事例

誠和。が描く循環型社会:廃棄物をエネルギーに変える農工連携DXが切り拓く脱炭素の未来

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月20日に開催されたSX部門では、気候変動や飢餓、災害対策、エネルギー危機といった社会課題を経営に取り込むことで企業の稼ぐ力を強化していく、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に取り組んだ企業を評価します。

廃棄物をバイオマス資源に変換し、農業と工業を結ぶ革新的なソフトウェアで、地域の脱炭素化と経済発展の両立を目指す、株式会社誠和。の事例をご紹介します。

1. プロジェクトの背景:佐賀市の先進事例

株式会社誠和。は、1971年に設立された栃木県の企業です。農業用ハウス向けの機器や設備の開発を主な事業としてきましたが、2019年頃からスマート農業技術の開発にも力を入れています。

誠和。がエネルギーデザインシステムを開発するきっかけとなったのが、2017年と2018年度に佐賀市が実施した先進的な実証事例でした。佐賀市では、清掃工場で燃やしたゴミから排出されるCO2を分離回収するカーボンリサイクルプラントを清掃工場に併設し、近隣の農業用ハウスなどに供給して利活用する取り組みを行いました。廃棄物はバイオマス資源に、CO2はエネルギーに変換されるので、清掃工場をエネルギー施設へと進化させることで、地域の新たな産業の創出にも寄与します。

佐賀市が10年近い年月をかけて実現したCO2の資源循環は、佐賀市以外でまだ成功事例がありません。農業と工業という異なる産業の連携が求められ、実施の検討が困難で、実現までに非常に長い年月を要するためです。

2. 「エネルギーデザインシステム」の開発

誠和。では、佐賀市の実証事例を日本各地に横展開するとともに、課題解決のための新たなプロジェクトを開始。以下の4つの取り組みを行いました。

  1. 農業と工業の情報の一元化とビッグデータ化:異なる産業の情報を統合し、共通のデータ基盤を構築
  2. 資源循環による価値を可視化するシミュレーションモデルの開発:ビッグデータの活用により、農業と工業、それぞれの産業で使用される単位や用語を統一し、どちらの視点からでもシミュレーション可能なモデルを開発
  3. 誰でも簡単に使えるソフトウェア(施設園芸エネルギーデザインシステム)の開発と検証:開発したモデルを基に、使いやすいインターフェースを持つソフトウェアを作成
  4. 特許出願と普及活動:3に関する特許を出願。各地で講演や調査を通じて普及活動を実施

このプロジェクトは、株式会社誠和単独ではなく、佐賀市バイオマス産業推進課と、中立の立場で検証する佐賀県農業試験研究センターの連携により進められてきました。2022年度から成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)に採択され、産学連携によるオープンイノベーションの成果として結実したのです。

3. エネルギーデザインシステムの機能

エネルギーデザインシステムは、農業と工業の連携による資源循環の効果を、経済と環境の両面から見える化できるなど、さまざまな機能があります。主な機能は以下の通りです。

1. 基本情報の入力工場が排出するCO2量や熱量、農業用ハウスの情報(設置場所、栽培作物など)
2. 環境価値の可視化1をもとにCO2排出量を可視化し、農工連携によるCO2吸収量や植林本数などに換算
3. 経済価値の可視化農業者側:エネルギーコスト削減額の計算工業者側:CO2販売による売上予測

このソフトウェアにより、これまで別々に考えられていた農業と工業のエネルギー利用を統合的に分析し、最適な連携方法を見出すことが可能になりました。

例えば、清掃工場から排出されるCO2を2ヘクタールのトマト農場に供給した場合のシミュレーション結果は次の通りです。

  • CO2排出削減効果=CO2利活用量:約363トン/年
  • 清掃工場側の経済効果:約1,223万円/年(CO2を33.7円/kgで販売した場合)
  • 農業者側の経済効果:約250万円/年(エネルギーコスト削減額)

これらの数値は、農工連携による資源循環が、環境面だけでなく経済面でも大きな効果をもたらすことを示しています。実際に佐賀市では、2017年から2021年の4年間で50億円以上の経済効果を創出しました。

農工連携型の資源循環の取り組みは、CO2排出量の削減という環境面だけでなく、CO2の販売という経済的な面においても、地域経済の活性化、新たなエネルギーの創出、食料生産の安定化という3つの安全保障の観点からも、大きな価値があるのです。

4. プロジェクトの成果と展望

エネルギーデザインシステムを開発したことで、さまざまな方面で成果を生み出しています。

  • 現在、4件の特許を出願しており、PCT出願による国際特許調査を実施。今年度中に海外出願を予定
  • 地域脱炭素の案件を創出
  • エネルギーを必要とする農業者を現地へ誘致。農業用ハウスを経営する農業者の農林水産省補助事業申請を支援し、採択(現在も進行中)
  • 地域の経済効果(試算)は約15億円、CO2排出削減効果は年間約200トン
  • 中小企業庁の「はばたく中小企業300社」のGX分野で受賞
  • 海外、特にヨーロッパの企業から高い評価を獲得
  • 全国各地で講演を実施
  • 清掃工場周辺にCO2を利用する農業系企業が集まり、企業誘致や移住による経済波及効果を創出(佐賀市の事例)

エネルギーデザインシステムの開発に始まった、清掃工場から排出されるCO2の分離回収という佐賀市事例の横展開は、誠和。の社内外を巻き込む活動へと発展。社内では複数の社員や部門が横断する全社的プロジェクトとなり、工業(佐賀市バイオマス産業推進課)と農業(佐賀県農業支援研究センター)、誠和。の3者が連携しながら進めてきました。上記でご紹介した成果は全て、社内の推進体制が整っていたこと、産学連携によるオープンイノベーションがもたらしたものであると言えるでしょう。

5. 今後の展開

誠和。はデジタルの力を用いてグリーンの取り組みを推進すること、つまりDXとGXで持続可能な社会づくりに挑戦しています。今後の展望として、エネルギーデザインシステムを使って自治体などの脱炭素案件に対するコンサルティングツールとして活用し、エネルギーコンサルティング、脱炭素コンサルティングといったビジネス展開を計画しています。

また、エネルギーコンサルティングを通じてさまざまな地域で新たに農業用ハウスを建設するときに必要な、施設園芸用の機器や商品の販売につなげるという戦略があり、「デジタルがハードウェアの付加価値を作り出す」という新しいビジネスモデルの構築を目指しています。

日本の自治体が管理している製造工場の数はおよそ1,000あります。そのうち700ほどが余熱を利用する清掃工場で、さらにその半分の約350が余熱を使って発電まで行っている工場です。誠和。では現在、この発電設備を持っている工場のみに対応していますが、将来的には対応可能な工場の数を増やしていこうとしています。

6. まとめ

誠和の「エネルギーデザインシステム」は、廃棄物やCO2を有効な資源に変え、異なる産業を結びつけることで、地域に新たな産業を創出するだけでなく、環境保護と経済発展の両立も実現可能なプロジェクトです。また、SDGsが掲げる17のテーマ169のターゲットにも貢献。2050年に日本のカーボンニュートラルの実現が控える中、日本発の脱炭素技術の一つとして、今後の発展が期待されています。