30年稼働し続けたレガシーシステム、労働集約型の体制――。3代目経営者が直面したのは、数えきれない壁でした。マイクロマネジメントによる失敗から「支援型の経営」へと舵を切り、IT専門家ゼロ・投資100万円で内製化を実現した「One-Chat DXモデル」。その結果、離職率が12%から3%へ下がったり、会議や会社への電話が減少したり、リードタイムが短縮したりと、多方面で成果を上げました。

自社の取り組みをパッケージ化して横展開することで、業界・業種の垣根を越えた地域中小企業の新たな可能性を切り開こうとする、株式会社ヒューマングループの事例をご紹介します。

30年稼働のレガシーシステム、労働集約型――3代目が直面したたくさんの壁

株式会社ヒューマングループは、1953年創業の長崎県佐世保市の会社です。自動車教習所を中心に、貸切バス事業や旅行業、マーケティング、ドローンスクールなど、幅広く事業を手がけています。

ヒューマングループの事業概要

創業者で、2024年から代表取締役を務めている内海梨恵子氏の祖父・幸輝氏は、自動車学校の入校生の管理のために1980年にカタカナしか表示されないコンピュータを導入するなど、1980年代からIT投資を積極的に行いました。1989年に2代目となった、創業者の息子の和憲氏はこの方針を引き継ぎ、IBMのLotus Notesを導入し、会社の基幹システムを構築。2001年には経済産業大臣賞を受賞しました。

ヒューマングループのIT投資の歴史

しかし、他のシステムに置き換えるのが非常に難しく、費用対効果に見合ったシステムになかなか出会えずに5年おきにサーバーを交換し、高額な維持費を払いつつ30年以上動かし続け、気づけばレガシーシステムと化していました。そこで、2022年にモバイル対応のために思い切って自社開発を行いましたが、上手くいきませんでした。

会社の経営に視線を向けると、プラス材料はほとんどありませんでした。メイン事業である自動車学校は、少子化や人口減少、若者の車離れなどの影響をもろに受けやすい。自動車学校も貸切バス事業も他の土地に移動して営業できるわけではなく、勤怠・経費処理や人材流出など多方面に問題を抱えていました。

ヒューマングループが直面した経営課題

こういった苦しみから脱却したいと、LINE公式アカウント事業や研修事業といった新規事業の立ち上げ、顧客対応の24時間自動化、誰でも使いやすい社内システムの構築を企画しました。

「管理」から「支援」へ――マイクロマネジメント時代の反省から生まれたヒューマニティー経営

内海氏自身、成果を求めるあまり、過度に部下に干渉しすぎて、細かく仕事を管理する「マイクロマネジメント」によって、社員が大量に離職してしまった苦い経験があります。

マネジメント管理には、進捗状況把握や督促といった「管理」ではなく「支援」という視点でアプローチすることを考えました。従業員が「忘れた」「方法が分からない」「必要性を感じない」という問題を解決するためのサポート体制を構築できれば、過度な管理は不要になるはずです。個々の従業員が自律的に仕事を進められるよう、適切な情報やツールを提供し、困ったときにいつでも相談できる環境を整えれば、会社がスタッフ一人ひとりの輝ける場所になるのではないか。

「管理」から「支援」への転換

そう考えた内海氏は、新規事業の立ち上げなどと並行して、「人の強みが輝く仕組み」づくり=「ヒューマニティー経営」と名付けて、さまざまな改革を行いました。ヒューマニティー経営は、のちに会社のトップメッセージとして掲げることになります。

「One-Chat DXモデル」を核にした、「人を輝かせる」ためのDX

One-Chat DXモデルの全体像

ヒューマングループは、全ての業務情報がチャットに集約・連携される「One-Chat DXモデル」を構想。ここで一番大事にしたのは、チャットを中心に、テキストベースでコミュニケーションを取れることです。全員が非IT人材だった経営企画室の社員をプロジェクトメンバーに据えて、ローコード・ノーコードツールを活用し内製化に挑みました。その中核に据えたのが、コミュニケーション基盤であるチャットツール「Lark」です。

