連載・コラム

電帳法の対策が進まない企業の要因は何か?

最近しきりに地上波のテレビで電帳法対応の経理システムのCMが流されます。いよいよ2年間の猶予期間を経て来年2024年1月1日より電子帳簿保存法(以下電帳法と表記)が開始されることに起因しています。

電帳法はこれまで何度も改正(緩和?)を繰り返してきました。今回の改正では、取引先からメールなどで受け取った請求書や領収書などの書類を電子データのまま保存することが義務づけられるほか、一定の基準(タイムスタンプ等)を満たしていれば領収書やレシートをスマートホンで撮影した画像も電子データとして見做されるようになりました。

しかし多くの中小零細企業ではまだ電帳法への対策が進んでいない現状があります。今回は、このような現状を踏まえ、筆者が目の当りにした事例を基に、電帳法対策を掘り下げて考えたいと思います。

事例は、販売店のアルバイト店員が店内で使う備品をネットショップで立て替えて購入し、これを経費精算手続きする、というものです。これが、非常に面倒なことになります。本部経理課の指示は、ネットショップから発行された領収書を紙媒体に印刷し、本部へ提出(Fax)するというものです。

この販売店は大手企業なの名前は伏せますが、電帳法開始後ではありえない、いろいろツッコミどころ満載な対応なのです。電帳法開始まで1年もない現時点でこの対応はいかがなものか?という課題事例と捉えました。大手ならではの電帳法対策なのかと興味が湧き、企業のホームページを通じ問い合わせをしてみることにしました。

(以下原文のまま)

[お問い合わせ内容]
御社店舗勤務の身内から、さきほど店舗で使用する消毒剤の購入後の領収書(通販)の印刷を依頼されました。

2024年1月1日から施行される電子帳簿保存法によりますと、電子(メール等)で受領した領収書については電子のまま保存することになっているはずですが、御社はどのように経費精算を取り扱いなされる予定なのでしょうか?

[回答]

株式会社●●でございます。 

平素よりご家族様には店舗運営にご協力ただき 誠にありがとうございます。 (中略)

また電子帳簿保存法のご指摘につきまして お取引先等から電子データでいただいた請求書等証憑につきましては電子保存で対応しております。ただし弊社のシステム環境の制約によって店舗では電子データをメール等でやりとりすることができないため領収書等の紙をスキャナーで取り込んでいただいております。取込後はデータ保管しているため、証憑の法定保管という観点では紙は不要としております。 

この回答のとおり本部では紙媒体と電子の領収書をすべてスキャンしてデータ保管していると表現されているのですが、この後の問い合わせを重ねていくうちに
①本部では管理できていても店舗ではデータ保管が現時点で不可能であること、
②旧来より本部-店舗間のやり取りはすべてFAX送信(電子の領収書は印刷後送信)にて行っていること、
③本部においてFAX送信された文書をスキャンしデータとして保管しているので電帳法上問題ないと認識していた、という現状が明らかとなりました。

大手企業にもかかわらずこの程度の管理方法で良しとされている現状に半ば呆れてしまうのですが、批判していても仕方ないので
①そもそも従来の電子データを印刷する仕組みが店舗スタッフとしては手間(負担)になっている点を認識する必要があるのではという点と、
②本部とメール送受信可能なエリアマネージャー等の役職を持つ社員によって、各店舗スタッフからのメールを通じての電子データ(領収書)のとりまとめを行うことで解決できるのでは?という点、
③店舗ごとにメールアドレスを付与することで店長の役職を持つ社員によって、各店舗スタッフからのメールを通じての電子データ(領収書)のとりまとめを行うことで解決できるのでは?という点を具体的な解決策として指摘するにとどめました。

今回この事例から気づかされたのは、企業の規模の大小にかかわらず電帳法に対しての理解度がまだまだ小さいということと、本部(管理者)と店舗(現場)との認識や仕組みの乖離が著しければ著しいほど解決策を見いだせないでいるという点でした。このように「どこから変えていっていいのかわからない」と困惑している企業に対し、それぞれの企業規模に合ったアドバイスや支援をひきつづき筆者もNPO東日本の活動としても継続していきたいと考えております。

執筆者

高巣 忠好氏

アットリライト
NPO東日本事業支援機構 理事長
1971年生まれ。愛知県豊田市出身。
時計・輸入雑貨量販店・ベンチャー系卸売会社・輸入卸売会社に勤務。チーフマネージャーを務め、コンサルティングファームに転職後独立。
「過去を否定せず、時流に合った方針・計画に書き直す」=アットリライトを理念として中小企業の経営改革支援や事業承継、事業再生の指導を実践している。
認定経営革新等支援機関NPO東日本事業支援機構[関財金1 第145 号] 理事長