水害や地震といった災害、火災が地域で起きた時に、職場から現場へ駆けつけて消火活動・救助活動にあたるのが消防団です。災害が頻発する昨今の日本において、消防団は地域防災で大きな役割を担っています。しかし一方で、消防団員の担い手不足や高齢化、団員のほとんどが日中地域にいない、情報伝達に時間がかかるなど解決が困難な問題を多く抱えています。
本記事では、消防団員での経験を活かして消防団の活動をサポートするアプリを開発した、情報整備局株式会社の事例をご紹介します。
アプリ開発のきっかけは、東日本大震災での消防団活動経験
消防団は、全国の全ての市区町村に設置が義務付けられている消防機関で、地域防災の要を担う、いわば地域のヒーローです。
統計を取り始めた1954年以降、消防団員は減少傾向にあります。消防団と兼業している消防団員が大半を占めているので、火災があってもすぐに駆けつけられないのが現状です。消火活動に必要な水利(消火栓・防火水槽)の位置情報の把握が困難など、災害が広範囲にわたるときの消防団の活動にも課題がありました。
東日本大震災で消防団として活動していた社員の経験から、消防団を支援するためのスマートフォンアプリ「S.A.F.E.」が開発されました。
消防団の消火活動をサポートする、「S.A.F.E.」の機能
地域で火災が発生したら、通報を受けた消防本部が電話やメール、防災無線で各消防団の幹部に連絡をします。その後、各消防団員に電話やLINEにも知らせますが、この作業に非常に時間がかかり情報も滞っていました。また、消火に必要な防火水槽や消火栓の位置から発災箇所までの距離、所属班の消防車両の位置も不明でした。
これを「S.A.F.E.」導入により、全て可視化できました。
2018年にリリースされた「S.A.F.E.」は、Firebaseというプラットフォームでアプリ開発を進めました。情報整備局株式会社がある福島県須賀川市で導入がスタートし、2023年現在では福島県内で15か所の自治体、岐阜県、山梨県、兵庫県でも導入が広がっています。
本アプリは、消防団活動の中核となる以下の3つの機能を搭載しています。
- 火災発生通知:消防本部からの火災発生通知を、アプリ上で全ての消防団員に即時に共有できる。サイレンのような音が鳴るが、マナーモード中は音が鳴らない。
- 水利位置情報の可視化:地図上に消火栓や防火水槽の位置を表示する。
- 出動状況の共有:団員が出動ボタンを押すことで、団員ごとに異なる到着予定時刻が共有される。また、出動中の消防車両や団員の運転可否の状況も表示。返答ボタンで何分後に発災箇所に向かえるか、ボタン操作で簡単に共有できる。
また、消防車出動後や現場到着後の報告も可能で、消防本部からの通知・返答の有無を団員一覧で判別します。
さらに、このアプリを防災訓練に活用可能です。アプリには訓練モードがあり、仮想の災害発生箇所、消防車両、消化水利などの位置をアプリの地図上で自由に設定できる他、災害対策本部や消防団の班ごとに共有できるので、発災時の消防団および消防団員のシミュレーションを効率的に支援します。
これらの機能により、消防団は火災発生時に迅速に最適な対応を取ることができ、消火活動の効率化が実現しています。
情報共有の迅速化により得られた成果
「S.A.F.E.」は、実際の消防団活動に精通したメンバーによる現場目線での開発が特徴です。
このアプリの導入により、火災発生時の情報共有が格段に向上し、より迅速な初期対応を実現しました。実際に、火災現場から約1km以上離れた水利からホースを繋いで、消火に対応した事例や、アプリの通知を受けて消防団員が直接火災現場に駆け付け、高齢者を救助するなど、人命救助に繋がった事例もあります。
まとめ
「S.A.F.E.」は、地域防災の要である消防団員の活動を支えるだけでなく、消防団活動の効率化と地域防災力の強化に貢献しています。
情報整備局株式会社は今後、災害発生時に消防団員が安否確認すると、要支援者情報を開示できるようにするなど、アプリの改良を加えながら、「S.A.F.E.」を全国に広める活動をしていきます。また、海外展開も視野に入れており、仙台BOSAI-TECHプログラムを活用し、市場ニーズ把握と市場分析、地元の消防局長との意見交換などを東南アジアで行いました。
「S.A.F.E.」は、地域防災力の向上だけでなく魅力ある街づくりにも貢献できる、これからの時代に欠かせないツールと言えるでしょう。