事例

クラウドサービスを活用した生産性向上への取組み~機械で稼ぐ !現場力の強化~ 

多品種少量生産は、クライアントの要望にきめ細かくこたえられる反面、生産性の向上が大きなカギを握っています。特に精緻な加工を擁する製品となればなおさらです。DX推進を行う時に「人の仕事が代替されるのでは」と不安を抱く企業も多くあります。しかし、細やかな職人技は全てを自動化・機械化することが難しい匠の技です。株式会社ひびき精機では、主にベテランから若手への技能継承のためにDXを活用。中小機構からのサポートを得ながら、業務効率化のために機械の停止ロスを削減したり、オンラインで遠隔技術指導を行ったり、将来のためにスマートファクトリーへの取り組みを行った事例です。

株式会社ひびき精機

本社工場:下関市菊川町田部186-2
設立:1975年12月15日
事業内容:部品製造・研究開発支援(半導体製造装置関連、航空宇宙関連、各種精密機械)1993年より「技術技能伝承企業」を目標に掲げる
従業員数:105名(平均年齢34歳)
http://hibikiseiki.com/

技術面での強み  

旋削・マシニングにより、高精度な切削加工を実現できる丁寧なモノづくりが当社の強みです。

このような工作機械を活用して金属を削ります。1ミクロン(0.001mm)単位の緻密な精度が求められる精密部品を作る職人集団です。

大型で薄く加工が非常に難しい部品、例えば半導体の製造装置の心臓部となる大事な部品を得意としています。

中小企業製造業における課題~労働生産性の低さ 

半導体製造装置メーカー様や航空宇宙関連メーカー様等、各種精密機械部品を必要とされる様々なお客様からのニーズに対応するため、多品種少量生産による受注生産を行っています。しかし、工具の切り替えや段取り替えがその都度発生し、手作業に頼らざるを得ない工程が多数存在するのが現状です。この点が、少品種大量生産を行う製造業とは大きく異なります。

 多品種少量生産は、近年の多様な発注ニーズに応えられる生産体制です。その一方業務に属人性が見受けられ、自動化して高い生産効率を維持するのが難しくもあります。生産性の向上が課題となっていました。

経営課題

 当社が、クラウドサービスの導入に踏み切ったのは、生産性向上を阻害する3つの課題があったからです。

 1つ目は、工場間の距離があることによって、指導のために社員が行き来する移動時間を削減すること。

2つ目は、属人化された仕事のノウハウを暗黙知から形式知へ変えること。

3つ目は、データをバックアップして、災害時などのデータ損失に備えることです。

ソリューション

 課題解決のために3つの方策に取り組みました。

 1つ目は、2017年から開始したTPM活動。中小機構の支援で実施しています。

TPM活動とは、持続的に利益を確保するためのマネージメント手法です。人材育成や作業改善、設備改善を継続的に実施する体制と組織を作るため、製造現場における改善を目的とした課題抽出を日々行っています。

2つ目は、2019年に作ったプロジェクトチーム「DX推進委員会」です。

DXを進めるには、社内の環境・社員の意識を変えることも重要だと考えました。

オンラインでも、工夫次第でコミュニケーションが可能だと社内で体感してもらうための仕組みつくりを行っています。

3つ目は、2020年に各従業員に ipadを支給したことです。

iPadを全員で使用することで、距離の離れた第一工場~第三工場までコミュニケーションが円滑になり、遠隔での支持も容易となりました。

TPM活動によるロスの作業改善・設備改善を実施

TPM活動を通じて「製造現場の生産性を向上させるには、工作機械の停止時間を減少させる」ことが効果的だとわかってきました。

 さまざまな理由から機械が止まってしまうことで、生産性を阻害するロスが生じていたのです。そこで、ロスを「見える化」するため、すべての生産設備に対して稼働状況がわかるシステムを整備しました。

機械の稼働状況の監視

工作機械から加工中の製品名、稼働時間、停止時間、異常発生などのデータを採取。加工者が現場に出向かなくても、機械の稼働状況をモニターで確認分析できるようになりました。

