事例

フジイ印刷株式会社「お金をかけない製造業のデジタル化」

全国中小企業クラウド実践大賞は、クラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化したモデル事例のなかから、コンテストにより優れた取り組みに対して総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞等を贈るコンテストです。

2020年11月18日に行われた岡山大会より、フジイ印刷株式会社の事例をご紹介します。

「お金をかけない製造業のデジタル化」を目指して様々な工夫をすることで、本来であれば1000万円以上かかる導入費用を約400万円に、さらに補助金の活用なども行っています。システム化による成果は、業務改善による残業ゼロやリモートワークの実現に加え、新たな商品開発などを可能にしました。事例をnoteで公表するという新しい取り組みもされています。

フジイ印刷株式会社の概要

■法人名:フジイ印刷株式会社

事業内容 
・ オリジナル印刷
名刺、封筒、年賀状、ボードゲーム、紙文具など

・ビジネス印刷
複写伝票、連続伝票、ラベル、荷札、ミシンペーパーなど

・ 小ロット印刷
冊子、パンフレット、チラシ、診察券、No.入りチケットなど

・各種加工印刷
電子ブック化、封入宛名発送、カスタマーバーコード入り宛名印字など


■創業:昭和24年(71年)

従業員数:正社員10名+役員2名
営業(1名+社長)
校正・営業補助(1名)
制作(4名)
印刷・仕上(4名)

■公式WEBサイト:https://www.fujii-print.com/

■Facebook:https://www.facebook.com/ushimadofujii/

■note:https://note.com/fujis0u

フジイ印刷株式会社は昭和24年創業で71年の歴史がある印刷会社。主に、企業・団体向けの伝票や封筒、報告冊子などの事務印刷を手がけています。

いわゆる中小製造業にあたり、従業員数が10名と役員が2名。全体で12名です。

 今回の解説内容は3つあります。

1つ目は「デジタル化の目的」

2つ目は「お金をかけないデジタル化」について

3つ目は「デジタル化のその先」についてです。

デジタル化の目的

まず、デジタル化の目的です。

デジタル化の目的については「人、時間、スペースの不足をできるだけお金をかけずに解消すること」と捉えています。

 そのための一つの手段として、クラウド化の実践を行うことになりました。

お金をかけないデジタル化

「お金をかけないデジタル化」は、どのような方法があるのか。フジイ印刷株式会社における「3つの不足」の解決事例をもとに見ていきましょう。

人の不足

 まず「人の不足」についてです。

会計担当者が退職することになったのですが、会社が地方であるためにパートも採用できないという状況に陥りました。

これを解決するために、会計業務自体を分散処理し、外部の協力会社で会計業務を回す策を考えたのです。

実現のために実践したことは、以下の3点です。

1.製造業に対応したクラウド会計ソフトの選定

2.クラウド対応の会計事務所と会計データの移行処理

3.クラウド対応の記帳代行会社との連携

クラウド会計ソフトについては、元々は「勘定奉行」を使っており、MFクラウドやfreee、弥生会計など有名どころは全部試しました。

最終的に選定したのはA-SaaS(エーサース)という会計ソフトです。

A-SaaSは、製造業の会計に対応しており、会計・給与・マイナンバー・税務の機能が揃ったオールインワンシステムだったことが選定ポイントでした。

また、システムに対応した会計事務所と、記帳代行を行ってくれる経理代行会社(ネットリンクス株式会社 )とも契約できたところが、実現のポイントでした。

会計分散処理のイメージ

実際の会計の分散処理のイメージはこちらになります。

・クラウド会計のA-SaaS:https://a-saas.com/

・ファイル共有のbox:https://www.box.com/ja-jp/

・銀行のネットバンク

・メッセージに使用するGoogleハングアウト:https://play.google.com/store/apps/details

 この4つのサービスを、自社と経理代行会社、会計事務所の3者で共有する形で、会計処理を完結することができるようになりました。

 クラウド会計で業務を外部化することで、会計担当者の退職による「人の不足」問題を解決することができたのです。

人の不足を解決した結果

会計担当者不在による人の不足をクラウドによって解決した結果……

会計業務は代表者1名で完結できるようになり、さらに業務自体も1日30分程度の処理で終わるようになりました。

また、従来はサーバー型(オンプレミス)ソフトだったので、更新した場合は400万円以上かかっていましたが、クラウド化によりソフトの導入費用が実質0円になったのです。

時間の不足

次に「時間の不足」についての解決事例です。

自宅と営業先のある都市部から会社までは片道1時間。1日2往復していたので、1日の中で移動に4時間もかけていました。

この状況を解決するために、業務システムをリモートでできる仕組みにしようと考えたのです。

実践したのは、販売・仕入・生産の業務システムの構築です。

FileMaker というデータベースアプリを使用し、商奉行の販売データと過去の紙ベースで保存していた製造データを1年間かけて移行しました。

やり方としては、製造の完了した紙の作業伝票をスキャナーで取り込み、ファイルメーカーで自動採番した番号を必ず入力するというルールを作ってデータベースで紐付けしています。

