通関とは、国同士で貨物を輸出入する際、品目や数量、金額、輸出入先などの情報を申告して、輸出入の許可を得る手続きです。協和海運は、貿易プラットフォームの企画・開発などを主な事業とするスタートアップ・ShippioのM&Aにより、2022年から通関業務のDXに取り組んでいます。
急増する業務量と人手不足という通関業界が抱える構造的な課題、属人化した紙中心の業務からの脱却に立ち向かった、協和海運とShippioの事例をご紹介します。
13年でおよそ10倍に膨れ上がった通関許可件数――日本の貿易を支える現場の危機
島国である日本の経済活動にとって、国際貿易の玄関口となる「通関」は生命線ですが、今崩壊の危機に瀕しています。越境ECの拡大などを背景に、通関許可件数は2010年から2023年にかけて約8倍に急増しました。

一方で、通関業の従業員数はほぼ横ばいで推移し、近い将来、玄関口が機能しなくなることが予想されています。通関業務は、極めて専門性が高く非常に複雑で、紙、FAX、メールなどアナログが中心です。

それを支える通関士たちは、大量の紙の印刷や整理に忙殺されており、協和海運もこの伝統的な業務スタイルを長年続けてきました。

2022年のM&Aを機に、協和海運とShippioは通関DXプロジェクトを立ち上げ、ともに通関DXに取り組むことになったのです。
60年の歴史を持つ老舗通関企業が抱えていた、3つの変革の壁
M&A当初、Shippioと協和海運はそれぞれに課題を抱えていました。協和海運は、M&Aを機に増加した取扱量や迅速な対応への要求に対し、すべてをアナログで対応することの限界を感じていました。一方、Shippioは、掲げるビジョン「国際物流を、アドバンストに」の実現に向けて、物や情報の流れをよりスムーズにする必要性を認識し始めていました。
こうした背景を踏まえて通関DXプロジェクトを推進していくことになりましたが、3つの大きな壁に直面しました。
通関業務の高い属人性

通関業界は、「通関士」という高難度の国家試験を通過したプロフェッショナルが支えています。協和海運には通関士の資格を持つベテラン社員が多く在籍しており、業務を進める上で彼らの勘と経験に頼らざるを得ない状況でした。また、通関業界は極めて専門性が高いので、単にデジタル技術に精通しているだけではDXが推進できないことも特徴の1つです。
老舗企業ならではのデジタルへの根強い抵抗

協和海運は、60年をかけて紙を中心とした業務フローを最適化してきました。誇りを持って仕事に取り組んできたベテランの職人たちにとって、デジタルの導入は自分たちの業務スタイルを否定されるように感じられ、DXに対して懐疑的な姿勢を示していました。Slackの導入ですら後ろ向きだったほどです。
DXを自分ごと化

複雑で属人化した通関業務の課題解決には、単にツールやシステムを導入したり、新しくサービスを作ったりするだけでは困難です。ベテランの職人たちが、通関業務の課題解決を自分事として捉えて、企画立案から改善までを継続して自分たちで実行する文化の醸成をしていくのが必要不可欠です。
Shippioと協和海運は、いくつもの障壁を突破しながら、自社業務のDXのみならず「デジタルを用いた新規事業創出」をゴールに据えて、着実に事業変革へのステップを進めていきました。
DXへの信頼を勝ち取った小さな成功体験「タスクのプランニング」

DXに懐疑的だったベテラン職人たちの心を動かすため、プロジェクトチームが最初に取り組んだのは、壮大な業務改革ではなく、「タスクのプランニング」という1点に絞った、デジタル導入による小さな成功体験の創出でした。
協和海運では、ミスできないという重圧の中、紙が積まれた順に業務を処理していたために、本来急ぐべき案件が後回しになり、逆に急がなくて良い案件を時間をかけて進めるといったことが少なくありませんでした。また、誰がどの業務を担当しているか、どの程度進捗しているかがブラックボックス化しており、業務の標準化や最適な効率化が困難な状況でした。
そこで、簡易的なダッシュボードを開発。案件の管理やステータス可視化、業務状況の可視化を図りました。単に上から順に業務を進めるのではなく、積み上げられた業務に優先順位をつける「タスクプランニング」を行うことで、計画的に業務を進められるようになりました。
ダッシュボードの導入により、業務効率化はもちろんのこと、多いときは1日数回起こっていた遅延やトラブルはゼロになりました。タスクを可視化し、優先順位をつけて仕事を進めれば、「自分たちの仕事が楽になる」という実感を生み、本格的なDXへと進むための意識を築く礎となったのです。
「今のままでいい」から「改善の主役」へ――ベテラン職人が変革の担い手になるまで

