子育てや介護、病気などケアが必要な家族を見ながら、また病気を抱えながら働くのは本当に大変で、職場復帰はもちろん就職活動も苦戦を強いられることが多いように感じます。そういった社会課題に対して、一つの仕事を複数人で分担しているワークシェアリングを取り入れることで、多様な人材の活躍を支援し、地方における新しい働き方のモデルを創出している、株式会社ケイリーパートナーズの事例をご紹介します。
背景:女性活躍を阻むライフステージの変化への低い許容度と地方の人口流出
株式会社ケイリーパートナーズは、2019年10月に福島県郡山市に設立されました。企業から請け負った経理などの業務をワークシェアしながら、それぞれの事情に合わせて2時間で働いたり、子連れで出勤したり、在宅勤務したりと、働き方の多様性を実践しています。
多様な働き方を設定した背景には、2つの大きな理由がありました。
代表取締役の鷲谷恭子氏自身にも、進学で上京し結婚・出産を経て福島に戻ってきたというバックグラウンドがあり、東日本大震災のボランティア活動中に、「短時間で働くからやりがいを求めてはいけない」など、子育てをしながら仕事をする女性の本音に数多く触れたこと。

一方で、過去10年、他の都道府県と比較しても女性、特に若年層の女性の流出が非常に多いという福島県の実情もあります。やりがいのある仕事が少ないと感じてやむなく離れる人も多い反面、子どもを持つと戻って来る人もいて、若いうちはやりがいでいいけれど、長い人生幸せに働き続けることにこそ価値があり、働きがいも働きやすさも両方大切にするべきであると実感したのです。


結婚や妊娠・出産、子育てといったライフステージの影響を最も受けやすい女性たちが幸せに働き続けられるための選択肢を設けて、女性が輝く新しいロールモデルを作りたい。「普通こうでしょ」という社会的な呪縛から解き放ちたいという思いから、「2時間から働ける社会」というメッセージを掲げ、鷲谷氏は2019年5月に前身となる「2hours」を立ち上げ、同年10月に税理士法人三部会計事務所とのジョイントベンチャーとして株式会社ケイリーパートナーズを設立するに至りました。
2時間からのワークシェアを実現する、自由なワークスタイルとメンタル面でのケア

ケイリーパートナーズでは、ワークシェアリングを導入していて、6時~19時まで(そのうち9時~16時がオフィス稼働時間)の間で就業ができるようにしています。ケイリーパートナーズには子育て中の女性だけでなく、朝と夕方だけ働き、昼は別の企業で仕事をするパラレルワーカー、2時間だけ在宅で働く社員などが在籍。出勤するスタイルも自由で、子連れでの出社や家族の体調不良で出社から在宅に切り替えるといったことが可能です。デジタルツールもフル活用することで、多様なライフスタイルに合わせたワークスタイルを実現しています。
さまざまなバックボーンを持つ人材の活躍により、高い業務効率も誇っています。社員は現在、代表取締役を筆頭に23人いて、全員が女性です。チームを円滑に運営するために、「人の悪口を言わない」などの行動規範を明文化した「クレド」、1on1メンタリング(デジタルとリアルとの組み合わせ)の定期的な実施により、設立から5年が経過した現在でも、離職者をほぼ出していません。
コロナ禍で効果を発揮した、デジタルツールの積極的活用と成果
ケイリーパートナーズで進めてきた働き方が、コロナ禍で非常に効果を発揮しました。

コロナ禍では学校の一斉休校により、家にいなければならないなどの事情により、会社から求められる働き方ができず退職してしまう人も多かったのです。
ケイリーパートナーズでは、誰もが働き続けられるためには、業務のデジタル導入が必須であると捉え、デジタルを活用した仕組み構築を急ピッチで進めていきました。

同時に、幸せに働く人の条件として大切にしている「心身ともに健康な状態でいられること、良好な人間関係の中で、働き方を自分で決められる」という3つの条件を、デジタルの活用により実現しようと考えました。
Google WorkspaceやサイボウズOffice、Chatwork、Zoomなどのクラウドツールやコミュニケーションツールの導入により、リモートワーク率を8%から85%まで引き上げました。

当初、デジタル活用の目的は社内の働きやすさと働きがい(EX)を求めるためでしたが、導入から2年経つと、社外からも「デジタルツールの導入を支援してほしい」といった依頼が入るようになり、3年目からはデジタル導入支援(CX)としてのDXの活用も広がってきています。売り上げも当初より3倍まで成長させることができました。社員満足度に関しても、働きやすさ、働きがいともに非常に高い満足度を誇っています。
豊かに住み続けられる幸福度の高い地域づくりを目指して

ケイリーパートナーズでは多様な働き方を自社で取り入れて、誰もが活躍できる環境を整えています。さらに、昨年度からは行政との協業を通じ、デジタルを活用した働き方の柔軟性を広げる取り組みを進めており、企業の採用支援や働く人々のキャリア支援にも注力しています。これまで100社以上の企業と連携し、230名以上の個人にキャリア支援を提供しています。企業や行政との協業は、今後も継続予定です。
こういった取り組みを通して、豊かに住み続けられる幸福度の高い地域を作り、誰もが活躍できる多様な働き方の実例を作っていき、今後もより自由で多様な働き方を推進していくことを目指しています。
まとめ
ケイリーパートナーズの取り組みは、2時間からのワークシェアという革新的なアプローチと、デジタル技術の積極的な活用により、ライフステージの変化に柔軟に対応できる働き方を、地方の企業でも実践できることを証明した成功事例と言えます。本事例が地方における女性活躍と働き方改革の新たなモデルとなって地方の企業にも波及し、日本全体の働き方改革と女性活躍推進に寄与することが期待されます。
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