グローバル企業として数々の生活インフラを支える株式会社荏原製作所は、DX推進と並行して、人と組織の意識改革「チェンジマネジメント」に取り組んでいます。ADKARモデルを用いて社員の意識変化を分析し、経営陣と社員が一丸になって変革に取り組んでいます。
1. 荏原製作所が目指すDXとチェンジマネジメント
荏原製作所は、1912年創業以来、水処理や産業用ポンプなど多様な事業を国内外で展開する企業です。海外売上高比率は約67%に達し、世界規模で生活インフラを支えています。
2020年に、グループ全体が10年後どうありたいかを明記した長期ビジョン「E-Vision 2030」を制定。DX推進もその一つに掲げられており、情報インフラを整備する「守りのDX」と、データやデジタルを駆使した変革に取り組む「攻めのDX」に取り組んでいます。
これまで、荏原製作所ではシステム導入を進めてきましたが、個人の意識が変わらない、変革の理由が腹落ちできていない、システムを導入することだけが目的になってしまっている、といった人的側面にさまざまな課題を抱えていました。
「社内改革を進めたい」という経営陣の思いを1人1人の社員に伝えること、そして社員が自分ごと化として社内改革に参加してほしいとの思いから、DXを推進するための意識改革「チェンジマネジメント」に取り組むことにしたのです。
2. チェンジマネジメントに欠かせない「ADKARモデル」と巻き込み力
荏原製作所では、技術的側面(プロジェクトマネジメント)だけでなく人的側面(チェンジマネジメント)への支援が重要だと捉え、「ADKARモデル」を活用しています。
ADKARモデルは、研究に基づく資格認定やコンサルティングなどを提供しているアメリカのProsci社によるもので「Awareness(認知)」→「Desire(意欲)」→「Knowledge(知識)」→「Ability(実行力)」→「Reinforcement(定着)」という段階を踏んで意識改革が進めることを目的にしています。
荏原製作所はこのフレームワークを自社のチェンジマネジメントに応用し、社員一人ひとりの心理変化の分析結果に基づいて、適切な支援を行っています。
荏原製作所はグローバルに展開するグループ会社にも、本社と同様にチェンジマネジメントに取り組んでいます。あるグループ会社の事例では、ロードマップを立てて、説明会や対話の場を適宜設け、社員が新しいことにチャレンジしようという風土醸成につなげていきました。
またプロジェクトに直接影響を受けない社員に対しても同様の取り組みを実施していきました。ADKARモデルを用いて個人の意識を分析し、変革の度合いに応じてグループを分け、それぞれに丁寧にアプローチを行いました。
プロジェクト活動の前後には、社員の意識をアンケートで集計。ADKARモデルを用いた分析により、現場の社員の納得度と行動変容が数値となって可視化できる上、結果を経営陣にも伝えることで社員への信頼が生まれ、さらなるフォローアップにつながったのです。
3. 成功要因と今後の展望
チェンジマネジメントを成功に導くためには、次の3つの成功要因が必要不可欠です。それは、強い発信力を持つプロジェクトリーダーや部門責任者・経営陣から、動画やWebサイト、グループチャット、メールを活用して、熱のこもった変革に向けたメッセージを発信してもらい、社員が理解した上で変革に取り組んでもらうこと。
現場ごとにいるリーダーの協力を仰ぎ、現場で困っていることをヒアリングし、「どうやって変革するのか(HOW)」よりも、変革の理由(Why)を伝える、膝詰めのコミュニケーション。部署ごとに設けた、伝道者(プロジェクトに賛同し経営陣の思いを代弁してくれる仲間)のチームから、共通言語でプロジェクトについて発信してもらうこと。
これら3つの成功要因を地道に続けることで、現場の隅々まで「プロジェクトを成功させよう」とマインドの変化につながり、変革を成功へと導くことが可能になります。
変革においては、デジタルを用いた社内改革も大切ですが、トップダウンだけではなくボトムアップのアプローチ、また互いに認め合い活躍できる環境を企業として整備することも、とても重要であると捉えています。デジタルとデータを用いたDXと、人・組織へのアプローチを行うチェンジマネジメント、この両輪が上手く回ることで、荏原製作所が目指す人的資本経営が実現できると考えています。
今後は、既に構築された変革への土壌を踏まえ、グローバル全体に変革を展開していきます。
4. まとめ
荏原製作所では、システム導入だけに終始せず、チェンジマネジメントを核とする「人の意識改革」にも取り組んでいます。「システムを導入して終わり」にするのではなく、社員が変革の目的を理解し、参加への意欲を育み、変革が継続するという一連のサイクルを行うことで初めて変革が成功します。強い発信力を持つ経営層から定期的に変革に向けた熱意を多様な形で発信し、現場の困りごとに寄り添うことで、変革への抵抗感や不安を和らげ、積極的に社員が参加できる仕組みを丁寧に設計しています。
今後は、チェンジマネジメントによって醸成された土壌を活かし、「E-Vision 2030」で定めた、「2030年にありたい姿」への実現に向けてさらなる企業変革が期待されます。
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