事例

「airCloset」が対話型スタイリング提案AIを開発、業務効率化・顧客体験の向上を図る

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月21日に開催されたCX(カスタマーエクスペリエンス)部門では、顧客体験価値の向上や顧客とのより深い関係構築に、デジタル技術を活用した企業の事例を表彰しています。

ChatGPTを活用した対話型スタイリング提案システムにより、顧客の好みを深く理解し、パーソナライズされた提案を実現した、株式会社エアークローゼットの事例をご紹介します。

1. エアークローゼットが目指す「時間の価値」の向上

株式会社エアークローゼットは、オフィスカジュアルなど、女性の普段着に特化してパーソナルスタイリングを行なう、月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』を運営する企業です。日本初、国内最大級のファッションレンタルサービスで、会員登録者数は、2024年6月時点で130万人を突破(有料会員と無料会員の合算)しています。

エアークローゼットは、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンに、「発想とITで⼈々の⽇常に新しいワクワクを想像する」をミッションとしています。会社立ち上げの際の、創業メンバー3人による話し合いの中で、「ライフスタイルが豊かになるサービスを作りたい」という思いに行き着き、全ての人に平等にあり、人によって使い方も感じ方も異なる「時間の価値」に着目。面倒だ、億劫だと感じている時間よりも、ワクワクしている時間に価値があると感じ、ライフスタイルの中でワクワクを作れて、時間の価値を高められそうなファッション領域での創業に至りました。

そうした背景から生まれた『airCloset』は、4つのステップで利用できるレンタルサービスです。お洋服を選ぶのはお客様ではなくエアークローゼットに所属するプロのスタイリストで、好みのスタイルや色、サイズといったお客様の情報をもとに、数十万着の中からお客様に合ったお洋服を3着または5着コーディネートしてお届け。クリーニングも不要で、専用のバッグに入れて返却しますが、気に入ったお洋服は買い取り可能です。

2. ChatGPTを活用した対話型スタイリング提案システムの開発

DXというと、業務効率化や今ある既存の機能またはサービスの効率化を指しますが、これに加えてファッション業界の場合、お客様にコーディネートの提案をする、対面でのパーソナルスタイリングや、データ集計、紙ベースでの業務のデジタル化などが該当します。エアークローゼットではAI(人工知能)を活用したパーソナライズ体験、いわゆる新しい顧客体験を生み出すこともDXと捉えて、『airCloset』を通したパーソナルスタイリング、シェアリングに特化した倉庫管理システムなど、ファッション業界でさまざまなDXを推進しています。今回のプロジェクトも、そうしたDXの一環で取り組んだものです。

エアークローゼットが開発した「ChatGPTを活用した対話型のスタイリング提案システム」は、ChatGPTを活用してお客様との対話を自動化し、より深い好みの理解とスタイリング方針の擦り合わせを実現。お客様の情報をもとに行うヒアリングは、スタイリストごとに聞き取りにムラがあるなど、スタイリスト自身の力量に大きく左右される側面があります。ここをChatGPTによる対話に置き換え、コミュニケーションの自動化を行っていくことで、精度の高い合意を得られることを目指しました。

オンラインのパーソナルスタイリングは通常、お客様から提供された情報をスタイリストが読み解き、ヒアリングや認識の擦り合わせを行いますが、スタイリストによって好みの情報への理解が異なるなど、バラつきがあります。

ChatGPTを介したテキストベースでの対話にすることで、登録情報に不足があれば、お客様からさらに情報を引き出したり、認識の相違の確認やスタイリング提案の方針擦り合わせをしたりと、お客様の好みの情報を高精度で把握できます。

3. 組織体制とデータ活用の取り組み

エアークローゼットが提供しているシステムは、内製化をしています。エアークローゼットの3人の創業メンバーは、エンジニアとしての就業経験があるなど、ITやエンジニアリングへの深い知見を有しています。

3人の経営陣やCTOに加えて、データサイエンティストや人工知能のエンジニアで組成されたデータサイエンスチームを社長直下に配置し、徹底的にPDCAサイクルを回していくことで、自社事業におけるデータ収集・活用・DX、ファッション業界のDX化の領域拡大を推進しています。

4. 産学連携での研究による、システムの効果検証と成果

技術や情報が進化しているが、検証データが少ないアカデミックな領域と、多様なデータを持つが技術や情報を進化させたい企業の産学連携の一環として、2017年より明治大学・高木友博教授が率いる研究室との共同研究を、毎年テーマを変えながら実サービスへの導入を前提に継続実施してきました。高木教授らとともに行った研究の成果は、インターネット上で公開されています。

◆データサイエンスチームによる研究事例のご紹介

URL:https://corp.air-closet.com/data-science-collection/topics/

「ChatGPTを活用した対話型スタイリング提案システム」の有効性を検証するために、スタイル提案と対話プロセス全体とに分けて実証実験を行いました。被験者は、お客様の年齢層やファッションへの感度が近いエアークローゼットの女性従業員10名(職種はバラバラ)です。収集した被験者本人のデータをもとに、エアークローゼットのスタイリストが実施したスタイル提案と比較検証しました。対話プロセスについては、ChatGPTによる対話を経験した印象などから、プロセス全体を評価しました。

スタイリストは、スタイルカルテと呼ばれているカルテに、お客様の情報を登録します。聞いたままを入力するわけではないので、情報を整理する時間が月に250時間かかっていましたが、生成AIが収集した情報を整理し、カルテに落とし込むため、実質0分を実現。加えて、お客様とのコミュニケーション量が4.2倍に増加したことで、お客様とAIとの対話がスムーズに行われ、スタイリング方針の合意が高品質で実現し、スタイリング精度も向上しました。

検証により十分な成果を得られたため、現在『airCloset』に実際に搭載するための準備を進めています。

この研究結果も含めて、エアークローゼットは2020年から、自社のデータ活用事例を「airCloset Data Science Collection」として公開しています。

◆「airCloset Data Science Collection」

URL:https://corp.air-closet.com/data-science-collection/

5. 今後の展望:ファッション×テクノロジーの可能性

 今後も『airCloset』は、産学連携での研究を進めるとともに、AIやデータを活用したDXとアップデートの継続により、個人にパーソナライズされたファッション体験をお客様にお届けするとともに、より愛されるサービスに進化させます。

一方、当社は『airCloset』をスタートさせたときから、新たな顧客体験(UX)を創出するべく、サービスや機能の改善に取り組んできました。また、倉庫管理システム(WMS)の自社開発などを通じ、物流のDXにも取り組んでおり、自社で配送から返却後のクリーニング、検品、保管までを設計しています。これにより他社との協業が加速し、フォーマルウェアやアウトドア用品などのレンタルサービスの物流を受託しています。また、物流拠点の拡張移転やシステム開発の海外拠点の新設など、事業の拡大を続けています。時間の価値を向上させ、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」というビジョンのもと、エアークローゼットの強みであるデータ活用やAIにより、ファッション業界のDX推進に貢献します。

6. まとめ:顧客体験を中心に据えたDXの成功モデル

エアークローゼットでは、テクノロジーを業務効率化だけでなく、顧客体験の質的向上にも活用しています。ChatGPTを活用した対話型スタイリングシステムは、ファッションという曖昧性の高い領域でのAIとデータ活用により、顧客理解の深化と顧客満足度の向上を実現。エアークローゼットの一連の取り組みは、変化の速度が速く、シェアリングビジネスなどのサステナブルな分野への事業展開も進むファッション業界はもちろん、他業種にも示唆を与えるものと言えるでしょう。