全国中小企業クラウド実践大賞は、クラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化したモデル事例のなかから、コンテストにより優れた取り組みに対して総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞等を贈るコンテストです。
2020年11月11日に行われた札幌大会より、株式会社アプレの事例発表を紹介します。
ハウスで多品種の野菜栽培を行う中で、生産管理、環境制御、販売管理や各種情報連携において、クラウドシステムを構築。生産性向上、業務効率化、そして従業員の業務負荷削減に効果を上げています。地域での連携という点でも見るべきところの多い事例です。
株式会社アプレ概要・事業の特徴
■法人名:株式会社アプレ
■事業内容 :水耕栽培による野菜の生産・直販、水耕栽培プラント技術に附帯関連する一切の事業
■設⽴: 平成18年2月
■従業員数: 30名
■WEBサイト:https://www.apure.co.jp/
株式会社アプレは、道南の東大沼というところで無農薬の野菜栽培に取り組む会社です。具体的にどのような環境で、どんな野菜を作っているのかを見ていきましょう。
年間を通じた多品目の野菜栽培
3,000㎡のハウスの中で水耕栽培をしています。
冬は一面の雪景色ですが、ハウスの中では年間を通して野菜の栽培が可能です。
ハウスの空調には太陽光、温泉熱、地中熱を使用し、化石燃料を使用しないこと、また養液を廃棄しないことで、環境に優しいハウス栽培を実現しています。
水耕栽培ハウスでは珍しい、米ナスやパプリカなどを含む22種類もの野菜を作っているのが大きな特徴です。
多品目を同時に生産することで、デパート、スーパーに自社コーナーを設け、野菜セット(10品入り)の販売を可能にしています。
世界に認められた⽣産⽅法
株式会社アプレは、2018-2019年と連続してGLOBALG. A.P. (グローバルギャップ)認証(https://www.ggap.jp/ )を取得。
G.A.P.とはGood Agricultural Practiceの略称で、食品衛生、労働安全、環境保全に配慮した「持続的な生産活動」を実践する優良企業に与えられる世界共通ブランドです。
実は2020年のオリンピック・パラリンピックにも食材が採用されていました。
主な販路
店舗販売については、百貨店、デパート、スーパーなど。一時は香港そごうにも。
ホームページで個人向けのセット通販を行っています。また、ふるさと納税にも利用していただいています。
地元との連携・cookpadの活用
地元との連携で、料理教室を開催し、野菜ソムリエさんのレシピを「cookpad」に公開
しています。
こちらのレシピ提供もクラウドサービスの活用といえますね。
経営課題
株式会社アプレの経営課題について解説します。
2015年から事業を開始しましたが、多くの品種を同時に生産するため、記録すべき項目が多く、販路も個人通販と店舗販売の両方があるため、事務作業量が多い、社員の作業負荷が高いという状況でした。
また、作物の再生産性を最大化して品質をキープできるか?という生産面についての課題も
あったため、課題解決のためにICT(「Information and Communication Technology」の略で情報通信技術のこと)の活用に踏み切ることにしたのです。
システム導入の基本方針
システム導入にあたり、ローカル環境にサーバーをなるべく置かずクラウドサービスで対応することを基本方針としました。その一番大きな理由としては、年に数度の停電があるからです。
また、この事業は2015年から開始した新しい事業だったため、ルールやプロセスをこれから作っていく中で生じるであろう変更に対応できることが求められていました。
かつ、現場で作業する社員やパート社員にも使いやすいものにするシステム作りを行うこと、そしてできるだけコストを抑えることを目指しました。
アプリケーションの構成
それでは、実際にどのようなシステムを構築したのかを見ていきましょう。
アプリケーションの構成
環境を制御しておこなうハウス栽培は、農業というよりも製造業に近い業態です。
そこで、業務のジャンル分けを行いました。
生産管理、販売管理、そして生産に重要な役割を果たす環境制御にわたり、データを連携することで、皆が使いやすくかつ役に立つようなシステムを考えて構築しています。
◆独自開発以外のシステムパッケージ
・PCAクラウド(PCA商魂DX / 商管DX)
販売促進のサポートシステム
・株式会社WaBit Arsprout クラウド
植物を生産するためのガラス室・ハウス(温室)、植物工場などの園芸施設の環境制御を実現するための優れた自律分散型システム
・DM-ONE
光合成を最大化するためのスマート温室環境制御システム
・kintone
業務システム作成、データ加工・集計などが可能なクラウドサービス
・Amazon AWS
Amazon.comにより提供されているクラウドコンピューティングサービス
ここでは各種データをリアルタイムにバックアップを取るために活用。
・LINE Bot
LINEで動くチャットボット。
LINE上でユーザーの発言に対して自動応答
野菜の生産工程
野菜の生産工程というのは、種をまいて(播種)から収穫までこれだけの作業があります。
それぞれの工程におけるデータを取得し、実績を捉えてその結果を次の生産計画にフィードバックするという流れです。
システム導入年表
システム導入については、段階的に行っています。
例えば生産管理にしても、最初は手書きで全部書いていたところから、システム化を2回行ってその都度改良しました。
環境制御もレベルアップしながら導入しています。その中でAWSやLINE などの連携を作っていきました。
次の項からは、工程別のシステム化の概要と効果について解説します。
生産管理
まずは生産管理です。
生産管理については、現場で利用するハンディターミナルを代替する現場端末や、シールやラベルをプリントするプリンター、野菜を載せると自動的に重量を計測しデータを送信してくれる自動計量機などを使用しています。