データベース化したことで、情報が圧縮されますので、一覧化した帳票と印刷見本をセットにして管理することで検索性を高めました。 

業務フローの変更

FileMakerの活用により、業務フローが大幅に変更になりました。

これまでは、販売システムと作業指示書の重複入力や、管理部門でも作業表の転記など、業務において大きな無駄があったのですが、過去履歴を元にした引用でシステム入力が簡単になったことと、各工程ではバーコードで作業時間や作業内容を管理するため、iPhone・ iPad のバーコード機能で迅速にアクセスできるようになったのが大きな変更点です。

時間の不足を解決した結果

 このように不足を解決した結果、1日2時間の移動が0になっただけでなく、問い合わせにもその場で FileMakerのアプリでサーバーにリモートアクセスして対応可能になりました。

FileMakerについては、アクセスのしやすさや取扱いデータの容量を鑑み、従量課金のクラウド型ではなくサーバー型での運用をしています。

さらに、複数の業務を一つのアプリに自前でカスタマイズして統合したことで、それぞれクラウド型のサービスを契約するより、大幅なコストダウンが図れました。

スペースの不足

次に、スペースの不足の解決方法です。

社内には多くの事務机が存在し、人数の変更があってもレイアウトをなかなか変えられないという状況が起こっていました。

そこで「業務を全てモバイル化して、固定の事務机を捨てる」ことにチャレンジ。

まずパソコンでの業務をなくし、業務システムをすべて iPad と iPhone で操作できるようにしました。

これはFileMakerの標準機能で対応が可能です。

iPad+iPhone(15台)で通常業務の完全モバイル化を達成!

 そして、社内のインフラを iOS の標準アプリと Google Workspace (旧G-suite)に統合。さらに、固定電話と Fax をクラウド化して完全に業務をモバイル化しました。

現在は iPadと iPhone 15台で、通常の業務も完全モバイル化しています。

1番のポイントは、前述のFileMakerを使って受注・生産・出退勤のデータを全部統合したとことです。

製造業の場合は、データ量がどうしても大きくなるので、こちらもサーバー形で運用することでコストをぐっと 圧縮できました。

また、Google Workspaceを使わなくても、そもそもiPad 自体に標準アプリとして、メールやアドレス帳、メモ帳やチャットなどのサービスが入っていますので、これだけでもインフラが整えられます。

スペースの不足を解決した結果

スペースの不足を解決した結果、 PCと事務机をなくしたスペースを、多目的スペースにリノベーションすることができました。

さらに、端末は中古の iPad や iPhone にしたため、アプリを含めるとだいたい5分の1ぐらいの導入コストで調達できています。

こちらがリノベーション後の多目的ルームの様子です。

 カウンターの上にあるのは「ロボホン」。受付をしてくれています。

クラウド実践のPoint

 ここまでの結果を振り返り、クラウド実践のポイントについて述べてみます。

(1)使用者の目線で選ぶ

 まず「使用者目線」が大事です。

業務が行われている現場をよく調べて、本当に成果がある仕組みになるように十分考えましょう。

(2)むやみにクラウド化しない

 「クラウド化」が先に立ってはいけません。

自社の扱うデータ量からクラウド化とサーバー型のどちらが、コスト面やアクセススピードで最適かを判断することが重要です。

(3)PCからタブレット・スマホに

 PCに拘らず、タブレット・スマホを活用しましょう。

パソコンのあるデスクから解放されると、オフィスは非常に自由なレイアウトができます

デジタル化の先は

デジタル化の先は、業務改善を行って創出した時間やスペースを活用し「新しいこと」に挑戦をすることです。

 フジイ印刷株式会社では、就業スケジュールを変更し、リノベーションした多目的ルームで

毎朝40分のアイデアミーティングを新設しました。もちろんもちろん残業はゼロです。

毎朝の対話ミーティングでは、デジタル化やリモートが進む今こそ求められる商品や販売のアイデアが生まれてきています!

オリジナルのボードゲームや紙文具のアイディアもミーティングで生まれました。

【参考資料】これまでのデジタル化実践の歴史(2015年~2020年)

こちらは、フジイ印刷株式会社にて、2015年から2020年までの5年間で取り組んだデジタル化実践のリストです。

これだけのことをすると、本来は5年間に1000万円以上必要でしたが、いろいろな「ひと工夫」をしたことで400万円程度に抑えられ、かつその半分は補助金でまかなうことができました。

現在の年間運用費は60万円程度で、プラス会計代行の委託費が必要となります。

工夫次第で、お金をかけなくてもデジタル化ができます。

現在のクラウド実践フロー

現在の業務フローはこのような形です。デジタル化を果たし、その先へ進むことで不足を解消するだけでなく、多くの得られるものがあります。

デジタル化の詳細はnoteで全て公開

フジイ印刷株式会社では、自社のデジタル化の実践内容をnoteにて公開しています。

noteはクリエイター向けの投稿サービスですが、サーバーレスWEBサイト作成サービスのSTUDIOで制作した自社サイトとの連携が簡単であり、情報公開ツールとして非常に便利ツールです。

特に中小の製造業は、クラウド化やデジタル化についてコストを掛けずに実践するための情報があまり存在しません。

そこで、本日登壇された方のようなノウハウを持った方々と情報を共有したいと思い、フジイ印刷株式会社のこれまでの情報を発信しはじめました。

 noteには情報を非公開で共有できるサークル機能もありますので、参加してくださる企業や事業主の方とより突っ込んだ情報共有をすることで、業務効率化や新しいことに取り組める仲間を作りたいと考えています。

ぜひ一度ご覧ください。

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