鹿児島県指宿市では、市長によるデジタル活用宣言、専門部署の立ち上げ、ビジョン策定など、体制を整えながら庁内のデジタル化を推進してきました。しかし、導入を検討したシステムは高額で、コストや人員をなかなかかけられず、局所的かつ短期間に留まってしまうことが課題でした。そこで、住民の利便性の向上と職員の業務効率化を同時に叶えることができて、なおかつ低コスト・低負荷で自走を促す独自の「指宿モデル」を構築しました。
人口3.6万人の町が直面した財源と人材の壁

薩摩半島の最南端に位置する鹿児島県指宿市は、人口約3.6万人の、農林水産業と観光業が盛んな町で、開聞岳や天然砂むし温泉、干潮時に陸続きになる知林ヶ島が有名です。

多くの地方自治体同様、指宿市もDXの取り組みは遅れがちでした。令和4年4月に専門部署である「デジタル戦略課」が創設され、翌年1月には市長によるYouTubeでのデジタル活用宣言、3月の「指宿市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進ビジョン」策定、5月にはデジタル推進本部立ち上げと、推進体制を整えてきました。
指宿市DX推進ビジョンに基づき、各種行政手続きのオンライン化や窓口手続きのデジタル化の取り組みを推進していましたが、いくつかの大きな課題に直面しました。

デジタル庁が自治体職員と協力して、窓口業務の効率化に必要な機能を盛り込んだ「窓口DX SaaS」など、システム導入を検討しましたが、費用が高額であったため、財政健全化を推進する市の方針では、大規模なシステム投資に慎重にならざるを得ない状況でした。紙で行っている申請をデジタルに置き換える際に、オンライン申請、書かない窓口と全く違うシステムを導入すると、データの取得・保守、法令改正への対応など、職員への負担が増加することも課題でした。また、各種申請のオンライン化、窓口のデジタル化にも職員が対応しなければならず、リソースが割ける部署だけ取り組みが少し進むという状態でした。そのため、他の部署に展開が広がらず短期的かつ局所的になってしまうなど、一過性の取り組みになってしまっていました。
「ぴったりサービス」を転用――自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト

指宿市がフロントヤード改革に着手するきっかけとなったのが、令和5年度に12自治体の一つとして採択された「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト(人口1万人以上5万人未満の団体モデル)」でした。このプロジェクトは、住民と自治体の接点(=フロントヤード)、つまり窓口のデジタル化と住民の利便性の向上を図るべく、人口規模別の改革モデルの構築と横展開を目的とした総務省の事業です。

指宿市では国が運営するオンライン申請システム「ぴったりサービス」などを活用した「行かなくていい市役所」、タブレット窓口の導入といった「書かない・待たない窓口」、その他「利便性向上」という3つのポイントに絞って取り組みを進めました。

その際、「なるべくお金をかけず、職員・住民に負担もかからない範囲で、中小規模自治体の職員が自走し、中長期的かつ全庁的な変革につなげるモデル」というコンセプトを掲げた「指宿モデル」を打ち出しました。
指宿市のフロントヤード改革を支える3つの柱
指宿市のフロントヤード改革推進には、3つの特徴があります。
ランニング費用も経費も、なるべくとにかくコストを抑える

タブレット端末の活用と、「ぴったりサービス」という国のオンライン申請サービスを窓口デジタル化に置き換えること(ぴったりサービスAPIの活用)で、低コストかつ少ない労力で、デジタル化、オンライン申請と窓口のデータの統一化を図り、「行かない窓口」「書かない窓口」を同時に実現しました。オンライン申請や「ぴったりサービス」に関しては、連携協定を締結したTOPPAN株式会社(以下、TOPPAN社)から、さまざまな伴走支援を受けており、同社が開発した「窓口タブレット申請システム」の使用もその一環です。
職員のモチベーションを上げていきながら推進する

TOPPAN社の協力のもと、職員を対象とした勉強会を複数回開催。各課の職員が自走できることを目指して、マインド醸成からハンズオン形式での端末操作、実際窓口で受け付けたときのロールプレイ、フォームの変更などを実施しました。

一連の研修を終えた受講者には「ぴったりサービスマイスター」の称号を付与。受講者は主に若手職員でしたが、職場に帰っても「よく頑張ったな」と声をかけられる機運を醸成できました。庁内でも令和6年度に認定した「ぴったりサービスマイスター」の周知活動と、職員の人材育成を同時に行っています。
動画コンテンツを有効活用しよう

自治体フロントヤード改革モデルプロジェクトなどの進捗状況を、市の公式YouTubeチャンネル「デジサポ指宿」で適宜発信しています。来訪していた総務省の職員に声をかけてYouTube出演を打診したり、指宿市と同じ年に自治体フロントヤード改革モデルプロジェクトに採択された鹿児島市瀬戸内町とのコラボ動画を撮影したり、総務省でのフロントヤード改革の最終報告会の様子を配信したりと、動画コンテンツを充実させています。これにより、改革はデジタル戦略課だけでなく、全庁一丸となって取り組むものであることを示し、その方向性を明確にするとともに、機運の醸成にもつなげました。
KPIを超えて、住民の利便性と職員の効率化をより進化

フロントヤード改革の結果、オンライン申請が可能な手続きは24から48へと倍増し、キャッシュレス決済の導入により、1年で650件の利用がありました。それらが関連して閑散期と繁忙期での平均待ち時間(152秒から119秒に短縮)にも影響しています。

総務省の算出方法を基に、市が算出した効果検証によると、改革によって年間5,364時間かかっていた業務が3,311時間へと短縮され、職員の人件費に換算すると年間で約405万円もの削減効果が生まれています。ただ、システム導入をしているので、117万円の費用対効果となっています。2年目以降にKPIを達成すれば、117万円の費用対効果は209万円に上昇する見込みです。
市民サービスの面でも、令和2年度にはほぼゼロだったオンライン申請の利用率は、令和6年度には36.2%にまで飛躍的に向上。土日や夜間でもオンライン申請可能としたことで、仕事をしている世代からは「仕事を休む必要がなくて助かった」などの声が上がりました。
「住民と職員双方にやさしい市役所」という未来図
「指宿モデル」は、高額な予算や外部の専門人材に大きく依存することなく、国が提供する「ぴったりサービス」のような既存ツールと、現場職員の創意工夫を掛け合わせることで、着実にDXを推進できることを実証しました。例えば、商工部署の職員が、商店街のイベントで来場者データを収集・分析するために自らkintoneのForm Bridgeを使ってアンケートフォームを作成するなど、データに基づいた政策立案への意識変革が生まれています。
指宿市では、住民の利便性の向上と業務効率化、ひいては市政発展への貢献のためにDXを進めています。今後、オンライン申請可能な手続きをさらに拡充し、市役所に行かなくても申請や手続きができる環境を整えるとともに、平均待ち時間の短縮や職員の負荷軽減にも取り組み、住民にも職員にもやさしい市役所を目指しています。
取り組みの内容をYouTubeなどを通じて積極的に発信し、市民だけでなく市外の専門家や多様な人々と協働しながら改革を進めていく方針です。
まとめ
指宿市は、総務省の事業に採択されたことを契機に、デジタル活用によるフロントヤード改革に本格的に乗り出しました。高価なシステムに頼らず、国の「ぴったりサービス」を窓口業務に転用し、職員の「自走」を促す文化を醸成することで、市民サービスの向上と職員の業務効率化を同時に実現。今後は、バックヤード改革も見据えて、さらなる業務改善を検討中です。