これらを個別の現品と連携、認識するために「QRコード」や「RFID(電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステム。電波が届く範囲であれば、かざすだけで複数のタグを一括で読み取りが可能)」などを組み合わせてシステムを構成しました。
本来は全てをクラウド化したかったのですが、ここだけは小さなローカル・サーバーをおいて、入出力機器などとデータのやりとりをさせています。
一時的にローカルサーバーに記録されたそれらのデータは、最終的にサイボウズ社のKintoneやAWSに送って活用するという流れです。
iPhone/iPodを使った端末/画面イメージ
現場端末としてはiPhone/iPadを活用しています。それにバーコードやRFIDが読み取りができるジャケット型のインターフェイスを装着しています。
iPhone/iPadを利用することで従来のハンディ専用端末に比べ、画面設計や操作設計が柔軟にできるため、とても使いやすい現場端末アプリケーションを作ることができました。
システム導入にあたっては、担当業務の代表者とのテストや引き継ぎを行ってから他の従業員への教育をお願いしています。
生産システムとクラウド連携
APS(アプレ生産管理システム)は、主に収獲実績・包装実績・収穫伝票発行といったデータをストックしています。
このデータを全てクラウド上に送信することで、必要に応じて様々な分析資料ができる仕組みです。
AWSは、APSのデータのバックアップをリアルタイムに取得するために構築したのですが、そのデータをLINE、ALEXAから参照することができることがわかったため、LINEボット機能などを使い、便利な問い合わせシステムを作成しました(「情報連携」にて後述)。
生産システムの効果測定
精算システムの効果ですが、導入前に比べると、伝票などの起票時間で140時間/月、伝票入力で約33時間など、時間の節約という点において大きな効果を上げています。
実際に社員へのヒアリングを行うと、業務に対しての心理的な負荷も軽減していることがわかりました。
これまでは、白紙の伝票を出して、日付や名前、どの野菜をどれだけ収穫したかということを手書きするという作業への抵抗感があったものが、システム化によって、スマホをかざしたら、ピッとシールが自動的に出てくる、いわゆるスマートな仕事のやり方が好評です。
現在では「これがないと仕事毎日の仕事ができないよね」という評価を得ています。
販売管理
次に販売管理ですが、こちらは独自のシステム開発ではなくすでにあるクラウドシステムから選択しようと考えました。
そこで、クラウドが利用出来ない時もローカルで利用できること、納品書や請求書など会社独自の帳票が設計できるという観点より、PCAクラウドの「PCA商魂DX 」「商管DX」を導入しています。
環境データ取得と環境制御
そして、我々にとって非常に重要なテーマである、環境データ取得と環境制御についてのシステム化です。
環境データ取得
ハウスの中には、温度・湿度・ CO2濃度・照度などを測定するセンサーを設置しています。環境制御とは、これらの数値を評価しながら、生産をどのように行うかを決定するという仕組みです。
WABIT社のシステムは、通信規約に合致していれば、自作のセンサーの取り込みができ、 画面表示、設定に各種のオプションがあります。
そのため、様々なデータをクラウドに集約し、ダウンロードしてから、多角的な観点で分析することに長けているサービスです。
ハウス内温度分布の調査
例えば、真冬のとても寒い時間帯に、ハウスの中の場所によってどのような温度分布があるのか、最低と最高ではどのくらいの温度差があるということを調べたりすることができます。
ダブルエム社DM-ONEによる環境自動制御
アプレが採用した環境制御システムDM-ONEというのは、環境物理と植物生理に基づき光合成量の最大化を図るためのシステムです。
野菜の光合成量を大きくするためには、窓やカーテンを開閉したり、冷暖房やLEDをオンオフしたり CO2を出したり止めたりといった作業を行って、ハウス内の環境を整えてあげる必要があります。
ここでは、スマホからクラウド経由で環境設定が可能な、ダブルエム社のスマート温室環境制御システム「DM-ONE」を昨年から導入しました。
情報連携
日々の業務運用で得たデータをどのように連携・活用しているのかについて解説します。
サイボウズ社kintoneの活用
情報連携には、サイボウズ社の「kintone(キントーン)」を活用しています。
キントーンは、EXCEL,CSVへデータ出力が可能で、 多くの業務テンプレートが用意されているため、 各種の集計機能、レポートが簡単に作成可能です。データエントリー・照会画面も自由度の高いものを作ることができます。
こちらは一部ですが、「kintone(キントーン)」を使って様々なアプリケーションを作ったりしています。
AWSとLINE連携
そして、AWSとLINEの連携です。AWS上に格納された生産システムデータのバックアップや、ハウス環境データクラウドと、無料で作成が可能な「LINEボット」を連携しています。
利用者が「ハウス」「外」など、ほしい情報関連の単語でLINEから問い合わせると、生産量、選果量、ハウス環境などの数値を教えてくれる、非常に便利な機能です。
チーム体制
システムについては、われわれ自社メンバーは2名。社外の専門家を含めたチーム体制で取り組みました。
特にお世話になったのが、地元の「公立はこだて未来大」の大場研究室。学生の方の研究テーマにも選んでいただき、連携研究プロジェクトからの制作システムを作ったりしています。
生産管理のコアな部分については、地元のIT企業である株式会社ミュートネット様に協力いただきました。
システム改良にあたっては、コスト面の問題もあるので、一定期間で集まった課題を整理し、チームメンバーに相談して取り組んでいます。
クラウドサービスは適材適所ならぬ、適「雲」適所で
アプレでは、無料試用期間があり、初期費用が不要で導入しやすいクラウドサービスを使ってシステム開発を行って参りました。
オンプレミスでの開発はコア機能に限定し、クラウドサービスにデータ連携をしています。地元の大学やIT企業とのコラボで新技術の調査や、システム改良、保守を行うというチームで取り組みました。
データセキュリティには注意が必要ですが、クラウドサービスを活用したシステム開発は、
適材適所ならぬ、適「雲」適所とも呼べるのではないでしょうか。