大阪府堺市地域産業課が事務局を担っている「堺DX推進ラボ(以下ラボ)」は、行政と民間が一体となり地域ぐるみのDX支援をめざした、有機的な連携体です。予算ゼロからスタートしたこのプロジェクトは、DX支援を通じた堺市の掲げる都市像の実現のため、地域ぐるみの連携を起点に様々な取組を生み出し、17の支援機関が持つリソースを繋ぎ合わせ、堺市内中小企業の企業価値向上を加速させています。
本記事では、大阪府堺市の事例をご紹介します。
「未来を創るイノベーティブ都市」をめざす堺市の課題とDX支援の必要性

堺市は、大阪府で2番目に人口が多く面積も広い政令指定都市です。堺市では、製造業を営む会社が多く、「ものの始まりなんでも堺」と呼ばれてきたことから、市の最上位計画「堺市基本計画2025」で「未来を創るイノベーティブ都市」をめざす都市像として掲げ、変化を恐れず挑戦し続けるまちづくりを進めています。また、「堺産業戦略―Sakai IMPACT Strategy―」にも、事業環境を整備し地域経済を底上げする施策の一つとして、「市内全企業を対象としたDX」を定めており、地域企業のDX支援を通じて、堺市が理想とする都市像の具体化に取り組んでいます。
堺市内企業のデジタル化の進捗状況は、堺市独自のデジタル化促進補助金や堺DX診断を起点としたアプローチなどの取組により全国と比較しデジタル化は一定の進捗が見られるものの、変革を伴う本質的なDXに至っている企業はまだ多くはないのが現状です。経営資源の限られた中小企業の多くは、独力でのDX推進は困難であり、地域経済の持続的成長のためには、単なるデジタル化支援に留まらない、本質的なDX支援が不可欠です。
「堺DX推進ラボ」を形骸化させないための4つの挑戦

「堺DX推進ラボ」は、堺市内中小企業のDXを推進する産学官金の連携体で、発足当初は8機関でしたが、現在は17機関までに拡大しています。2023年10月に経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)から地域DX推進ラボの一つに選定され、DX支援取組事例集にも掲載されました。発足後、活動予算がゼロであったことなどから、連携体が「形骸化」してしまうリスクを抱えていました。そこで、堺市と「堺DX推進ラボ」が取り組むべきこととして、4つのアクションを実施しました。

(1)単なるデジタル化に留まらず企業価値の向上のためのDX支援のあり方やその意義を堺DX推進ラボの共通認識に

まずはラボ参画機関を対象に、DX支援に取り組む支援機関にとっての有益な参考書として経済産業省が示す「DX支援ガイダンス」を使った勉強会を実施。支援機関に求められる役割や重要性、本質的なDX支援を通じた支援機関自身の価値向上などといった、DXを進める意義や意味を再確認し、共有できた機会となりました。また、DXを推進する隣接地域のラボや自治体(大阪府、神戸市、和歌山県)も巻き込んだことで、他地域への波及効果や、共通の目的をもった仲間づくりの場となるなど、価値創出も認められました。
(2)堺DX推進ラボを形骸化させず連携の強化と実効性のある取組を加速

2023年から、ラボ参画機関と協力しながら運用しているのが「堺DX診断」です。経営者が30問の設問に答えることで、自社のデジタル化の状況や経営課題を可視化できる、無料オンライン自己診断ツールです。事業者とのコミュニケーションツールや各機関の支援メニューへの入口として活用しており、令和5年度は920件、令和6年度は708件の診断実績があります。実績データの分析結果に基づいて、社内人材育成に活用できる「堺市中小企業DXリスキリング補助金」、トランスフォーメーションを起点とした支援プログラム「堺 NeXt Drive(堺市DX新規事業創出業務)」の創設に至りました。

また、事務局(堺市)は、ラボの活動を活性化するために、地域企業やラボ参画機関、本市のニーズや課題を組み合わせ、セミナーやイベントを企画・提案・運営するなど、各主体とのハブとなり有機的な連携を促すファシリテーターとして機能しています。一例としては、公的支援機関の専門家を相談員に迎えたDX個別相談会や各種セミナーの実施を企画・コーディネートしました。それに先駆けて、金融機関(支援機関)の支店営業担当者向けに勉強会を実施しました。相談会に参加する企業が多く集まり、市内で設けている補助金の活用先の掘り起こしなど、より実効的な支援に繋がりました。DX個別相談会は、今年も開催予定です。
それぞれの取組には、ラボ参画機関やラボに参画していない支援機関などの外部リソースも活用することで、予算ゼロでも効果的なDX推進ができています。
(3)DX支援ガイダンスの公開や事例集への掲載など、機会を活かし堺DX推進ラボの発信力を強化

