事例

SlackとGoogle Workspaceで実現する大規模組織の変革 – コープさっぽろの挑戦

「生活協同組合」とは、消費者の暮らしを向上させるため、消費者が組合員として出資して協同で運営している組織です。毎週決まった曜日・時間に毎週商品が届く宅配やスーパーの運営を主軸に、全国各地にある生活協同組合がさまざまなサービスを地域密着型で展開。2020年から、生活協同組合全体でDXに取り組んでおり、コープさっぽろもその一つです。

SlackとGoogle Workspace導入を契機にデジタル化推進への道を走り続ける、生活協同組合コープさっぽろの事例をご紹介します。

背景:大規模組織ゆえの課題

コープさっぽろは、北海道全域で事業を展開する生活協同組合です。2024年の3月時点で組合員数は200万人以上、パート・アルバイトを含めて15,000人の職員を抱える大規模な組織です。コープさっぽろが手掛ける事業は多岐にわたっており、部署数も多く、大規模組織ならではの事業間の連携も困難でした。外部ベンダーに依頼してシステム化に取り組んだ結果、システムが190以上になってしまい、ネットワークの遅延も多発している状況でした。

DXを組織内で拡大していくためのステップ論

コープさっぽろでは、「コープさっぽろと関連事業が組合員にとって素晴らしいサービスを提供している。また、従業員も気持ちよく働けるIT環境を提供する」をミッションに掲げて、2020年3月にコープさっぽろ本部に「デジタル推進本部」を設立。外部から非常勤のCIO(最高情報責任者)を招聘後に、ワークスタイル改革の1つとして、SlackとGoogle Workspace(当時はG Suite)を導入し、コープさっぽろの内外両方でコミュニケーション改善を推進しています。現在では、コミュニケーションの枠を超えて、業務改善を本部や店舗、配達員、関連会社の人といった情シスではない現場の従業員たちで進めるところまで変化しています。

DXを進めるために、まずネットワークから整備していき、コミュニケーションや仕事で使うアプリケーションのインフラ整備を進めました。こういう積み重ねを行うことで、本格的にDX推進への体制が整うと考えたためです。SlackやGoogle Workspaceといったデジタルツールを単に導入するのではなく、組織全体のコミュニケーションのあり方を変革し、業務改善が自発的になされるようになり、最終的には革新的なワークスタイルの実現を目指しています。

コープさっぽろでは、以下の3ステップでDX推進の基礎固めを行いました。

1. 使えるようになること

SlackとGoogle Workspaceを全社的に導入。2020年には、同じ内容の勉強会を50回開催し、SlackやGoogle Workspaceを抵抗なく使えるようになるまで、繰り返し学習の機会を設けました。

2. デジタルを自分ごと化

各部署にデジタル推進リーダーを立て、現在86名が活動しています。デジタル推進リーダーには勉強会参加を必須としていて、そこで学んだことを部署内に広める役割を担っています。スタッフの不安や疑問があっても、部署内のデジタル推進リーダーが速やかに対応します。

3. 既存改善と成功事例誕生(成果を呼ぶ仕事改革)

2022年から、デジタルの利用促進だけではなく、デジタル勉強会・相談会で得た知識と経験を業務改善に活用。IE(Industrial Engineering)/QC(Quality Control)の観点で改善点を洗い出し、デジタルを活用した事例を複数の部署で発表する「仕事改革発表会」を毎年実施しています。

デジタル化における学びの機会~勉強会と社内短期留学

SlackのワークフローやGoogle Workspaceのスプレッドシート、GAS(Google Apps Script)を活用することで、情シス以外の社員でも自ら業務改善を行う事例が多く見られるようになりました。また、デジタルツール開発を通じて自然に業務が効率化されていく様子も見受けられます。これにより、野良ツールがたくさん作られても、あえて統制を行わず、必要なモバイル機器の導入も進めながら、各自がGoogleアカウントを活用し、積極的に改善に取り組むことを推奨しています。

この取り組みの一環として、毎年8~10回程度のデジタル勉強会を実施しています。例えば、コープさっぽろで使用しているAppSheetの場合、デジタル勉強会の動画を用いて自己学習したり、勉強会への参加で最新の情報を得たり、専門書を読んだりして習得します。過去4年間で46回の勉強会を開催しました。

経理スタッフがローコードツールを使って申請フローをデジタル化した事例があり、全社的にSlackやGoogle Workspaceを活用し、ローコードツールの導入を促進しています。

また、2024年から各部署の代表者を募ってデジタル推進本部に「短期留学」する仕組みも始めました。現在11名がこの制度を使ってローコードアプリ開発を学習しています。短期留学では、過去の短期留学参加者を含めたコミュニティをSlack上に設けて、広く開かれたDX推進に注力しています。また、短期留学を通して自信がついて実績も築かれていくので、さらなる改良に取り組もうという土壌も育成しています。

今後の展望

2024年1月から6ヶ月間限定で、本部や店舗、宅配、関連会社のスタッフが集まり、IT民主化チームと呼ばれるグループを発足させました。デジタルのスキルを半年で身につけて、デジタルの知識と技術を所属部署の業務の円滑化など多方面で役立てていくのが目的です。現在では6ヶ月のサイクルを4ヶ月に短縮し、自分でツール作れるようになってから卒業というルーティンになっており、こうしたIT民主化チームの取り組みを今後も続けていく予定です。

デジタルツールの活用により蓄積されたデータをAIで分析し、商品の需要予測や最適な店舗レイアウトの提案など業務改善や顧客サービスの向上につなげていく計画です。

まとめ

コープさっぽろのSlackとGoogle Workspaceを活用したDX推進は、大規模にシステム改修やツールの導入といったコストをかけずとも、15,000人規模の組織でも実現できるという例を提示しています。今後もコープさっぽろは、業務への生成AIの本格的な活用を目指した取り組みや、非情シスの職員によるローコードツールでのアプリ開発や定期的な勉強会、業務改善の開催を続けていき、本部や組合員、関連会社、店舗といった組織や距離の垣根を越えたDX推進に邁進していくでしょう。