日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月21日に開催されたCX(カスタマーエクスペリエンス)部門では、顧客体験価値の向上や顧客とのより深い関係構築に、デジタル技術を活用した企業の事例を表彰しています。
銀行口座、決済、証券、保険などの金融サービスを1つにまとめられるアカウント「Olive」の開発によって、新たな顧客体験を創出した三井住友カード株式会社の事例をご紹介します。
1. キャッシュレス決済が進むことで生じる、分断と危機感

2023年の経済産業省の発表によると、日本のキャッシュレス決済比率は39.3%にまで順調に推移しており、2025年には、政府が目標としていた40%に達する見込みとなっています。
しかし、今まで日本のキャッシュレス決済、デジタル金融については、使える人は使っている一方で、使える人・使う人と使わない人の分断が起きています。

キャッシュレス決済を使える人・使う人はよりお得で、便利かつ安心安全なキャッシュレスサービスを日々追い求めています。

一方で、キャッシュレスサービスが増加するにつれて、複数のサービスにアカウントを作る人も増えていき、中には財布の中にカードが複数枚あるケース、家計や資産管理がしづらくなっているケースもあるようです。

キャッシュレス決済を使わない人は、キャッシュレスサービスが増えてきても、実際にお金の管理が難しくなるとか、複雑とか、情報漏洩が怖いとか、手続きが面倒、現金での支払いに不便を感じないなどの理由からなかなか踏み切れないのが現状です。

一方、銀行やカード会社を取り巻くビジネスに目を向けると、コロナ禍前の2019年まで、銀行口座開設は9割が店頭でした。しかし、コロナ禍を挟んだこの5年で状況はすっかり変わってしまい、店頭での口座開設が減り、オンラインでの口座開設に徐々にシフトしています。銀行以外の他業界から金融業に進出してくる企業が増えて、相対的に銀行の地位が低くなってきていること、銀行=店舗、アナログというイメージが強く、支店のないエリアでもサービスできることへの認知度やデジタルのイメージが低いことが背景に挙げられます。
これらの課題に対応するため、三井住友カードは同じ三井住友グループ(SMBCグループ)の三井住友銀行を巻き込み、新たなアプローチを模索することになりました。
2. 「Olive」の概要
「Olive」は三井住友銀行と三井住友カード株式会社を中心に、VISA社、株式会社SBI証券など複数の企業で共同開発したサービスで、2023年3月にローンチしました。

「Olive」は、アプリから1つのアカウントに申し込むと、銀行口座、カード、証券、保険などの金融サービスに同時に申込ができ、そのままアプリでお使いいただけます。

例えば引っ越し後に住所変更する場合、口座(銀行)、カード(カード会社)、証券(証券会社)、保険(保険会社)と、会社ごとに住所変更の手続きをする必要がありましたが、これを1回の手続きで完了できるところもポイントです。

また、決済については、クレジット、デビット、ポイント払いを一枚のカードで使い分けができます。三井住友カードがVisa社とシステムを共同開発して、世界初のサービスを日本から開始しました。これにより、お客さまは、普段通り使うだけで設定した支払い方法をお使いいただけます。

セキュリティ面でも、「Olive」はナンバーレスという新しいアプローチを採用しています。通常、キャッシュカードやクレジットカードには、それぞれ口座番号やカード番号、署名欄が印字されていますが、それらを一切排除し、「Olive」アプリのみで表示することで、支払いのときに番号という個人情報が盗まれる心配がありません。
これらの特徴により、「Olive」は従来の金融サービスの枠を超えた、新しい顧客体験を提供することを目指しています。
3. 「Olive」プロジェクト体制:会社や部署、業種の垣根を越えて

「Olive」の企画・開発にあたっては、「スクワッド(SQ)」と呼ばれる方式を採用しました。部署や企業の垣根を越えてアサインされたメンバーによって組成されたプロジェクトチームを中心に、「Olive」の企画・開発は進められました。
サービスを開発するためには、社内の各部署とグループ内外の多様な企業が連携しますが、部署ごと、会社ごとという縦割りでプロジェクトが運営されてきました。アジャイルチームは、ビジネス系のチームと運用・デザイン系のチーム、さらに複数のグループに細分化されています。スクワッドごとにPO(プロジェクトオーナー)、アジャイルチームの統括としてマーケティングディレクターを配置。意思決定権を持ち、チームのミッションでもある「すべてのお客さまにとってかんたんに、安心・安全に、おトクに」の実現のために行動するPOやマーケティングディレクターを、組織のメンバーで縦方向にサポートするという構造です。
「Olive」のアジャイルチームは、企画開発からローンチまでを全てコロナ禍で推進してきました。他の企業同様に出社が当たり前だった文化がコロナ禍で変わり、リモートワークの環境が整い、100人単位の会議を開きやすくなったことで、情報共有や意思決定のスピードも向上し、Oliveの開発や推進を後押ししました。ユーザーのニーズや課題への対応力強化、スピーディーな業務遂行、組織の枠にとらわれない柔軟な運営を実現しました。
4. 「Olive」の成果:200万人突破の背景

2023年3月にリリース後、2024年2月にアカウント開設数200万を突破。特に注目すべきは、従来の支店ありきの銀行サービスでは取り込みが難しかった地域での成果です。デジタルベースのため、関東・近畿・中部地方を除いた、支店が少ないエリアでも前年比で2.6倍、新規口座開設数を伸ばすことができました。

年齢層の広がりも「Olive」の特徴の一つです。20代の開設者が半数ですが、リリースから1年が経過した現在では、60代以上も含めた他の年代の開設者を伸ばすことに成功。

顧客の行動も変わっていき、「Olive」は他行からの入金や送金を簡単に無料で行えるため、ATMの利用頻度も減少しました。

さらに、銀行の店頭も変化しました。「Olive」ではほとんどの手続きがアプリで完了するので、支店の銀行員は顧客への提案や高齢者の方へのサポートを手厚くできるようになり、銀行業務のあり方にも変化をもたらしています。
5. 今後の展望:三井住友銀行との協業による、リアルとデジタルの新たな可能性

「Olive」ローンチによる支店の役割変化を受け、新たな支店のカタチを象徴する「Olive LOUNGE」を、2024年5月に渋谷にオープン。銀行にカフェやコワーキングスペースを併設してどなたでもご利用いただける他、営業時間も銀行より長めに設定してあり、Olive会員であれば店舗内の設備をお得に利用できます。支店は手続きをする場所だったが、今後はOliveのサービスを提供する場所に変えていきたいです。

「Olive」はリリースから1年以上が経過しましたが、ローンチ後も電話や支店での接客、SNSでシェアされている声をサービスや機能改善に反映させています。また、2024年7月に300万アカウントを突破しており、「5年間で1,200万件の「Olive」アカウントの獲得、年間500万人の新規カード会員獲得」という目標に向けて、三井住友カードは今後もより良いサービスへの成長を目指しています。
6. まとめ
三井住友カードの「Olive」は、銀行とカード会社の垣根を越えた協力、アジャイル開発手法の導入、顧客中心の意思決定プロセスが融合して実現した、全く新しい金融サービスです。「Olive」に関するサービスの提供に特化した店舗の創設など、「Olive」を通して従来の銀行のあり方を変える多様な改革が進められており、今後もその動きはさらに加速するでしょう。
DX推進の取り組みを共有しませんか?
日本DX大賞 2025 エントリー募集中