ダッシュボード運用による成功体験によりベテラン社員たちの意識も上がり、60年間続いた紙中心の業務から完全なデジタルリプレイスに踏み切りました。既存のクラウドサービスや手作りのスプレッドシートなど、多様なツールを使って、全ての業務をデジタル上で完結させることに成功。全業務を期日に間に合わせることを大切にするようになりました。

「会議をする時間があるくらいなら紙を1枚でも早く処理をする」という仕事観が根強かったこともあり、ミーティングの場をほとんど持ったことがありませんでしたが、Shippioのエンジニアチームと新規プロダクトの打ち合わせをするまでになりました。
デジタル化への完全移行は、社員たちの仕事の価値観や意識までをも大きく変えていったのです。

2022年時点で20人いた社員は2024年に25人になり、協和海運が扱う通関件数も約6倍に増加。1件あたりの業務工数も約5分の1に圧縮されました。
また、案件の進捗状況把握が簡単になったことで顧客からの問い合わせにもスムーズに対応できるようになったり、能動的な情報提供ができるようになったりと、顧客体験の向上にも繋がっています。
こうした一連の変化を促したのが、協和海運の現場メンバーで結成された改革チーム「NEW WAVES」の存在です。彼らが主体となり、Shippioの業務推進チームと密に連携し、現場の意見を反映した新しいワークフローを共創。ベテラン職人の知見を尊重し、ベテラン職人・現場の社員双方と対話を重ね、彼らの不安に寄り添うアプローチを徹底しました。
「職人×DX」という新たな可能性―日本の産業を変革するモデルケースの創出へ
Shippioと協和海運の取り組みは、「職人×DX」という新たな可能性を見出しています。

海事・国際物流の日刊経済紙「日本海事新聞」に頻繁に取り上げられており業界から高い注目を集めています。

Shippioと協和海運は通関業界の課題を解決するべく、DX推進プロジェクトで培った知見やDXの実績で業界のDXを支援していこうと、ベテランの知見を活かした新規事業創出も進行中です。
2025年9月にShippioがリリースしたAI通関クラウド「Shippio Clear」にも、協和海運のベテランの知見が反映されています。「Shippio Clear」は、ベテランの専門家や職員が共同開発に加わり、適切なフィードバックを行うことで、プロダクト側だけでは把握しきれない業務上の重要なポイントを補っています。こうした関与により、実務に即した有用なプロダクトを生み出すことが可能となりました。
さらに、協和海運がこれまで60年間アナログの業務で培ってきたナレッジや事例を他業界にも展開しようとしており、職人たちのDXの活動を広めていくことで、日本の中小企業のデジタル力を上げる取り組みにつなげていきたいと考えています。
まとめ
創業60年の老舗通関会社・協和海運とスタートアップのShippioは、M&Aを機に通関DXに着手しました。当初懐疑的だった協和海運のベテラン職人たちを、手作りのダッシュボードを使った「タスクプランニング」をきっかけに、DXに巻き込むことに成功。60年来の紙中心の業務をデジタル化に置き換え、属人化していた業務を標準化し、取扱量を6倍、工数を5分の1にするなどの成果を上げました。
現在はベテラン職人の知見を反映した「Shippio Clear」を共同開発・ローンチにこぎつけた他、他業界へのサービス展開も見据えており、職人の知見をテクノロジーで拡張する、日本の業界変革のモデルケースを創出しています。