事例

【株式会社イズミダ】あたらしい魚屋のかたち~DXによる変革~ 

全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。

2022年10月26日に行われた「九州・沖縄大会」より、鮮魚店経営におけるクラウド化でバックオフィス業務を効率化、さらには新規事業創出にも成功した、株式会社イズミダの事例をご紹介します。

株式会社イズミダの概要


■法人名:株式会社イズミダ
■事業内容:鮮魚の卸売・小売・水産加工
■設立:昭和49年10月
■公式Webサイト:https://www.izumidasengyo.com/

水産業界を取り巻く厳しい環境

弊社は鹿児島県の右側の半島、人口約10万人ほどの鹿屋市で昭和49年に私の祖父が設立した会社で、今年で創業48年になります。

屋号は「出水田鮮魚」という名前で、一般的にイメージする昔ながらの魚屋、水産加工品の卸業者だと考えていただければわかりやすいと思います。 

毎朝、市場から買ってきた魚を切り身に加工し、地元の病院・学校に納入、鮮魚を飲食店に卸す、といった水産加工卸業務を40年以上行っており、私が地元に帰ってきた8年前からは、EC販売可能な水産加工品の製造小売・飲食事業を新たに行っております。

現在、水産業界をとりまく状況は大変厳しく、魚の消費量の減少に始まり、地元の病院では県外から大手病院食専門業者の参入や、冷凍技術の発達により生の魚はあまり使わなくなってきているため、 鹿屋市においても昔ながらの小さな地元の魚屋はどんどん辞めていく状況でした。 

私が地元に帰ってくる以前の、弊社の売上高と構成です。

グラフを見ていただければ一目瞭然ですが、弊社におきましても年々売上が減少、大変厳しい状況が続いておりました。また、売上構成比は、地元鹿屋市内の売上がほぼ100%でした。

ファミリー企業が抱える悩み

私が家業を継ぐために帰ってきた時は、家族3人とベテラン従業員数名から成る会社でした。

ここで弊社のような、いわゆる家族経営と言われる小さなファミリー企業が抱える悩みを挙げてみたいと思います。

「休みがない」「事務作業は基本的に紙ベース」「勤怠管理が曖昧」「若い人が入ってこない」など「家族経営あるある」が弊社でも同じように長年行われておりました。

危機感は感じているものの、日々の業務に追われ新しいことを始める時間もありませんでした。この点は、共感できるファミリー企業様もいらっしゃるのではないでしょうか?

ここで、昔の出水田鮮魚の「当たり前」をご紹介いたします。

以前は地元の病院がお客様ということもあり、365日休みがない会社でした。

朝は海を渡った反対側の鹿児島市の、県内一大きな市場に買い付けに行くため、朝は3〜4時から、年末年始などの繁忙期は早朝から夜遅くまで働き、残業時間もつけているのかわからない、曖昧な状況でした。 

職場環境は「男職場」で、魚をさばいたり、配達したりといった現場仕事がメイン。

事務作業は後回しで、休日やその日の現場仕事が終わってから事務作業をこなすという状況でした。

 私が帰ってきてこの状況を見たときに「これから若い人は、この会社で働きたいと思うの だろうか?」「そもそも私自身も、これからずっと働きたいと思うか?」といった疑問を抱きました。

「何かを変えないといけない」と思ったのですが、手をつけることが多すぎて、何から変えたらいいのか、毎日悩んでおりました。

バックオフィス業務を見直し

そこでまず私が変えようと思ったのは、一番時間を取られていたバックオフィス業務です。

こちらは、弊社が現在使っているツールです。 

魚業界というのは紙による事務作業が多いので、まずは事務作業を効率化できないかと考えました。

例えば市場からもらう伝票は紙の伝票で 魚を買う際は市場ごと、業者ごとに毎日伝票をもらっています。それ以外にも納品書、請求書、領収書も紙で、仕分けするにもかなり時間が取られていました。

また市場から魚の仕入れを行った際は、支払いサイトが短いので、数日中に支払いを行わなければなりません。そのため月に何回も振り込みを行うために、仕入れ伝票をまとめて計算したり、振込伝票を書いたり、支払い予定表にチェックを入れたり、といった作業も面倒に感じていました。

そこでまず、仕入れ伝票、発注書などはExcelやスプレッドシートにまとめ、誰でも入力、どこでも確認・修正ができるように共有化しました。

また市場の支払いはネットバンキングで、日々の売り上げはエアレジで、 経費支払いはクレジットカードで行うようにし、これらをクラウド会計に紐付けることで 、日々の仕訳が格段に効率化できました。