堺市では、経済産業省が発行する「DX支援ガイダンス」事例集への事例掲載や、地域DX推進などの情報交換の場などを通して戦略的な情報発信を進めてきました。
その結果、以下の成果が生まれています。
- 経済産業省やIPAなど、さまざまな公的機関との関係を構築。
- IPAが実施する地域企業のDX認定取得を支援するプログラム「ふるさとCo-LEAD」への参加機会を獲得し、市内企業2社のDX認定取得を支援。
- 活動を通じ、新たな連携や情報発信の機会を得るなどの好循環が生まれた。
- ラボ間の交流を通じて、相互に知見を得るなど、良い影響を与え合っている。
(4)地域企業の企業価値向上と支援機関の支援力向上のため、ラボ参画機関がコミットできる支援の場づくり

堺市は、ラボ参画機関、ラボに参加していない支援機関のリソース、堺DX診断で得られた分析データ、産官学金の連携などをフル活用しながら、令和7年度から「堺 NeXt Drive(堺市DX新規事業創出業務)」を新規事業として立ち上げています。事業者が共通して直面する「新規事業創出」という課題に、DXを通じてアプローチするものです。
このプログラムには、(1)地域企業が単なるデジタル化に留まらず本質的なDXを実践し、新たな価値を創造することによる企業価値向上、(2)ラボ参画機関にオブザーブ参加いただき、実践的なケーススタディの場として活用することで、地域全体のDX支援力の向上、という2つの狙いがあります。
新たな取組を通じ、これまで構築したラボの連携を、本質的なDX支援の実践の場へとすべく、変革に挑んでいます。
地域ぐるみのDX支援の自走へ―「堺 NeXt Drive」が示す未来への展望

堺市・堺DX推進ラボは、これまでの活動で築き上げた、産学官金の連携や協創の土壌といった基盤をさらに発展させようとしています。「堺 NeXt Drive(堺市DX新規事業創出業務)」を起点に、挑戦する地域企業や支援機関が集うコミュニティやプラットフォームを形成し、将来的には共創の促進や地域としてのDX支援が「自走」する状態をめざしています。
今後も、DXで企業、支援機関、堺市がともに成長する土壌をさらに発展させるだけでなく、地域DXを強力に牽引していきます。
補助金活用から新規事業創出まで―「連携の相乗効果」がもたらした具体的成果
DX推進ラボの強みは、ラボ参画機関それぞれの得意領域とリソースを結び、「予算ゼロ」でも価値を生む点にあります。堺市は事務局としてハブとなり設計・調整を担い、各機関の自発的な関与を引き出すことで、有機的な連携が少しずつ生まれています。
例にも挙げたDX個別相談会では、参加5社のうち1社が専門家支援+市補助金でシステム投資に踏み出すなど、具体的な投資行動へ接続。地域支援機関にとっても、支援機関としてのプレゼンス向上や新規リレーションの創出につながるなど相乗効果も生まれました。
また、ラボ参画機関主催の「DX×事業承継セミナー」では事務局によるコンテンツ設計×金融機関の集客力で43社60名が参加。それぞれの得意分野を活かした取組となっています。
他にも多数の機関の自主性や強みに基づいた有機的な連携のもと、ラボ発足より3年間で35回以上のセミナーやイベント、登壇機会を獲得。(2025年4月時点)IPAとの連携によるDX認定取得支援機会の獲得など活動の幅も広がっています。
ラボの活動を通じ、堺市の施策も「デジタル化支援(導入・補助)」から「本質的なDX支援(新規事業創出・価値創造)」支援まで網羅的にラインナップするに至りました。デジタル化の支援にとどまらず、「堺 NeXt Drive」を通じ企業価値の向上に挑戦できる地域へと変革しています。
まとめ
「堺DX推進ラボ」は、堺市が事務局を務める産官学金の連携体で、17の支援機関との有機的な連携を構築しました。キーツール「堺DX診断」で得たデータをもとに、補助金の創設、DX個別相談会や各種セミナーの企画・コーディネート、といった実効性のあるDX推進支援を展開。このモデルをさまざまな場面で発信することにより、地域企業の支援につながるなどの波及効果がありました。令和7年度よりスタートした「堺 NeXt Drive(堺市DX新規事業創出業務)」は、地域企業の企業価値向上をめざしており、今後は、理想とする「DX支援が自走する」状態に向けて、共創の土壌をより発展させていきます。