全国中小企業クラウド実践大賞とは、クラウドを活用して新規事業創造、収益向上、業務効率化を実現した中小企業等の実践事例を発掘し、広めていくためのプロジェクトです。
2022年10月21日に行われた「近畿・中国・四国大会」より、60歳以上がメイン人材の業界でもDXを実現した株式会社スターメンテナンスサポートの事例をご紹介します。
株式会社スターメンテナンスサポートの概要
■法人名:株式会社スターメンテナンスサポート
■事業内容:
電気保安協会の運営、エネルギー・サービス・プロバイダー事業、各種マネジメントシステムの設計・開発
■設立:平成13年
■公式Webサイト:https://www.ecopu.net/
60歳以上がメイン人材でもDXできる
スターメンテナンスサポートは2001年に設立した電気保安協会を運営する会社です。
簡単に言うと画像のような高圧の電気設備を、国家資格を持った電気主任技術者が点検をするお仕事です。

お客様は様々で、工場、学校、病院 、スーパーマーケット、飲食店、太陽光発電所といった業種です。
当社は岡山本社のほか広島・岐阜に支店があります。
電気保安という業界は少し独特なのですが、
本日は
・60歳以上がメイン人材でもDXできること
・社員の25%がほぼ同時に産休に入ってもなんとかなる
といった、中小企業でもSDGsで言う「誰一人取り残さない」仕組みづくりができる、ということをお伝えします。
電気保安業界の課題
では電気保安業界の課題を共有させていただきます。
まず、人材不足です。
需要は年々微増している業界にもかかわらず、全国的に技術者不足です。
経済産業省は2030年に全体の1割を超える2000人が不足すると想定しています。
エリアによっては既に対応できないお客様もいらっしゃいます。
そして、高齢化です。
業界全体で主力が60歳以上、当社が運営する協会も平均年齢は67歳です。
次に、単価の低さです。
緊急対応が重要という観点から、1人の技術者が点検できる数は、法律で規制されています。1日の業務時間は4時間程度と短いのですが、同様の理由で副業ができません。
その重要性にもかかわらず、電気保安業界の単価は低くなっています。
さらに、新型コロナウイルスの影響です。
コロナ以前は技術者同士が集まって勉強会や、機材を使っての研修をしていましたが、現在では集合研修ができなくなっています。技術者同士は相互に助け合って点検業務を行っていますが、コミュニケーションの場が少なくなっています。
そして最後に、技術者の多くは個人事業主だということです。
技術者は当社の従業員ではなく、パートナーです。
業務効率化を図ろうとしても指示系統の外にいるため強制力が弱いこと、ITリテラシーや問題意識にばらつきがあること、集合研修ができないことで、改善が図りにくい状況にあります。
つまり、電気保安業界の課題をまとめると、
・需要が供給を上回っているにも関わらず低単価 であること
・高齢化が進んだ業界で年金受給者がほとんどのため低単価でも受ける技術者が多くいること
・業務効率化をしても利益率が上がらないのでやりたがらないこと
・その結果若手人材の流入がなく、規制緩和を待つだけの未来のない業界になってしまっていること
です。
現状打破のためのDX
私たちは現状打破のため、次のような体制を作ることにしました。
・DXでスピーディーな報告ができる
・設備更新のタイミングで改修工事を提案できる
・バックオフィス業務の効率化で利益率アップできる
・売上と利益率のアップで技術者に還元し若手が流入しやすい業界を作る
・ベテランも指導者として生涯活躍できる
クラウドシステム導入や、DXに着手し始めるのは、必然の流れでした。

DX前の一番の問題点は、とにかく情報が多く重複、かつ散らばっていて、信用できないデータがそこかしこにあることでした。情報が散在していることで、お客様への適切なアタックやフォローができず、新規契約が取れない上に、解約も増加するという最悪な状況でした。

そしてもう一つの問題が、情報の散在によるあまりにも複雑な業務プロセスです。これはクラウドツール導入時に棚卸しした業務プロセスですが、段階ごとのすべての場所に同じような内容を入力しなければいけない、非常に複雑なものになっていました。
最も効果を期待できる営業・顧客管理から着手
私たちはまず、一番効果の出やすいと思われる営業・顧客管理から始めることにしました。
散在していた情報をクラウドに一元化し「ここを見ればわかる」という場所を作ったことで3年間で売上高は1.4倍、残業時間は3分の1、有給消化数上昇など、様々な成果が得られました。

