全国中小企業クラウド実践大賞は、クラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化したモデル事例のなかから、コンテストにより優れた取り組みに対して総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞等を贈るコンテストです。
2020年11月25日に行われた大阪大会より、株式会社ハマヤの事例をご紹介します。創業50年を迎える老舗の手芸卸店である株式会社ハマヤ。電話・電卓・手書きの複写伝票を使うという超アナログな業務を、クラウド化によって刷新。業務改革により残業をゼロにしただけでなく、空いた時間で新規事業と新ブランドも創設。現在では他業種にもクラウドサービスの提供も手がけるようになり、利益率も向上させています。なんと、ほぼ無料で行ったという「クラウド革命」の発表です。
株式会社ハマヤの概要

■法人名:株式会社ハマヤ
■事業内容 :手芸用品の卸小売及び、小売店向け販売管理システム
■設⽴:50年
■公式WEBサイト:https://hamaya-kyoto.com/
■DX用WEBサイト:https://dx.hamaya-kyoto.com/
■amioto(アミオト):https://amioto.jp

株式会社ハマヤは、京都にある設立50年の中小企業。手芸一筋50年ということでの手芸材料の卸問屋を営んでいます。
手芸材料というのは、手編みのセーターとかマフラーなどに使う毛糸など、手芸をするための材料、道具を町の手芸屋さんに販売するという仕事です。
旧態依然の卸事業のため、管理業務のウェイトが大きく占めていました。
そんな手芸屋が実践したクラウド革命について、次項より説明いたします。
2018年9月の現状 -in ハマヤ-

2018年9月の段階で、株式会社ハマヤは「超アナログ」な業務を行っていました。
どれぐらいアナログだったかというと「これがないと仕事にならない」と皆が口を揃えていう「三種の神器」があったのですが、それが、電話・電卓・5枚複写の手書き伝票だったのです。
仮にアナログであったとしても、ビジネスが上り調子であればまだ良いのですが、手芸業界は残念ながら斜陽産業。
下がる売上、ふくらむ赤字であるにもかかわらず、調子が良かった時の事業はそのまま残っているという、本当にザ・中小企業とでもいうべき会社でした。
革命を起こすと決意

「このままじゃヤバい」と革命を起こすいう決断をし、ここからすべてがスタートしました。
クラウド化を図るために、勉強を重ね、トライ&エラーを何度も繰り返して前に進んできたのです。
クラウド(デジタル)化の結果

どのようなことを行ったかは後述しますが、まずはクラウド化による結果を見てみましょう。結果的には「革命に大成功」し、5760時間の削減に成功します。
コストとして削減時間を換算

5760時間というだけではわかりにくいので人件費で見てみましょう。
パートさんの時給を約1000円とすると、約570万円の利益が出たことになります。
売り上げではなく利益というのがポイントです。この年間約570万円ずっと削減し続けてい
ことになります。
手芸材料は100円という価格のものがざらにあるくらい、単価がとても低いのが特徴です。経済産業省の調査によると、卸売業の平均利益率は約11%。仮に100円の商品を販売しても11円の利益しか出ません。
それで570万円の利益を出そうと思ったら、50万個販売するというくらいのインパクトがある数字なのです。
使ったクラウドサービス

メインで使ったクラウドサービスはGoogleです。
Google のサービスでは、gmail であったり Google calendarだったり Google ドライブだったり、質の良いサービスを無料で提供してくれています。
無料というのを使わない手はありませんので、Googleのサービスを中心に改革を進めることにしました。

その中でも一番注目したのが、google スプレッドシートと google Apps Scriptです。
かなり簡単に解説すると、
Google スプレッドシート:Excelのクラウド版
Google Apps Script:VBAのクラウド版
ということになります。
これらを使えば、簡単な web サービスが作ることができるということに着目して、改善を進めました。
クラウド革命Before&After
それでは、クラウド革命の具体的な内容を見ていきましょう。
発注管理~Before~

まずは発注管理です。
従来、発注管理はとても時間がかかっていた業務でした。
どのようにしていたかというと、壁にメーカー毎に「発注のポケット」をつり下げ、パートさんが自分の発注したい内容を書いたメモをそれぞれのポケットに入れておきます。
発注担当は、メーカーごとの発注曜日になったら、ポケットからメモを取り、自分の机に広げ、手で集計します。そして手書きで発注書を書きます。
皆がバラバラに商品を何個って書くので、商品ごとの個数を手集計していたのです。
発注管理~After~

