全国中小企業クラウド実践大賞は、クラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化したモデル事例のなかから、コンテストにより優れた取り組みに対して総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞等を贈るコンテストです。
2020年11月11日に行われた札幌大会より、株式会社さくらコミュニティーサービスの事例発表をご覧ください。
IoT化が難しい介護現場で、自社にてクラウド環境を活用してアプリ「Care Viewer(ケアビューアー)」を開発。年間5400時間にも及ぶ介護記録にかかる時間をゼロにしたほか、コロナ禍でのオンライン面接などを実現した取り組みです。
株式会社さくらコミュニティーサービスの概要と現状
■法人名:株式会社さくらコミュニティーサービス
■事業内容 :介護・福祉サービス事業、人材サービス事業、教育研修事業、海外事業、ものづくり事業、保育事業
■設⽴: ︓2002年9⽉9日
■グループ社員数: 307名
■WEBサイト:https://sakura-cs.com/
さくらコミュニティーサービスは、札幌市を中心に介護サービス事業や、人材の派遣・教育事業など6つの事業を柱としています。
「先進福祉国家のパイオニアとして、 世界のスタンダードを目指す」をスローガンに、海外事業ではミャンマーに法人を設立し、外国人実習生の受け入れも進めています。
介護⼈材の不⾜と将来推計
介護に携わる人材は、近年も非常に少ない状況です。さらに2025年には、介護人材の需要が253万人に比べて、実際の人材は215万人。つまり約40万人足りなくなると言われています。
介護産業の⽣産性の伸び
介護という事業は労働集約型、つまり、人の手でないと行えないという状況があります。
全産業と比べて非常に労働生産性が低いのです。
介護事業所のICT取り組み状況
さらに、介護業界は高齢の方々が働いている業界でもあるということもあり、⽣産性向上のためのICTに対する取り組みが低いことも特徴的です。
このグラフのように約8割の事業所がICT化に取り組めていません。
⼈材確保について
毎年業務拡大しているため、人材確保は年々難しくなっているという現状です。
現在は学校から卒業生を採用したり、⼈材部⾨から派遣・紹介をしているほか、海外から介護技能実習⽣の受⼊れなどを行っています。
介護記録の記入という問題
介護サービスの一連の過程については「介護記録」として残すことが介護保険法でさだめられています。
この介護記録を書くのにかかる時間というのが問題です。
事業所1カ所あたり、年間5400時間という膨大な時間がかかっています。大体1日1人あたり1時間の介護記録の記入があり、その分ケアの時間が削られているわけです。
現状は休憩時間を使って介護記録をとったり、さらには残業して記録をしているため、50%超の職員が疲弊し、やりがいが低下しているというような状況があります。
多くの業務が紙に依存している
さらに、介護業界では記録の7年間保管が義務づけられています。
このため、事務所は紙媒体の台帳で溢れかえっており、記録に時間がかかり、保存期間が決まっている中で、書類の管理や情報共有が煩雑になっている状況です。
業務自体も紙に依存している状況があって、複数枚も紙の記入が必要だったりします。
介護サービスの業務効率化(⽣産性向上)を⽬指し、クラウドサービスを探しましたが、
・初期費⽤とランニングコストが⾼い
・介護費用を国に請求するため、報酬を計算するソフトが多い
・生産性を高めるソフトがない
・他のシステムとの連携が難しく、カスタマイズしにくい
など、現場にマッチする良いものを見つけられなかったのです。
そこで……
介護クラウドサービス「Care Viewer(ケアビューアー)」を自社開発!
介護の現場の「困りごと」を解決するクラウドサービスを自社で開発しようという考えに至りました。
しかし、株式会社さくらコミュニティーサービスとしては、あくまで生業は介護事業。
システムを作るノウハウもありませんし、対応できる人材をどのように採用し教育するのが良いのか、全くノウハウがありませんでした。
「ヒト」「モノ」「カネ」という会社の経営資源というものがまったくないというところからスタートしたのです。
中小企業庁の「商業・サービス競争力強化連携支援事業(新連携支援事業)」を活用
介護事業所の中にシステムの開発拠点を作り、つねに現場とやりとりをしながら使いやすいシステムを日々検討し、現場で得た知識を開発現場の方で一緒にブラッシュアップしするという繰り返しの毎日です。
そこから、平成29年度の経産省の「商業・サービス競争⼒強化連携⽀援事業(新連携事業)」に応募するためのコンソーシアムを結成しました。
「商業・サービス競争力強化連携支援事業(新連携支援事業)」とは?