内製ノーコード工場の取り組み

既に代表取締役社長に就任していた内海氏と経営企画室メンバーは、「内製ノーコード工場」を立ち上げ、30年以上使い続けているレガシーシステムからの脱却に取り掛かりました。既存のNotesデータベースを重要度や稼働頻度で分析し、必要な機能と廃止する機能を棚卸ししました。また、ノーコードツールを駆使し、勤怠・経費管理から顧客管理、指導日報に至るまで、1年間で100を超える業務アプリと全社員専用のボットを開発。社長自らが最初のプロトタイプを試作し、小規模テストで得たフィードバックを即座に反映させるサイクルを高速で回し、わずか4ヶ月で全社導入を完了させたのです。

レガシーシステム刷新の過程

とにかく同じ作業を繰り返さない、同じ入力を2回しないために、AIも活用しながら多様な工夫を行いました。リマインド地獄を解放するために、「こういう条件になったらリマインドする」というbotを設けたことで社内のトラブルもなくなりました。いつでもどこでも確認できるよう動画マニュアルを作ったり、作業マニュアル作成ボットを構築したり、困ったときや分からないことがあったときに、スピーディーに解決できる指導員見習い育成チャットボットを作成。業務の最適化を日々行っています。

組織文化の変革とAI活用

業務変革と並行して、文化の変革にも取り組みました。「空気を読まない組織にしたい」との思いから、ルールでお互いが判断をする。情報は公開する。そして苦手なことは共有して、得意な人もしくはロボットが行うことで、毎日楽しい、仕事が楽しい、新しいことを学ぶのが楽しいというスタッフが増えてきました。

これらの一連の取り組みにより、「One-Chat DXモデル」は、各方面で目覚ましい成果を上げました。

勤怠管理や経費申請・管理、顧客管理、指導員の教育、営業情報管理を一元化することで、3期累計で営業利益が6,868万円改善し、提出期限遵守率100%を達成しました。勤怠入力差戻し工数は80%削減、経理部門の残業も45%減少。スピーディーな顧客対応など大幅な効率化を実現しました。70代のスタッフもボットを使いこなし、年齢による情報格差も消滅。社内チャットで「こうだったら良いのに」という業務課題やアイデアを共有するようになったところ、月間のアイデア投稿数は導入前の3件から42件へと増加。課題の一つだった離職率も、12%から3%へ低下しただけでなく、新卒枠を設けていないにも関わらず入社希望者が現れるようになりました。

「DXはあくまでも人を輝かせ、アイデアを実現する手段である」という思想が社内に根づき、改善提案・導入できる風土が醸成されています。

労働集約型のBtoCから知識集約型のBtoBへの事業転換

BtoB事業への転換

社内改革の成功を受けて、ヒューマングループは今後、自社で培ったDXのノウハウをパッケージ化して3年以内に他社へ横展開するロードマップを描いています。

DXノウハウの横展開ロードマップ

具体的には、これまでサポート部門だった経営企画室を事業化し、中小企業を労働集約型のBtoCからBtoBへ転換を図るとともに、地域限定のサービスを全国へ拡大。既に15社に導入支援を実施しています。失敗も成功も引っくるめて、自社の仕組みを「動くカタログ」にすることで、業種・業界の垣根を越えて、経営課題の解決と地域経済の活性化に貢献していくとともに、地方・中小企業の可能性を切り拓いていきます。

「ヒューマンで人々を幸せに」という経営理念に則って、ヒューマングループはチャットを中心とした人を輝かせるためのDX活用をしっかりと展開していきたいと考えています。

まとめ

株式会社ヒューマングループは、「DXは人が輝くためのツール」と捉え、テキストベースでコミュニケーションが取れることを大事に、あらゆる業務機能を一つにまとめた「One-Chat DXモデル」を構想しました。全員がITの知識がなかった、社長直下の経営企画室メンバーは、30年間使われてきたレガシーシステムを社長とともにノーコードで刷新。また、どんな人でも簡単に操作できて、「人が輝く」DXを目指すため、AIボット活用による徹底的な仕組み化、現場の社員によって100以上ものアプリが作られたり、2日以内に改善提案が形になったりするなど、風通しのよい組織へと変化したことで、離職率は12%から3%へと劇的に改善しました。

今後ヒューマングループは、従来の労働集約型から知識集約型への転換を図るため、自社のDXのノウハウを他業種・業界に展開。既に導入支援を実施しており、人を真ん中に据えた「ヒューマニティー経営」を推し進めながら、経営課題の解決と地域経済の活性化に貢献していきます。