全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。2022年10月21日に行われた「近畿・中国・四国大会」より、印刷会社業務のクラウド化・社内ペーパーレス化を実現した株式会社マージネットの事例をご紹介します。
株式会社マージネットの概要
■法人名:株式会社マージネット
■事業内容:各種デザイン・印刷・製本・アセンブリ・配送業務
■設立:平成元年
■公式Webサイト:https://mergenet.co.jp/
非効率な生産体制・不明瞭な経営状態が課題
株式会社マージネットは和歌山県に本社工場を構える印刷会社であり、平成元年に設立した、グループ全体36名の小さな会社です。
主な取り扱い商品は、名刺や封筒、チラシなどの一般的な書類の印刷、そして近年では圧着ハガキを中心としたダイレクトメール印刷を主軸に、全国エリアにて営業を展開しております。
そもそも印刷というものは、ご注文いただく一つ一つの商品すべてがオリジナル商品です。つまり、同じ商品は存在せず、常に新しいものを製造しているという特殊な製造業となります。
そのため、次のような問題点を抱えていました。

1点目:営業担当者の低生産性
2点目:ペーパー出力された作業指示書による情報交錯
3点目:営業と製造をつなぐ 電話連絡による生産性低下
4点目:非生産部門における人的アナログ管理
という4点です。
まず1点目、営業担当者の低生産性についてです。
営業職における大切な業務の一つに、見積作業及び作業指示書起票があります。受注金額の大小に関わらず全ての商品で発生するうえ、所要時間はほぼ変わらないため、営業担当者の生産性が頭打ちとなっていました。そこで、営業担当者の事務作業を軽減させ、本来の営業活動そのものに時間を充当させる必要がありました。
2点目、 ペーパー出力された作業指示書による情報交錯についてです。
営業担当が作成し、出力された作業指示書を各工程担当者が順に閲覧し、作業を行っていたため、社内全体の受注数量・繁忙具合が不明瞭でした。また、作業途中で仕様変更が発生した場合は、作業指示書の改版を再度出力するため、最新の作業指示書がどこにあるのかも不明瞭でした。そこで、最新の作業指示内容をリアルタイムに更新し、俯瞰的に工場全体の稼働状況を確認できるようにする必要がありました。
3点目、営業と製造をつなぐ電話連絡による生産性の低下についてです。
営業担当から各工程担当者への指示や進捗確認は、携帯電話で連絡を行っておりましたが、作業現場の状況に関係なく入電があるため、その都度作業を止める必要があり、著しく作業進行を妨げる結果となっていました。そこで、製造状況に影響を出さずに情報伝達を行う必要がありました。
そして最後に4点目、非生産部門における人的アナログ管理についてです。
総務経理部においては毎日の業務として売上情報を経理ソフトへ入力する作業のほか、日々の売上金額を集計し経営情報を作成する必要がありました。また、労務管理として有給や残業についてタイムカードを確認し、集計作業を行う必要がありました。そのことで、必要な経営情報の取得に時間がかかっていました。そこで、マンパワーに頼ることなく、必要な情報をリアルタイムで確認できる状況にする必要がありました。
つまり、以前は非効率な生産体制、不明瞭な経営状態となっていました。
とりわけ、「何事も、集計作業が終わってみないとわからない…」そんな状況でした。
アナログからクラウドへ、必要な情報を一元管理
そこで、必要な情報を一元管理し、スピーディーに会社運営ができるように、アナログからデジタルクラウドへの移行を行いました。
当社が導入したデジタルクラウドツールをいくつかご紹介したいと思います。

まずは、いつでもどこでも最新の経営状態を確認できるように、クラウド型基幹システム「MIS」の開発を行いました。
次に、社内コミュニケーションを携帯電話からチャットツールに置き換えるため、無料版の「Slack」を導入しました。
そして、生産部門における効率化を促進させるために、勤怠管理ソフト「奉行クラウド」の導入を行いました。
●「MIS」で解決できたこと
「MIS」では見積試算、受注、作業指示書発行、売上処理、請求書発行まで、製造に関わる一連の流れを集中管理することでさまざまなことを実現できました。まず、見積算出が容易になりました。必要事項を入力・選択していけば見積算出が可能になり、新人営業でも数週間で見積が可能になり、教育時間を短縮することができました。
見積もりをした内容はワンクリックでそのまま作業指示書に転記されます。そのことで、これまで行っていた作業指示書を発行する時間を大幅にカットすることができました。今まで経理担当者が行っていた売上入力処理を、営業担当者がワンクリックで売上処理できることで、経理担当者の売上入力作業をカットすることができました。
作業途中に仕様変更が発生してもリアルタイムで作業指示書の内容を変更できるため、作業担当者は常に新しい情報を元に作業を行うことができるようになりました。
そして、作業担当者はタブレット端末から作業の内容を確認し結果を記録していくことで 実際の作業結果を営業にフィードバック、その履歴を過去データとして蓄積でき、赤字商品の改善が可能になりました。
●Slackで解決できたこと
続いてSlackを利用することで次のようなことを実現できました。
PC・タブレット・スマホなどのデバイスからアクセスできるので時間場所にとらわれることなく、正確な情報を文章化して伝達することが可能になり、これまでの伝言ゲームがなくなり、誤認識が減少しました。
他部署の会話も確認できるため、解決策を持つ他部署社員が対応したり、現在起こっている問題点やプロジェクトの進捗等を共有することで部署間の縦割りを排除することができまし た。
●奉行クラウドで解決できたこと
勤怠管理「奉行クラウド」を導入したことで、次のような効果を実現できました。
これまで行っていたタイムカードによる出退勤管理を廃止し、タブレットやスマホで打刻することができるため、月末に行っていたタイムカードの集計業務が不要になりました。
そして残業時間の計算や有給取得状況の管理が自動で行われるため労務管理にかかる時間を大幅に削減することができました。
導入プロセス
3つのクラウドシステムをどのように導入していったか、ご説明したいと思います。
まずは社長が陣頭指揮を取り、システムの構成やプランを立てました。
そして、デジタルに抵抗感の少ない若手社員たちと少数のグループを作り、試行錯誤を繰り返しながらテスト運用を行いました。
そして、部署単位で随時参加させ、約半年〜1年ほどで定着させることができました。

クラウド化で得られた6つの効果
3つのクラウド型システムを取り入れたことで、様々な効果を得ることができました。

1つ目、リアルタイムで現状の損益情報が確認できるほか、売り上げ予測も可能になり、経営状況を容易に確認することが可能になりました。
2つ目、売上や粗利といった損益情報がMIS上で公開されているため、社員やパートさんのコスト時間意識が大きく向上しました。
3つ目、過去データや履歴を蓄積するため、担当引き継ぎや病欠等の際もトラブルなく、スムーズに別担当者に移行することが可能になりました。
4つ目、単純作業や無駄な作業を排除したことにより 、残業時間の大幅抑制につながり、また有給取得率も向上することができました。
5つ目、製造に必要な情報をほぼクラウド化したことにより、印刷会社でありながら、社内ペーパーレス化を実現することができました。
6つ目、導入前と比較して、一人当たりの売上高及び粗利が上昇する結果となり、コロナ禍においても堅調に推移することができました。
さらに強靭な組織体制づくりへ
クラウド化を通して、会社として強靭な体制づくりにつながったと感じております。

そして現在では、セールスフォースや、カイロスマーケティングなどのクラウドツールも 導入しています。
今後も積極的にデジタルツールを取り入れながら、より生産性を高めた会社づくりを通し、 地域になくてはならない会社として成長していければと考えております。
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