中小企業者が産学官で連携し、また異業種分野の事業者との連携を通じて行う新しいサービスモデルの開発等のうち、地域経済を支えるサービス産業の競争力強化に資すると認められる取組について支援するもの。
応募には中小企業者を中心とした連携体を構成する必要があります。
(参照:中小企業庁「令和2年度予算「商業・サービス競争力強化連携支援事業(新連携支援事業)」の公募を開始します」令和2年度についてはすでに採択済)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shinpou/2020/200218shinpou.html)
全国のエンジニアを採⽤・クラウド環境で遠隔開発を実現
システム開発に初挑戦することになりましたが、人材を採用するとなると、非常に難しく、コストがかかるという問題に直面しました。
そこで、全国のシステムエンジニアをクラウド環境でつないでリモート採用するという形でコストを予定の1/2程に押さえることで解決しました。
現在、社内に3名、外部に3名の6人体制です。
全国に散らばるシステムエンジニアとコンソーシアムを組んで開発を進めなければならない状況だったので、ZoomやSlackをはじめとした様々なクラウドサービスを駆使することで、1週間ごとにスプリント計画(※1)を作ってアジャイル開発(※2)をしています。
・お客様と社内の連携
・社内とクラウドワーカーの連携
・AWSでシステムの開発環境を設ける
・スケジュール管理
・タスク管理
語句解説
※1スプリント計画:スプリントとは1〜4週間で固定された開発サイクルのこと。スプリント計画とは、この期間内にロードマップと要件に基づき、開発チームが行う作業を優先順位付けしたリスト(プロダクトバックログという)の内容をチームで共有し、どう実現するかをチームが考えてタスク化するもの。
※2アジャイル開発:「要件定義→設計→開発→実装→テスト→リリース(運用)」といった開発工程を、機能ごとに繰り返す開発方法。開発中に発生する状況の変化に応じて開発を進められるため、仕様変更に強い特徴がある。
クラウドサービスについても、いろいろ試行錯誤しながら現在の形に落ち着きました。
これまでの取り組み
これまでの取り組みの流れをまとめました。
平成28年にシステムの商品企画を行い、プロトタイプを開発を行って、翌年にはコンソーシアムを結成。
その後に中小企業庁から新規事業の認定が降りたので、平成30年には、社内の実証実験を経てAndroid版を無料公開しています。
昨年はAI機能の開発を追加でおこない、本年より有償化。10月から販売を開始しています。
Care Viewer(ケアビューアー)の機能
それでは、Care Viewer(ケアビューアー)についてどのような機能があるのかを解説していきましょう。
簡単に使え、業務負荷ができることを目的に作っています。
自動通知機能・タスク登録機能
介護業界では、経営者、管理者、ケアワークを全部担当するというような事業者が多い特徴があります。つまりとても多忙な方が多い状況です。
そのため、保険証の有効期限や、ケアプランの更新、頼まれた仕事など、対応しなくてはいけないことを自動で通知してくれる自動通知機能を作りました。
また、通知すべきことを気がついたらその場で登録できる「タスク登録機能」も搭載しています。これは、チャットワークにも自動登録されるので見逃しを防ぐことが可能です。
多言語対応
次に、これから増えるであろう外国人の登用に備え、コミュニケーションをしっかり取るために多言語対応をしています。入力だけでなく、音声入力ができる機能も付加しました。
Chatwork連携!コロナ化でもオンライン面会
さらに、Chatworkと連携してオンラインでの面会、そして記録ができる仕組みも備えています。
現在、コロナ禍で感染防止のために、ご家族が施設に出向くことが難しい状況です。そのような中でも、家族とのコミュニケーションが取れるような仕組みを作りました。
登録された介護記録をChatworkに連携させることができますので、ご家族の方も確認することができます。
Care Viewer(ケアビューアー)の導入効果
システム開発の取り組みを行い、Care Viewer(ケアビューアー)を導入したことで、どのような効果があったかを解説します。
効果1:時間削減
まず第一に、アプリやPCに介護記録を直接入力することで、手書きの手間を省くことにより、前述した介護記録にかかる5400時間の削減に成功しました。
現場でも「残業時間が減った」と喜ばれています。
削減された時間はケアの充実にあてることができるようになりました。
効果2:経費削減
次に、記録や必要書類をシステムによって電子化したことにより、書類にまつわる経費を削減することに成功しました。
時間・紙・キャビネやロッカーなどの保管コスト、コピー代などかかる経費も年間540万円削減できています。
介護職員の声(弊社)
介護職員からは、残業時間が削減できた、作業時間に余裕ができた、機能の積極的な利用によって職員の連携が強化された、などの嬉しい声も寄せられています。
他事業所の導入による収益化
また、各事業所の時間削減と経費削減ができただけではありません。
2020年10月からの有償版の提供により、まだたった1ヶ月ですが、すでに270事業所以上の事業所に導入が決まりました。これにより、プラスαの収益を得られるようになったのです。
次なる高度化に向けた開発
また、これからより使いやすいシステムにしていくための開発プランも立っております。
AIでケアプラン自動生成
まずは、AIでケアプラン自動生成する機能です。こちらはすでに基礎研究完了済みとなっています。
AI における私たちのでもロジックをしっかりと高度化させていきながら、利用者さんにとって最適なサービスの提供ができる仕組みを目指しています。
こちらも自動化することによってケアワーカーの作業時間を削減することが可能です。
IoTによる介護利用者情報の自動収集
さらに目指すところとしては、2021年秋実装予定の機能で、IoT の連携により介護記録作業を一切なくすというものです。
センサーから情報を取得することによって介護記録を自動で取り、現在はアプリやPCで行っている介護記録作業をゼロにするという目的があります。
実現できれば、利用者さんへのケアの充実はもちろん、社員の業務負荷をより減らすことが可能です。
システムにより現場の改善をすることで、利用者さんへの充実したケア、本来業務を行うことによる社員のやりがいの創出、そして利用者さんのご家族からは安心と満足を得られるという三方よしの状況を、これからも目指していきます。