営業・顧客管理で成果を出した私たちは、次のターゲットを点検管理にしました。
一番こだわったのは 営業・顧客管理システムと同じプラットフォームで動くことです。
私たちはセールスフォースを使っていますが、セールスフォースの上に点検管理システムを構築することにしました。
点検管理の業務フローと課題をご覧ください。

オレンジ色が技術者の仕事 、青が事務局の仕事です。
やっていることは主に「予定を立てる」「点検する」「報告する」の3種の仕事なのですが 、ツールがたくさんあり、情報が分断されているために、「連絡→確認→連絡→ 確認」といった同じような業務をずっと繰り返しています。
このフローだと、
・件数に比例して業務量が増え、全体が俯瞰できず分析もできない
・お客様によって 連絡方法が違ってやりづらい
・お客様の問題点を社内で共有できない
・報告書確認までの時間が長く、情報が不正確なまま社内で使用されている
といった問題点がありました。
そこで私たちは点検の情報を正しく集めることで大きなメリットが得られると考え、セールスフォース上で「コレクト」という点検管理システムを構築しました。
フローはぎゅっと縮まり、簡単になりました。

1 番のポイントは、改修工事の提案がスピーディーにできるようになり、売り上げが大幅にアップしたことです。
技術者と事務局が同じデータを確認するので入力チェックが不要になりましたし、最新の対応状況がダッシュボードで確認できるので、確認をする側・される側の負担が大幅減になりました。
コレクトによる成果は、次の通りです。
目的の一つであった「スピーディーな報告体制づくり」というところでは、入力・確認業務が大幅に削減でき、多くの場合で当日中にお客様に報告できるようになりました。
そして、設備更新のタイミングで改修工事を提案することで、7600万円の売り上げを立てることができました。
さらに、バックオフィス業務の効率化で利益率がアップ、対技術者の支払いは1.3倍となり技術者に還元し若手が流入しやすい業界を作る 土台ができたと思います。
そして、ベテランが指導者として生涯活躍できる場を作っています。
副次的効果もありました。
点検時のiPadのカメラを利用し遠隔で指示することで点検時のトラブルを解消したり、紙管理の減少により支店での情報把握が容易になったり、産休育休後でも復帰が簡単になりました。
そして点検予実管理の業務時間が減り、ブログ・メルマガなど情報発信の時間を確保したことで訪問以外の顧客接点を増やすことにもつながりました。
DXが成功するコツ
私たちが考えるDXが成功するコツをお伝えします。
1つ目は、業務の全体像・詳細を、正確に、徹底的に把握することです。
次に、スモールスタートを心がけること。「どうせデジタル化するなら…」と項目を増やすと現場の仕事が増えてしまいます。まずは「置き換え」から進めましょう。
そして、初期構築時は人手を増やすこと。DXはそもそも「使用していて問題ない」レベルの運用まで持っていくのがめちゃくちゃ大変です。 移行期は人手を増やさないと通常業務が回らない、と考えましょう。 私たちは短期の派遣社員やアルバイトさんに入力業務をやってもらいました。
そして、すべての業務は「ログイン」から始めましょう。業務の起点をシステムにすることで利用が必ず継続されるようにしました。
個人的に重要だと思っているのは、1つのプラットフォームで開発することです。
分断されたシステムを使うのは、デジタル化されていても、結局情報の散在を生むと考え ています。1つのプラットフォームに情報を集約することで、様々なアウトプットが簡単かつ早く、営業や管理に活用できると感じます。
最後に
電気保安業界は、多様な経験・技術を持つ人材が集まる場です。
点検する人がいなければ太陽光や風力といった再エネ発電の普及はできませんし、電気を安定して使えない国は経済発展もできません。
スピードや新しい提案といった付加価値で、点検ではなし得ない高利益率を生み、それを社員やパートナーに還元することで、この場所を守り、成長させ、業界の活性化をしていきたいと思っています。
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