活用したクラウドサービス

全社員に配布した iPad には、MicrosoftのTeamsや azureなどのクラウドサービスを導入しました。これまで、電話や直接出向いてやりとりしていましたが、チャットやビデオ電話を使うことで、現場の状況について即時情報共有を可能としました。

 また、DX推進委員会により現場の声を吸い上げ「あったら便利な機能」については、社内外のアプリケーションを使用し解決しています。

 具体的な事例としては「 somu-lier tool(ソムリエツール)」です。

感染症予防対策として、毎日の朝礼で行っていた体調管理を各従業員が自身でiPadに入力。管理者は、従業員の体調を一目で確認できます。体調悪化に備えて従業員へ休憩や早退を促したり、人員補充を検討するなど先行対応が可能になりました。

自社開発のアプリケーション

 こちらは、社内で開発したアプリケーションです。

技能継承のために必要なテキストやマニュアルを、誰でも見ることができるように整備しました。従来は紙や現場で行っていた情報共有を、自社開発のアプリケーションによるオンラインでのシェアに変更しています。iPad から品質向上のためのニュースを定期的に発信することで、生産性の向上と共に品質面の向上にもつながりました。

 社内の技術辞典や、改善活動の履歴、製品ごとの解説動画をデータで保存。ノウハウをスムーズに継承できる体制を整備しています。

 マニュアル・ノウハウについても、写真や動画を通して伝えられるようになりました。新しい発見もタイムリーに展開される文化が生まれつつあります

連携協定の締結

2020年から、NTT西日本と中国地域初のローカル5Gの活用に関する共同トライアルを開始しました。現在は、スマートファクトリー実現に向け取り組み中です。

ひびき精機が目指す無人化新工場のイメージ

社員がより高付加価値な業務に取り組むため、業務効率向上を目指して2020年に新たに第3工場を建設しました。

生産性が高い工場の実現に向け、これまでに取得した各データを活用。効率化による自動化と、無駄な作業の削減に取り組んでいます。

リモート作業支援

第3工場を使用した実証実験の一例がこちらです。

NTT西日本とベンダーの協力により、ベテラン社員がリモートで若手社員の作業支援や指導をする新しい技術伝承の体制を作りました。

本社にいるベテラン社員が、工場内の様子をリアルタイムで確認。若手社員の作業者の目線で同じものを見ながら作業指示を行います。

リモート指導の導入により、ベテラン社員が現場に直接出向いていた従来の体制と比べて、作業指示に関する時間を約20%~30%削減することができました。

TPM活動とNTT西日本 共同実験による成果

これらの取り組みにより、2020年度は年間5700時間分の作業工数の削減効果が出ています。

背景のグラフは、機械の稼働状況を見える化したモニターを抜粋したものです。グラフの隙間は機械が停止していることを表します。対象の機械では2021年8月度は稼働率85%を達成しました。

本取り組みによる生産性向上の結果、取り組みを始めた2016年度から2021年度は1.5倍以上の売り上げを計上しています。

作業工数の削減分は社員の福利厚生にあてたことで、取り組みへのさらなるモチベーションへとつながりました。

当社では各従業員が職人として技術を磨き、日々自らの腕と経験でその技術を高める努力をしています。ロボットではできない繊細な加工技術は、人間だからこそできる匠の技です。

この「人」による加工技術の高さは、これからも変わらない当社の何よりの強みだと考えています。

半世紀以上をかけて技術継承してきた職人の技を、これからもできるだけ多くの人に継承したい。その思いから、経験の浅い人へデジタルツールを継承のサポートとして取り入れてみてはどうかと考えました。

これからも、積極的にクラウドを活用した取り

応募受付中

日本DX大賞

DX推進の取り組みを共有しませんか?

日本DX大賞 2025 エントリー募集中

あなたの組織DX推進事例をぜひ日本DX大賞にご応募ください。他社の参考となる貴重な取り組みを共有することで、日本のDX推進に貢献。また、受賞企業は事例集への掲載やイベントでの登壇機会など、さまざまな形で企業価値向上につながります。