クラウド会計ツールを活用し、貯まった領収書をパートさんに空いた時間でスマホで撮影してアップロードしてもらうことで、月末や決算時期に溜まった膨大な領収書の仕分け作業もなくなりました。

また、クラウド請求書ツールを利用し、以前は紙ベースだった納品書、請求書をメール送付することで、紙を使う機会を大幅に減らすことができました。 

これらのツールを利用して、今まで時間が取られていたバックオフィス業務を効率化し、属人化していた作業を誰でもできるよう標準化できました。以前は母が休日に行っていた作業がほぼゼロになり、単純計算で年間150時間以上削減することができました。

空いた時間で新規事業創出

バックオフィス業務効率化によって生まれた時間で、新たな取り組みをいくつか行いました。

地元の病院・学校などへの卸一本、という売上構成比を変えようと思い、4つの取り組みを行いました。

1つ目、卸先の選別です。祖父の時代から付き合いがある卸先もいましたが、利幅の薄い卸先を見直すことで約3分の1の卸先を見直すことができ ました。

それに代わる売上を作らなければ、ということもあり、次に小売店を始めました。

もともと一般のお客様が購入できる売り場がなかったため、車庫を改装し、昔ながらの対面販売の魚屋を始めました。

日替わりで生の魚はもちろん、刺身や、子供でも食べやすい惣菜などを販売しております。

それから、いけすだった場所を改装し、保存が効く干物の開発を行いました。県外の販路開拓を見据えてEC販売に特化し、現在では無印良品や大手百貨店などのECサイトでも販売しております。 

最後に、2022年4月より鹿屋市から海を渡った反対側にある鹿児島市で、対面販売の魚屋を併設した食堂を始めました。実際にその場で食べてもらうことで、より魚の魅力をダイレクトに伝えることができると期待しております。 

クラウド導入で変わったこと

売上構成比の変化です。

以前と比べると、EC販売、小売店、飲食店と新たな柱を作ることで、より強固な経営基盤を作ることができました。

新たな事業を始めると、スタッフ構成・人数も、昔とは異なってきます。

以前のような労働環境では、若い人たちが働きたいと思えないと考え、見直しを行いました。

形骸化していた就業規則を見直し、クラウド勤怠を利用することで分単位の勤怠管理を行うことにしました。

これにより週休2日、残業時間をほぼゼロにし、残業しても分単位で計算するようになりました。

また店舗ロゴを刷新し、ユニフォームを導入、若いスタッフが働きたいと思えるデザイン面での見直しも行いました。

本社と離れた場所に飲食店を開いたことで、日々の売り上げ管理やコミュニケーションをスムーズに行うために、売上管理、エアレジ、スプレッドシートを活用、本社と共有できるよう、ChatWorkやZoomなどを用いて日々のコミュニケーション、ミーティングを行っております 。

これらの取り組みにより現在では女性スタッフの方が多く、平均年齢もかなり若い会社になりました。20代の主婦や、大学生にも、長く働いてもらっております。

今後の展望

今、考えていることは、「仕入れのない売上」の創出です。今までは必ず仕入れが発生する業態でしたが、今後はスキル・体験を売ることを考えております。

例えば親子での「魚さばき教室」や、旅行会社と組んだ「市場見学ツアー」などです。

実際に丸のままの魚を見たことがないような子供たちに、魚をさばいてもらい、その場で

食べてもらうことで、魚に興味を持ってもらおうと思って始めた取り組みです。

市場見学ツアーは旅行会社と組んで、市場や競りの様子を見学し、競り落とされたばかりの新鮮な魚を昼食に食べてもらうツアーです。

また最近では高校生とコラボで商品開発の授業を行ったり、鹿児島大学の水産学部と連携し、採用に関するイベントなども行っております。

実際に現場を見て、体験してもらうことで、魚に興味を持ってもらい、魚を食べる子供たち

が増える。また、私たちの仕事を知ってもらうことで、地元にUターンしたいと思えるよう な子供を増やすことができれば、長期的な目線で、自社に限らず、地元にとってもプラスになるのでは、と考えております。

おわりに

卸だけではなく、魚をベースにした新たな取り組みを増やしてきましたが、今後も魚の持つ可能性を軸に、今までにない新たな事業を創出していきたいと考えております。

新しいことにチャレンジし続け、若い人が働きたいと思える会社を目指します。

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