大阪大学は、1931年創立の大阪帝国大学を祖とし、2007年に大阪外国語大学と統合した国立大学法人です。教育・研究・経営のあり方を根本から変革し、「国際競争力を持つ新しい日本の大学」を実現するため、「OU(Osaka University)DX」を全学一丸となって推進。その中核を成すのが、学生・教職員から卒業生まで約35,000人を繋ぐ統合ID「OUID」と、それを基盤に構築された「OU人財データプラットフォーム」です。
今回は、大阪大学の「OUDX」の取り組みについて解説します。
グローバル競争の激化、強固な縦割り意識による壁、4つの「ないないづくし」

日本の大学は今、深刻な危機に直面しています。教育・研究成果がグローバルランキングで示される時代にあって、世界の大学の後塵を拝する状況が続いていて、優秀な研究者や学生の獲得競争は厳しさを増すばかりです。国からの運営費交付金は削減され、新たな財源確保も急務です。
一方、多くの大学の内部は縦割りの意識が根強く、学部・研究科といった「部門の壁」や、経営・教員・職員といった「職位の壁」に阻まれ、組織や施策が分断されているのが実情です。個別最適なITシステムが散在するため、情報が分散して活用できず、ガバナンス不全に陥っていました。職員も数年で他の部署に異動するので、安定した仕事が求められてなかなかチャレンジしづらい風土があります。
こうした状況は、大阪大学でも例外ではありませんでした。加えて、「ヒトがいない」「カネがない」「戦略がわからない」「組織の動かし方がわからない」という、4つの「ないないづくし」がDX推進を妨げていました。

大学として生き残りをかけた変革を成し遂げるため、大阪大学では中長期的な経営ビジョンである「OUマスタープラン(OUMP)2027」を策定。その一環として、教育・研究・経営の革新を情報通信技術によって取り組む「OUDX(大阪大学全体のデジタル・トランスフォーメーション、以下OUDX)」について明記しており、OUMPに沿ってDXを進めています。
阪大の「人」に関するDX――「OUID」プロジェクト、「OU人財データプラットフォーム」

大阪大学では、OUDXの第一歩として、大阪大学に関わる人をつなげる「OUID」プロジェクトと、OUID基盤をベースに、人財を集約させ、学生と卒業生がつながる「OU人財データプラットフォーム」の構築に取り組みました。
「OUID」プロジェクト

「OUID(阪大共通ID)」は、大阪大学の在学者、在職者のみならず、入学前の高校生や在学中の学生の保護者、卒業生、地域住民を対象とした統合IDです。一度OUIDに登録されると、一意の生涯IDが付与されます。顔認証システムに加えて国のマイナンバーカードとも連携し、強固な本人確認、国公立大学では最大規模となる「デジタル学生証・教職員証」の全面導入を実現しました。

大阪大学の全関係者約4万人が利用する「デジタル学生証・教職員証」は、単なる身分証の電子化に留まりません。顔認証技術を活用した、付加価値の高いサービスを提供。時間割や連絡バス時刻表、プッシュ通知機能、大阪大学に4箇所ある図書館の本の貸出などを集約したスーパーアプリとして機能し、学生や教職員の日常に寄り添うサービスを提供しています。OUIDに登録された顔写真データを活用し、大阪大学には100近い建物や施設があり、それぞれに入退館カードや鍵が存在しますが、このうち学内40カ所以上の施設で「顔認証入館システム」を導入しました。
デジタル学生証・教職員証は一度作り直しが発生しており、ベンダーロックインの排除によりコストと性能に優れた技術を採用。法的・倫理的な観点にも配慮しながら、本人承諾プロセスを幾度も設計し直しました。JR西日本、阪急、阪神、近鉄、南海鉄道と大阪を走る関西圏の交通機関と連携し、学割定期券購入にデジタル学生証を使うといった社会的認知に向けた取り組みも行っています。
デジタル学生証・教職員証により、建物ごとに必要だったカードや鍵が不要となり、大幅な業務負担軽減とコストの削減に成功。民間企業や鉄道会社、中央官庁をも巻き込んだ一大プロジェクトとなっています。
OU人財データプラットフォーム

「OU人財データプラットフォーム」は、大阪大学コミュニティに所属する全ての人を財産(=人財)ととらえ、人財が持つ知識や人脈、経験を集約・共有し、連携や共創につなげることを目的として構築されたプラットフォームです。OUID基盤をベースとしており、部局ごとに存在していたシステムを統合し、人的情報を集約することで、教育・研究や大学経営への活用を期待したものです。在学中の学生、研究者同士、OB・OGとのマッチングを促進し、国際競争力のある研究開発の加速、共同研究の促進、寄附といった新たな収益機会の創出を目指しています。

