事例

資生堂のDX戦略:デジタル技術で実現する顧客体験革新と業績向上

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月18日に開催されたBX部門では、業務改善や成長戦略にデジタル化を導入し、さまざまな変革に取り組んだ企業の事例を表彰しています。

グループを挙げてデジタル技術を用いた変革に取り組むために資生堂が立ち上げた、資生堂インタラクティブビューティーの事例をご紹介します。

1. はじめに:資生堂インタラクティブビューティーの誕生

1872年の創業以来、日本を代表する化粧品メーカーとして事業を展開してきた資生堂。しかし、デジタル技術の急速な発展や人々の生活様式の変化に伴い、消費者のニーズも多様化してきました。そこで、必要と考えたのがデジタル技術を全面的に活用した顧客体験の革新でした。

2021年7月、資生堂はアクセンチュア株式会社と戦略パートナーシップを締結。ジョイントベンチャーとして、資生堂インタラクティブビューティーを設立しました。グループ全体のデジタル・ITトランスフォーメーションの推進と、特に日本市場における新たな顧客体験の創出を目的としています。

資生堂インタラクティブビューティーは資生堂からの出向者、新規採用者、アクセンチュアのスタッフという3種類のメンバーからなるチームでスタートし、現在は約260名の社員が在籍しています。デジタルを活用した事業モデルの改革、グローバル標準のITインフラ構築、デジタル人材育成の3つを軸に、スピード感とイノベーション視点を持って活動しています。

DX本部デジタル戦略部部長の小椋一平氏は、この改革の背景をこう語ります。「『PERSONAL   BEAUTY WELLNESS COMPANY 生涯を通じて一人ひとりの自分らしい健康美を実現』を2030年に向けたビジョンに掲げている資生堂では、一人一人の自分らしい健康美を追求する必要があります。そのためには、データとデジタル技術の力が不可欠だと考えました」

2. Beauty KeyからCRM活動まで~多様化したデジタル化施策

資生堂インタラクティブビューティー設立後、顧客に向けてはビューティーテックのローンチ(モバイル肌診断ツール、メイクアップシミュレーターの開発)、データ分析の環境・活用の基盤体制の整備、資生堂グループの業務をグローバルに標準化・効率化する基幹システム「FOCUS(First One Connected and Unified Shiseido)」の導入推進など環境整備を行いました。デジタルを用いて顧客との新しい関係性を生み出した、3つのサービスを紹介します。

1. Beauty Key

店舗やECサイトなど、資生堂グループ内でもブランドごと、店舗ごとに別々に提供していた会員サービスを一つに集約したアプリです。2022年9月から提供を開始しており、会員数は300万人を超えています。デザインや機能の優位性が評価され、「レッドドット・デザイン賞2023」「2023年度 グッドデザイン賞」「iFデザインアワード2024」の国内外3つの賞を受賞しました。

2. Beauty DNA Program

資生堂の皮膚科学研究とAI技術の融合で生まれた独自のアルゴリズムを活用した、DNA検査・カウンセリングサービスです。ユーザーのDNAを検査し、個人が生まれ持った肌の特徴や最適なお手入れを提案するだけでなく、美容の専門知識を持ったPBP(パーソナルビューティーパートナー)と呼ばれる美容部員による食事、睡眠、運動などの総合的なアドバイスが受けられます。

3. オムニPBP(デジタル活動に特化したパーソナルビューティーパートナー)

PBP(パーソナルビューティパートナー)とは、店舗などで顧客に応対する資生堂の美容部員の略称で、SNSやWebカウンセリング、ライブコマース、公式の動画チャンネルなど、デジタル上のオムニチャネルで活躍するのがオムニPBPです。オムニPBPはそれぞれが個人のInstagramのアカウントを持っており、総フォロワー数は65万人を超えています。フォロワーからの美容相談に乗ったり、オンラインの美容セミナーを開催したりしています。1万人以上のフォロワーがいるオムニPBPは12人、なかには13万人のフォロワーを獲得したメンバーもいます。

上記以外に、CRMなどの活動を支えるためのコンテンツを制作しており、既に1,400を超えるデジタルコンテンツをリリースしています。

小椋氏は、これらのサービスの重要性をこう強調します。「美容情報の収集から購入、再購入まで、顧客のライフサイクル全体をカバーし、継続的な関係性を構築することが我々の目標です。これにより、より深い顧客理解と、パーソナライズされた体験の提供が可能になります」

3.  アクセンチュア社の育成ウハウと知見を活用した、資生堂独自のデジタル人材育成プログラム

資生堂インタラクティブビューティーでは、資生堂の多様なニーズに対応するためデジタル人材育成プログラムを2022年2月から開始。アクセンチュア社が持つ、デジタル変革の知見と育成ノウハウをベースに資生堂独自にアレンジして体系化し、デジタル技術への高いスキルを持つ人材の確保はもちろん、自社社員だけでなく資生堂グループ全体のデジタルスキルの底上げを図り、資生堂のデジタル施策を推進する人物へと育成することを目的としています。その基本的な考え方として、以下の4Dサイクルを回しています。

