全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。
2022年10月14日に行われた「東海・北陸大会」より、RPA活用で「デジタル上司」が社員をマネジメントする仕組みを構築し、生産性を飛躍的に向上させたさくらホームグループの事例をご紹介します。
さくらホームグループ株式会社の概要
■法人名:さくらホームグループ株式会社
■事業内容:住まいに対するトータルサポート業務
(売買・賃貸仲介、賃貸物件管理、ライフアドバイザー事業など)
■設立:1995年3月28日
■公式Webサイト:https://sakura-home.group/index.html
DX推進で残業が月平均4時間に

さくらホームグループ株式会社は創業28年、北陸3県に根ざした地場の企業です。
主な事業は不動産・建築をはじめ、近年はDXのコンサルティングやシステム開発も行っています。
月平均の残業時間は4時間と非常に少ないです。短い労働時間でも地域ナンバーワンの実績を出すことができています。
これは、DX推進による成果です。
我々は約6年前からDXを推進し、さまざまなツールを導入することで、残業時間や会議資料の大幅削減に成功しました。
その中で最も効果が出た施策であるRPAについて、詳しくご説明します。
RPAで「デジタル上司・織田信長」を構築

まず「RPAとは何か?」を簡単に説明すると、PC上の業務を自動化するロボットのことです。
一般的には事務作業を代替する目的で導入することが多いと思いますが、当社では少し異なる用途でRPAを導入しています。
RPAを上司として活用し、人間の上司の代わりに業務のフォロー・指摘をする役割です。その名前は「織田信長」といいます。

例えば、こんな業務を担っています。
・経営陣からの重要連絡の確認が漏れている人たちがいる場合に、注意をする
・タスクに漏れのリマインドをする
・社員に対して人材紹介をお願いする

運用は、我々はサイボウズというツールを使って自分たちの業務をすべてデータ化しています。約400個ぐらいアプリがあり、それをベースにしながら「織田信長」も同じグループウェアの中で一人の社員と同じようにアカウントを作り、あたかも一人の人間がいるかのようにメッセージを送ったりします。
具体的には、中間管理職のやるべき仕事のうち、下図で黄色く塗り分けた部分の煩雑な管理業務を代わりにやっています。
部下に対する営業アドバイスもします。「『福井市の中古一戸建て』に興味のあるお客さんがいるから、案内したらどう?」など、 提案物件まで信長が教えてくれます。
あるいは、毎月の残業管理で月の途中で残業3時間を超えた人をピックアップし、全社員に対して「ワーストランキング」という形式でお知らせをします。
つまり、人間の上司が個別注意をしなくても、「信長」が 代わりに管理してくれるという形です。
あらゆる部署に対して、400以上の指摘・フォローを行っています。
工夫した3つのポイント
「デジタル上司・織田信長」構築の上で我々が工夫したポイントは、大きく3つあります。
一つは、「擬人化」です。ただ「RPA」と言って導入しても、中小企業の社員は「よくわからないもの」として漠然と抵抗感を持つだけです。よって、いかにわかりやすくするかがポイントです。機械的な自動処理と、擬人化した対応とでは、受け手の反応や実行度合いが全く違います。
例えば「業務改善に向けて社員から意見が上がっている、信長、なんとかしてくれないか」といった形で、全社から改善アイデアを吸い上げられるようになりました。
2つ目は「信長」の働きぶりを可視化したことです。
信長の予定は人間の社員と同じで、みっちりスケジュール登録があります。
実に24時間働いていて、かつ、「何をやったのか」という報告もさせています。
これにより、経営陣・全社員が、「信長はちゃんと働いているのか?遊んでいないか?」と言うことが分かり、運用監視体制を構築できています。
3つ目は「権力」を与えたことです。
我々はそもそも、「業務でやってはいけないこと」を「ファウルリスト」として明文化しています。
これに基づいて、信長は指摘を行います。
例えば「スケジュール登録漏れがあるよ、イエローカード!」とか「業務アプリの管理を怠ったよね。レッドカード!」など指摘をします。
この警告カードが5枚貯まると、賞与からマイナスされる形になっているため、 社員は信長の指摘を無視できません。
機械的な処理だけだと、流れていってしまいますが、そこへインセンティブをつけることで、効果を持たせています。
若手を管理職に起用しやすくなった
「信長」を雇って4年ぐらい経つのですが、今では3人まで増え、12.8人分の働きで1万時間以上働いています。
「信長」が上司の仕事を代わりにやる分、若手を管理職に起用しやすくなりました。
この5年間で社員の平均年齢も下がり、管理職に起用した人数も増えました。
定性的な効果も大きく2つあります。
1つは、社内のITリテラシーを底上げできました。DXを進めれば進めるほど、ついてこれない社員が出てきます。特に中小企業では、たくさんのシステムがあっても社員が置いてけぼりになりがちです。
しかし「信長」がいることで入力漏れなどを指摘してくれたり、皆が使い慣れているツールに情報を集約してくれるので 、ITが苦手な社員でもシステム運用にしっかり乗せることができます。
2つ目は、心理的負担の軽減です。怒るのも、怒られるのも、人間同士だと疲れますよね。これは運用していて気づいたことですが、同じ発言でも私(社長)が言うのと、「信長」が言う場合とは社員の受け取り方が全然違います。「信長」だとすんなり受け入れてくれるんです。
ロボットに対して感情的になる人というのは少ないということと、決められたルールに準拠した発言なので、自分に非があることが理解できる。
今では、社長や管理職はもう怒る必要がないので、お互いストレスもありません。
管理職は「信長」から指摘を受けた社員と、フラットな立場で再発防止に向けた相談に乗ればいいという形になっていて、 協力関係に近づいているなと思っております。
システムを人間に寄せる発想も大事

「RPA」は業務削減を目的としたシステムですが、グループウェアやノーコードツールと組み合わせることで、AIとまでは言いませんが「デジタル上司」として活用することができます。
当社としては 「擬人化」「可視化」「権力を与える」という3つの工夫で年間1万時間以上の削減もできましたし、想定外の定性的な効果も上げることができました
中小企業は大手と違って、人員面・人材面・資金面とあらゆる資源が限られているかと思います。DXの必要性は分かっていても制約があってうまくいかないケースも多いと思います。
我々は、DXを成功させるためにはIT教育も大事だと思っていますが、それ以上に、いかにシステムが人間に歩み寄ってDXを推進するかが重要だと考えています。
今回ご紹介した事例はその色が強い事例だと言えます。
資金・資源が限られていても、アイデア次第でうまくいくということで、本事例が皆様のご参考になれば大変幸いです。
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