また、在学中の学生には手厚いキャリアサポートを、卒業生にはリカレント教育やビジネスマッチングの機会を提供。阪大人財の人生に寄り添う「入学前から生涯つながりつづける」ことで、大阪大学から終身サービス(Student LifeCycle Support: SLiCS)が受けられます。
事務系職員のスキルアップ、部署の垣根を越えたチーム組成で組織風土を変える「業務DX・人財育成」
大阪大学では、ソリューションの導入だけでなく、職員や組織がITリテラシーを高め、デジタルを使いこなして自ら業務を改革していく「人財育成」をとても大事にしています。

ITスキルアップ研修を実施し、事務系職員のITスキル向上に注力。情報推進部の職員自らが講師となり、録画されたオンライン研修でマイペースに学べるだけでなく、対面形式での手厚いサポートやTeamsチャットを活用したフォローも充実させており、これまでにITパスポート試験に28名、基本情報技術者試験に5名が合格するなどの成果を上げています。
生成AIの全学導入、RPAの利活用促進により、業務DXが加速。定型業務が自動化され、職員がより付加価値の高い企画業務に注力できるようになっただけでなく、当初19人いた市民開発者は859人に、作成フロー数も44件から7,643件へと一気に増加しました。部署の垣根を越えたチームが生まれ、DXをともに実践する仲間を増やすことにより、大学全体のDX推進体制の底上げに大きく貢献しました。IT活用による改善提案が溢れる組織風土が醸成されつつあります。
できるところから変革していった、4つの「ないないづくし」
OUDXをスタートさせるきっかけとなった、4つの「ないないづくし」。できるところから徐々に取り組んでいき、4つの大きな壁を突破していきました。
ヒトがいない:DX専任担当者は当初わずか3名しかいませんでした。DXを「仕事」として捉えるのではなく、新しい技術に「ワクワクする」仲間を増やすことに注力しました。結果として、組織内にDXを推進する仲間が自然と増え、大きな力となりました。
カネがない:DX推進にとって最も怖いのは、予算請求が通り、原資を使って変革したけど、効果が出なかったこと。これをOUDXでは「DX祭り」と呼んでいます。そうならないように、多額の予算を要求するのではなく、既存のコスト構造を見直すことで、DXのための資金を捻出しました。無駄な投資を避け、2年に及ぶ調達コスト削減で得られた約5億円を、新たな施策に再投資しています。
戦略がわからない:特定のITソリューションを導入する前に、大学全体の戦略を理解することから始めました。ITの専門家として、生成AIなどの最新技術が大学の教育や経営にどう貢献できるかを「翻訳」して伝えることで、ITの力が大学の競争力向上につながるようにしました。
組織の動かし方がわからない:経営層とDX戦略を共有。情報システム部門(情シス)と連携するために、DXのメリットを情シス部門に理解してもらい、業務部門と協力して改革を進めることで、組織全体を巻き込むことができました。
足固めから「追いつき追い越せ」
800の大学とともに、日本の国際競争力強化への貢献
OUDXが見据えているのは、日本の大学DXの共創、日本の大学全体の国際競争力強化への貢献です。そのために、まずはしっかりと足元を固め、「世界の最先端に追いつき追い越せ」という戦略でDXを進めてきました。具体的には、学内の情報を一元化し、ユーザーインターフェースを統合したサービスの提供や、システムの安定稼働を行いました。また、世界の大学の中でも進んでいるとされるアリゾナ州立大学など、海外の大学でDXや経営モデルを学んでOUDXに取り入れたり、デジタル庁とJR西日本、NII(国立情報学研究所)と共同で、大学生の在学証明確認にマイナンバーカードを活用する実証実験をJR大阪駅で行ったりしました。
日本には約800の大学が存在し、その多くが限られた予算の中で類似したシステムを個別に構築・運用しているのが現状です。大阪大学は、自ら構築したOUIDやOU人財データプラットフォームといったシステム、DX推進で得られた成果やノウハウを、他大学や研究機関に積極的に提供していく方針を掲げています。他の大学と連携・システムの共創により、日本の大学や研究機関の国際競争力アップへの貢献を目指しています。また、他の大学とともに日本の大学DXを進めたいと考えています。
まとめ
大阪大学の「OUDX」は、「ヒトがいない、カネがない、戦略と組織の動かし方がわからない」という壁に直面しながらも構築した、統合ID「OUID」、「OU人財データプラットフォーム」を起点としています。当初、3人しかいなかったDX推進担当は800人以上になり、コスト構造の見直しや大学実務へのDX/ITの翻訳、密にコミュニケーションを心がけることで、ボトムアップの組織変革にも成功しました。結果、4つの「ないないづくし」という障壁を突破。他の大学との共創、OUDXの取り組みの共有・提供などにより、日本の大学の国際競争力向上への貢献を目指しています。
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