7月に投稿させて頂きましたDX(デジタルトランスフォーメーション)に関するレポートではDXをバリューチェーンで捉えるということを紹介しました。
今回はこの中でも人事・労務管理についてのDXに触れます。すでに給与計算や労働時間管理などは様々なSaaSサービスが存在しており、導入済みの企業が多いため、あまり触れられない“タレントマネジメント”と、“ピープルアナリティクス”の2点についてご紹介します。
1.タレントマネジメント
現在、人材不足の企業が多く採用コストの増大から各社は離職率を下げることが重要だと認識されています。そのためには社員をできるだけ公平中立に評価し、効果的な教育によって活躍の場を広げ、適材適所に配置することで組織の活性化と効率化を実現することが求められます。そこでこういったことが一気通貫でできるITサービスのニーズが高まりつつあります。タレントマネジメントシステムでGoogle検索しますと幾つか存在しておりますが、一例を上げますと、私のクライアントでも導入されているのが“カオナビ”です。
カオナビでは、社員の能力や経歴、部署などを一元管理するだけでなく、人事評価や人事異動の手助けをしてくれます。もともと、「社員の顔を表示できて、それを自由に並べ替えられるシステムを作れないか?」という、顧客からの依頼があって、そういうニーズを捉えたサービスを開発したそうです。しばしば業務における“見える化”が重要視されていますが、人事においてもITツールを用いた“見える化”が重要視される時代になっています。
2.ピープルアナリティクス
ピープルアナリティクスとは、社員の情報(評価や職歴、スキル、行動情報など)を収集し、分析することで新たな採用のインプット情報としたり、育成に活かす考え方です。収集する社員の情報は様々です。年齢、性別、所属部署などの基本情報はもちろんですが、勤務状況や社用パソコンにおけるインターネット閲覧履歴、電子メールの送信時間帯、通話履歴、評価情報など、社員に関する情報を一旦データ化します。そのデータを元に、“活躍している社員”はどういう行動をとっているか、どういう性格か、どういう属性かを抽出し採用に活かします。もちろん個人ベースだけでなく、どういう分類の人材がチーム編成した場合にパフォーマンスが良くなるのか、を分析してチーム編成のバランスも考慮することができるようになります。いわゆる性格診断でしばしば使われる有名な手法が4つのタイプに分けるコーチングの手法です。活気あるアイデアマンのプロモータータイプ、行動的で自分の道を進むコントローラータイプ、他者との協力関係を重んじるサポータータイプ、情報を集め分析することが得意なアナライザータイプ、の4つのタイプで分類します。どれが良いか、ではなくどこに重みがあるか、という捉え方をします。もしチームがプロモータータイプだらけだったらプロジェクトの推進は難しいでしょう。プロモータータイプがアイデアを出して、コントローラータイプがプロジェクトマネジメントを行い、アナライザータイプが進捗管理をする、サポータータイプがこぼれるタスクを拾う、そんなバランスの取れたチームが理想的です。こうした性格まで一歩踏み込んで社員のデータベースに登録することでプロジェクトの成功確度を上げることができます。
社員が居心地よく、パフォーマンスを最大化させるにはどうすればよいのか、というのは企業にとって切実な課題です。離職率低下のためにもピープルアナリティクスは重要だと考えられます。
こうした分野はHR Tech(HRテック)と呼ばれており、人事・組織マネジメントをクラウドサービスでAIを活用するといった新しいサービスが数多く立ち上がってきています。従来から存在するオペレーションの効率化だけでなく、人事評価や分析、心理学を併用した適材適所への配置など応用は様々です。
人事・労務分野でもいち早くDXを実現し、他社よりも一歩先んじて効率化と活性化を実現し、本業の成長を裏から押し上げてあげましょう。
執筆者
山本 広高 氏
BFCA経営財務支援協会
NPO首都圏事業支援機構 理事
国立大学大学院終了後、フロリダ・インターナショナル大学にてMBA取得。
アクセンチュア㈱ビジネス統合部門にてコンサルティング業務に従事。
経営コンサルタントとして独立。
2014年、BFCA経営財務支援協会の取締役に就任。
NPO首都圏事業支援機構 理事。