4Dサイクル内容
Define(人材定義)自社が求めるデジタル人材を定義し、必要となる人材の質・量を明確化(SIBではDX領域で19(データサイエンティスト、エクスペリエンス・デザイナー、IMC プランナー等)、IT領域で9(ICT ストラテジスト、ビジネスアナリスト、プロジェクトマネージャー等)の人材像を定義)
Discover(選抜・評価・採用)デジタル人材向けに定義されたスキルアセスメントを定期的に実施し、スキルアップ成果を評価に反映
Develop(人材育成)140を超えるビジネス基礎・領域共通講座と40を超える専門スキル講座を提供し、社員のスキルアップのための機会を提供
Deploy(適正配置・モニタリング)スキル成長に応じた適正なキャリア・配置を行い、SIBのDX戦略と同調した配置を適正化

※ニュースリリース:資生堂インタラクティブビューティー、デジタル・IT専門人材の専門スキル研修プログラムを開始(2022.02.24)より引用、一部発表内容を反映

3階層で定義されたメンバーのスキルに合わせて、デジタル人材育成の140の教育カリキュラムを3つに分けて、学ぶ内容をカスタマイズしています。

3つの研修の概要は、以下の通りです。

  1. 基礎スキル研修:ロジカルシンキング、クリティカルシンキングなど
  2. 領域研修:マーケティング、データ分析、プロジェクトマネジメントなど
  3. 専門スキル研修:データサイエンティスト向けプログラムなど

この人材育成の成果として、社員たちは自らデジタルコンテンツの制作やライブ配信の運営などを行いPDCAを回せるようになっています。さらにはAIを活用した画像生成まで行えるようになっています。

4.  デジタル施策がもたらした、さまざまな成果

資資生堂インタラクティブビューティーが行った、多ジャンルにわたるデジタル化施策は、さまざまなところで具体的な事業成果として表れています。

1.事業への貢献
– Beauty Key会員と非会員で年間購入金額が200%増
– Beauty DNA Program利用者の年間購入金額は29倍

2.ブランドのCRM活動
– Beauty Keyでの顧客理解に基づくコミュニケーション
– ブランドAで2年継続ブランド会員が24%増
– ブランドBで15%増、併用者数が47%、34%増

3.CRMモデルの成果
– 店頭データと保有データを連携し、CRMメッセージを最適化
– 継続ブランド会員がスキンケアに引き上がる率が47%増
– クラブ会員のWeb TV利用者が20%増

小椋氏は「顧客データを統合し、最適な情報を最適なタイミングで提供することで、このような成果を実現できました。デジタルとリアルの接点を統合することで、顧客理解が深まり、より効果的なコミュニケーションが可能になったのです」と、成果を生み出した背景を語りました。

5. 今後の展望:Global No.1 Data Driven Skin Beauty Companyへの道

資生堂インタラクティブビューティーの取り組みは、単に日本市場でのデジタル化を推進するだけでなく、資生堂グループ全体のグローバル戦略の一環として位置づけられています。「我々の最終目標は、資生堂をグローバルNo.1のデータドリブン・ビューティーカンパニーに成長させることです。日本市場での成功モデルを基に、世界各地の市場特性に合わせたデジタル戦略を展開していく予定です」(小椋氏談)

資生堂インタラクティブビューティーは、資生堂のDXを促進するための子会社として設立されました。すると、Beauty KeyやBeauty DNA Programなど、オンラインとオフラインの融合により誕生したサービスを提供しているうちに、企業からも声がかかり、APIやシステム開発を外部企業などと進めています。セカンドパーティー、サードパーティーと連携しながら心地の良い情報体験を顧客に提供するべく、顧客理解を深めることにも取り組んでおり、現在、社内で複数のチャレンジを始めています。

6. まとめ

資生堂インタラクティブビューティーの取り組みは、デジタル技術の急速な進化と顧客のライフスタイルや購買行動の変化を受けて、本体である資生堂の事業モデルを変化させていった事例といえます。

オンラインとオフラインを融合したシームレスな顧客体験の創出や、データ活用によるパーソナライズされたサービスの提供といった顧客中心のアプローチを創出する一方、社内では戦略的パートナー企業と共同で開発したデジタル人材育成プログラムによって誕生した人材が、資生堂グループのデジタル化を推進。スタートアップのようなスピード感を持ちながら、業務改革に取り組む姿勢はDXに取り組む企業の企業にとって参考となるモデルといえるでしょう。

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