この状況を改善するために、スプレッドシート上に発注管理システムを作りました。
一見Excelですが、スプレッドシートなのでブラウザで開いており、裏ではクラウドのデータサービスAWS とつながっています
商品を入力すると画像や補足情報が自動的に出てきますので、発注曜日になったら発注担当はボタンを押すだけで自動集計。
ワンクリックで発注書がメーカーごとに印刷されます。
システム化により、5人でやっていた発注業務を1人で完結させることができるようになりました。
発送管理~Before~

次に発送管理です。
実は、発送管理はもともとできていませんでした。
まず、基本的にはお客様から「すみません、うちの荷物どうなってますか?」という問い合わせ電話が入ることから始まります。
その電話を受けたらどうするか。その都度手書きで書かれた宅配便などの発送票の控えをめくって探していたのです。
もし伝票がない場合は、まだ発送されていないので、状況を確認するということが社内でよく起こっていました。
発送管理~After~

発送管理についても、スプレッドシートを活用してシステム化をしました。
まず送り状を手書きすることをやめ、配送会社の送り状発行システム導入。PCで送り状をを発行できるようにしました。
送り状にはバーコードが付いているので、発送完了後にスプレッドシートにバーコードリーダーで読み込みます。
1日の最後に「出荷通知」ボタンを押すと、出荷通知データがクラウドサーバーに入り、それぞれの小売店さんに、LINEやメール、チャットワークなど、事前に確認・指定された方法で通知が行くという仕組みです。
その他にも…

代表的な例として、発注管理と発送管理をあげましたが、他にも入荷管理、在庫管理、顧客管理、売上管理、経費精算、勤怠管理、競合店価格調査…などなど、約2年間で100ぐらい
スプレッドシート経由でシステムを作りました。
一番最初のシステムをつくって移行するのにはおおよそ3カ月ぐらいかかりましたが、それからはどんどん移行を進めました。
システムの基本構成

いずれのシステムも基本構成は共通しています。
全てGoogleスプレッドシートを起点とし、クラウドサービスのAWSやGoogleクラウドにデータを書き込んだり、データを読み込んだりしています。
また、各種クラウドサービスについては、APIでgoogle Apps Scriptdで経由でスプレッドシートに連携しています。
管理側としても、もともとExcelで管理していた時は、Excelファイルを保存している端末に依存してしまい、一つのファイルと変更したら別の端末やファイルも直さなければいけない状況になっていました。しかし、クラウド化によって、一つ修正すれば皆同じように使えるようになったので、大変便利になっています。
DXとして成功?!

冒頭にお伝えした時間削減とともに、DXによりどのような成果が出たのかを見ていきましょう。
1.利益率の向上
会社としての利益率は、卸売業平均を下回り、9%ぐらいしかありませんでした。しかしクラウド化により利益率を30%まで向上させることができました。
データの蓄積ができたため、過剰な在庫の撤廃や的確な販売施策を立てることができた結果であると考えています。
2.新規事業設立
手芸屋さん向けに ITの事業を立ち上げ、社内デジタル化とかDXノウハウを提供するという新しい事業を始め、これが順調に伸び、総クライアント数も30近く、社内の利益シェアもすでに30%にまで達しています。
東証一部上場の大手IT ベンチャーとの契約締結するなど、部署も拡大中です。
3.手芸ブランド設立
クラウド化によって業務時間が削減された結果、時間が生まれたこともあり、社内には手芸が好きな人がたくさんいるので皆で商品を企画し新しいブランドを作ることができました。
amioto(アミオト):https://amioto.jp
作業時間が減少した分、「まず何をしよう」から始まって、クリエイティブなことを考える時間に費やすことができるようになり、ビジネスにまで成長しました。
他にも副次的効果が多くありましたが、これらがクラウド化の代表的な成果と感じています
最後にコスト感を…

「これだけたくさん改善をされたら、費用もたくさんかかったのでは?」と聞かれることが多いのですが、実はほぼ無料でした。
それは、Google の無料のサービスを中心に使ったからです。
クラウド化は笑顔を創る最高の技術

クラウド化によっていろいろな改善を行い、たくさんの業務・時間の削減を行ってきました。クラウド化をして一番良かったなと思うことは、社内に時間と笑顔が生まれたということです。
残業はゼロになり、社内に余裕ができたおかげでコロナ禍でのテレワークも可能に。部門によっては100%テレワークを実施できています。卸業なので発送の業務については出社が必要ですが、最低限で抑えられるようになりました。
クラウド化で作業を変えるというのは、社員に大きなストレスがかかります。そのため、「クラウド化したらこうなる」という未来の良いビジョンを見せることが非常に重要です。また、既存業務との同時並行ではなく、彼らの業務を圧迫している業務をはずしてから新しいことに取り組んでもらう時間を作る努力を同時に行う必要があるでしょう。
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