DX事例

保護者の質問にAIが24時間365日対応!幼稚園が開発した、画期的なQAシステムとは

共働き世帯の増加に伴い、幼稚園や保育園を利用する保護者が急増しています。一方で、子どもを預かる側の幼稚園や保育園は、目の前の子どもたちのケアや手書きでの連絡帳記入、園だより作成をはじめとした業務に日々追われており、保護者や子どもたちとじっくり向き合って接するゆとりがないのが現状です。

2023年4月、横浜市旭区にある学校法人アルコット学園しみずがおか幼稚園は、保護者の質問に24時間365日対応するAIシステムを開発。時期によっては同じ内容の問い合わせを数多く受けることもあり、自動で回答を生成するAIチャット機能や自動音声機能を組み合わせたシステムにすることで、幼稚園職員の問い合わせ対応にかかる負担を減らすことに成功しました。

AIの技術の導入を決断し、実際にアプリ開発にもエンジニアとして携わっている副園長の鈴木雄大氏にお話を伺いました。

幼稚園職員を悩ませていた、保護者の電話対応の増加

横浜市旭区にあるしみずがおか幼稚園は、2020年頃から幼稚園経営のDX化に取り組んでいます。急速に進行している少子化、子どもを保育園に預ける保護者の増加、幼稚園の激戦区であり、幼稚園間の競争の激化などが主な理由です。既に残業ゼロ、休日数増に成功していましたが、幼稚園職員を悩ませていたのが、保護者からかかってくる問い合わせの電話対応件数の増加でした。

「園児の数は減りつつあるにもかかわらず、保護者からお問い合わせいただくお電話の件数は平均して1日40件。1件あたり2分と仮定すると1日に80分ほど電話応対に時間を割いていることになります。電話での問い合わせ件数の増加により、園への電話が繋がりにくいというご意見もいただいていました。

一方でそれに対応する職員の負担も疲労も限界に達していたので、早急に対策を講じなければと痛感したんです」(鈴木副園長)

この現状を打破するため、経営陣で議論を重ねていき、導き出した答えが「AIに頼ろう」でした。

ChatGPT×Chatworkで、保護者の質問に24時間365日回答

鈴木副園長は、電話対応へのAI活用のねらいを、次のように説明しました。

「AIを提案したのは、実は私なんです。メールの返信や連絡帳作成などの業務で既にAIを活用していたので、当園で開発したAI質疑応答システムとIVR(Interactive Voice Response:自動音声応答システム)を使ったアプリを開発すれば、保護者の問い合わせに24時間対応できるし、幼稚園の魅力の向上につながるのではと考えたんです」

「AI質疑応答システム」は、ChatGPTとChatworkを連携させたQAシステムです。事前に学習させた幼稚園のルールをもとに、保護者からの質問にAIがおよそ5秒で回答しています。

結果、翌日の給食の有無や持ち物といった質問をするために、保護者は園に電話しなくて済むようになり、職員の電話応対の時間も減少しました。

AI質疑応答システムと併用しているIVR(自動音声応答システム)には、CallCall-IVRを採用。音声案内に従って保護者が回答すると、その録音データがテキスト変換でChatworkに送信されます。

IVR(自動音声応答システム)の導入により、メールやフォームへの入力ではなく電話をかけたい保護者のニーズに応えることができました。こちらも土日祝日や休園日、時間を問わず年中無休で対応しているので、懸念点の一つだった固定電話のつながりにくさも改善。保護者に新たな連絡手段を提供できました。

個人情報の流出を防ぎつつ、AIの回答の正確性にも配慮

AIによる自動応答は、利便性を飛躍的に高める一方で、セキュリティ面の不安も払拭できません。個人情報の流出や、AIの誤った回答が与える悪影響も懸念されるところです。開発したAIシステムがスムーズに機能するために、鈴木副園長はAI質疑応答システム、IVR(自動音声応答システム)、それぞれに工夫した点について解説しました。

AI質疑応答システム

「AIは毎回正しい回答を返すわけではないので、AIと保護者とのやり取りをChatwork上でチェックし、誤回答があればすぐに訂正の連絡を入れています。また、曜日の判定の厳密化と、幼稚園ルールに基づいた回答を返すこと、回答の正しさを常時監視。誤回答の発生の抑制といった点を守るようにしています」(鈴木副園長)

IVR(自動音声応答システム)

「コールフローを休園、送迎、その他に絞りました。幼稚園特有の言い回しや固有名詞、体温などテキスト変換が上手くいかない場合にChatGPTで変換したり、休園理由の分析にChatGPTを活用したりしています。インフルエンザやはやり目といった感染症対策にも役立てていますが、医療的事項なので、あくまで園内の今後の対策に参考にする程度です」(鈴木副園長)

しみずがおか幼稚園では保護者が安心して利用してもらえるよう、個人情報の流出に細心の注意を払っています。AIの技術を搭載したシステム導入に際して、管理者のみ、パート従業員までといったアクセス制御を実施。AIの回答履歴はすべてデータとして保管しています。万が一AIが間違った回答をしても、Chatwork上ですぐに検知し、訂正できる体制を整えています。

AI自動応答システムがもたらした、さまざまな成果

AI質疑応答システムと、同時活用しているIVR(自動音声応答システム)の活用により、数多くの成果が得られました。電話や連絡帳での問い合わせが減少し、保育や安全管理に注力できるようになりました。保護者からは「知りたい情報がすぐに得られる」「UIが分かりやすい」と好評です。年間で240時間かかっていた電話対応がほとんどなくなり、職員の定着率も向上しています。導入の際は、スロー&スモールアプローチを心がけ、利用希望者を募り、協力体制を構築しました。

「AIには、これまでの“当たり前”を変える力があります。AIを活用することで、本来の業務に注力するためのリソースを確保できるし、保護者の満足度を向上させつつ職員の短期離職を防げます。“AIにできることは AIに任せる”。そんな発想が、これからの幼稚園を変えていくのではないでしょうか」(鈴木副園長)

まとめ

少子化時代にも選ばれる幼稚園を目指しつつ、職員の負担を軽減したいとの思いからはじまった、保護者への問い合わせ対応へのAI活用。しみずがおか幼稚園が独自に開発したAI質疑応答システムと、同時活用しているIVR(自動音声応答システム)は、保護者と園をつなぎ、保護者を含めた関係者全員が安心できる「AI いつでもほっとライン」と名付けられるものでした。