦める理由ではなくなりつつあります。株式会社ソウルウェアは、完全テレワーク化によって社員全員がリモートで働く企業です。社員が相次いで「家庭の事情」での退職を相談してきたため、「本人の意思とは関係のないところでキャリアが決まってしまうのはおかしいのではないか?」とクラウドシステムを揃えます。しかし、電話と郵便という二大業務のために、完全テレワークへの移行には1年近くかかりました。その解決方法は、テレワーク化に足踏みする企業にとって、一つのヒントとなるのではないでしょうか。
株式会社ソウルウェア
所在地:東京都豊島区西池袋1-11-1 メトロポリタンプラザビル14F
設立:2012年12月3日
事業内容:・勤怠管理・交通費精算クラウド「kincone」の開発・販売
・帳票出力プラグイン「RepotoeU」の開発・販売
従業員数:26名(業務委託3名 インターン3名)※2021年12月現在※
https://soulware.jp/

当社の主力製品は 2つあります。1つは勤怠管理、交通費精算のクラウドサービスであるkinconeです。Suicaなどの ICカードをスマホにタッチするだけで勤怠、打刻と交通費の登録が同時にできます。各種チャットサービスから打刻も可能です。
テレワーク、オフィス出社どちらのスタイルにもフィットします。何かと手間がかかる勤怠管理や交通費の清算業務をシンプルに効率化できて、月額200円という低価格も好評です。
もう 1つはRepotoneU(レポトンユー)というシリーズです。サイボウズ株式会社が提供するkintoneのプラグインで、請求書や見積書などの帳票を簡単にデザインでき、pdfファイルに成形して出力できます。帳票を郵送代行サービスにアウトソースすれば、さらにペーパーレス化にもつながります。
両製品とも他社のクラウドサービスと連携することができるようになっており、業務の幅をより広げることが可能です。

当社は、創業以来黒字経営を続けてきました。5期目にあたる2016年ごろからは、自社開発よりも先ほど紹介したクラウド事業の売上割合を伸ばしています。
なかでも、これからお話する「働き方」のおかげで売り上げを伸ばし続けることができました。
8期には、コロナが始まったにも関わらず、前年より利益率が高かったです。
直近の9期に関しては、現在まだ集計中で確定した数字ではありませんが、利益率にして25%を達成することができました。
テレワークを始めた経緯

私たちは、最初からテレワークを行っていたわけではありません。
設立当初は都内にオフィスを構え、受託・開発を中心に昼夜問わず、皆で働いていました。
当時のメンバーは、代表の私と経理スタッフ1名以外は全員がエンジニアでした。
転機が訪れたのは2016年です。社内でエース級のエンジニアが「結婚を機に地元の和歌山へ帰るので退職を考えている」と相談に来たのです。
当時のソウルウェアは少数精鋭。一人でも社員がかけると、会社の存続に影響が出る状態でした。なんとか継続できる方法はないかと、テレワークについて考え始めます。
そうしているうちに、別のスタッフから「夫の転勤で1週間後には福岡に引っ越します」と退職を前提に相談されました。さらに、 2ヶ月後にはまた別のスタッフが「夫の転勤で滋賀に引っ越すことになりました」と退職を願い出て来たのです。

こんなに相次いで社員が減ってしまっては、会社が立ち行かなくなるのはもちろんですが、
私は 1 つの疑問を持ちました。今回の退職に関しては、全員が「家庭の事情」によるものであり、引っ越した先で次の仕事は決まっていない状態だったのです。
「本人の意思とは関係のないところでキャリアが決まってしまうのおかしいのではないか?」と私は考えました。「自分のキャリアは自分でコントロールできるほうが良い」と、引っ越してもソウルウェアで働き続けられる形として、テレワーク導入に踏み切りました。
ソウルウェアのDX
テレワークで利用しているツール

現在テレワークを行うにあたって、これらのツールを利用しています。もともとクラウド事業を扱う我々は、開発業務に紙ベースの作業はありません。社内の管理ツールを変更するだけで済みました。
勤怠管理は自分たちの製品であるkincone。チャット連携機能を利用して、Slackから毎日出退勤の打刻をしています。移動を伴った場合でも、kinconeのモバイルSuica連携などを利用して、交通費はWebで集計し、経費精算freee会計です。
営業活動など、社外との打ち合わせは主にZoomを利用。また、社内のコミュニケーション、普段の会議などにZoomやMeetを利用していますが、壁打ちなどフランクに話せるツールとして、バーチャルオフィスであるSpecialChatを使うこともあります。
テレワークの歩み

テレワーク完全移行までを時系列にしたものです。
2016年にきっかけとなるエンジニアから相談を受けました。その年の10月から先ほど紹介したツールなどを導入し始め、まずは段階的に週に1度テレワークを開始します。
そこからわずか半年でツールの総入れ替えを行い体制は整えました。
しかし結局、社員全員が自宅からテレワークを行なうようになったのは2018年です。
定着までに2年近くかかってしまいました。
なぜこれほどまでに時間がかかってしまったのでしょうか。
テレワーク開始から定着まで1年以上かかった理由

大きな理由は2つあります。
まず一つ目は電話対応です。それまでは、オフィスに引いた固定回線で電話を受けていました。しかし、テレワークにより全員が不在にしてしまうと、電話に出る人はいなくなります。
それを気にして、あえて出社してくれる社員がいました。
その社員にのみ負荷がかかるという不公平感もあり、結局みんなが気を使いあって出社しまったので、テレワークが進まなかったのです。
そこで固定回線を止め、クラウドフォンを契約した社用携帯を全従業員に対応しました。
さらに、1次対応は電話代行のビジネスアシストにアウトソーシング。社員でなければ分からないような内容だけを転送してもらうようにしました。着信履歴はSlackに残すことが可能なので、社員全員が確認できます。そして、ホームページから代表番号を削除し、全てメールでの問い合わせに集約。そもそもかかってくる、電話の件数を減らしました。

2つ目は 複合機と郵送の問題です。ほとんどの業務がWebで完結できても、請求や契約関連では紙で出力して郵送するフローがありました。
これを解決したのは、自社製品のRepotoneUとコクヨ株式会社が提携して開発した「Repotovas(レポトバス)」です。kintone上で作成した請求書などの PDFデータをメール添付、または印刷して FAXすれば、送信できます。担当者はkintone上のボタンをクリックするだけで請求書の発行・印刷・郵送までを完了です。
「Repotovas」を利用することで、社員の自宅に複合機を置いたり、封入して郵便局へ持ち込むなどの手間が解消されました。ペーパーレスの実現です。

最後になりますが、クラウドを導入して得られた「テレワーク」という働き方は社員が安心して働き続けるための選択肢の 1つに過ぎません。しかし、テレワークを導入したおかげで働き方の幅が広がり、2021年には 10名以上の中途採用を決めるなど採用力の向上にもつながりました。
また、コロナウイルスという未曾有の危機にあっても、働き方を一切変えることなく業務を続けることができました。

今回の私たちの取り組みのうち、何か 1 つでも皆様のご参考になれば幸いです。
事例については、当社ブログ「ソウルヒトログ」でも公開しています。ぜひご覧ください。
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