連載・コラム

外国人人材の就労支援のあり方

.外国人受け入れ政策の推移

わが国では、1990年の「出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」といいます)」の改正を契機に、中長期在留外国人を積極的に受入れる政策が採られてきました。

この改正では、「定住者」の在留資格が創設され、ブラジルやペルー等の中南米諸国から出稼ぎで来日していた日系3世などに対して、一部の例外を除いて就労可能な地位が与えられました。また、「研修」の在留資格を定め、法務省告示によって「団体監理型」の研修制度が創設され、これは、その後の制度変更や法改正を経て、現在の「技能実習制度」へと拡大を続けてきました。

2008年、当時の福田康夫政権は、世界とのつながりを深めるグローバル戦略の一環として「留学生30万人計画」を策定し、2020年を目標年として日本国内の外国人留学生を30万人に増やし、日本の大学への入り口と卒業後の社会への受け入れ態勢の改善などを行う政策を立案しました。この計画は、当初の目標よりも3年前倒しの2017年12月末に30万人を突破する311,505人となり、それ以降も連続して記録を塗り替えています。

2018年12月末現在、中長期在留外国人は240万6,677人となり、1990年から倍増しました。構成比率の高い在留資格上位4つが、全体の60%強を占めています。

2018年12月の入管法改正により、2019年4月1日には、在留資格「特定技能」が創設され、中小企業等の深刻化する〝人手不足〟に対応するため、「特定技能制度」が始動しました。この制度は、生産性向上や国内人材の確保のための取組みを行ってもなお、人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野14業種において、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れていくものです。今後5年間で最大345,150人の「特定技能外国人」の受入れが見込まれています。

.益々厳しさを増す少子超高齢社会

総務省が発表した2019年1月1日時点の「人口動態調査」によれば、わが国の日本人人口(総人口のうち日本国籍を

有する者)は1億2,477万6,364人で、10年連続の減少となり、1968年の調査開始以来最大の減少幅を記録しました。

日本人人口のうち、「生産年齢人口(15~64歳)」が占める割合は、過去最低の59.5%となり、高齢化に拍車が掛かっています。今後は、団塊の世代のほぼ全てが後期高齢者となる2025年に向けて、〝本格的なリタイア〟が始まり、益々、厳しさを増していくことが予測されています。

.外国人人材の適正な採用・雇用・登用のために

中長期在留外国人の約9割が、生産年齢人口(15~64歳)に該当しています。特に、インバウンド観光客の増加に伴って堅調な小売業、飲食業そして宿泊業などの第三次産業では留学生のアルバイトが活躍し、そして若い労働力の確保が困難な地方の第一次産業や第二次産業では10代後半から20代前半を中心とした技能実習生によって〝人手不足〟が補われている状況です。

しかしながら、一部の企業では、外国人労働者等に対する低賃金、残業代未払い、長時間労働そして暴行やハラスメントなどの深刻な労働問題や人権侵害が発生しており、また、それらに起因する失踪事件や、反社会的勢力による偽造在留カードのシンジケートが不法滞在・不法就労を助長するなどの犯罪を引き起こしています。

中小企業等が「外国人労働者」の採用を行う場合、〝人手不足の解消〟という現実の要求にのみに偏ることなく、外国人労働者やその家族が地域社会の一員として受け入れられ、日本人と共に安心・安全に暮らし続けていけるよう、中小企業自らが「生活支援」や「社会支援」と一体に「就労支援」に取組み、中長期的な人事戦略に基づいた「人材育成(教育・訓練)」や「キャリアパス支援」を提供していくことが大切です。

行政書士は、中長期在留外国人の在留資格申請等の業務を通じて、それら外国人のライフサイクルの様々な場面に関わるため、今後は、税理士、社会保険労務士及び宅地建物取引士などの他士業者、大学や日本語学校などの教育者、キャリアコンサルタントや有料職業紹介事業者等の就労支援者と連携して、中小企業等が外国人人材の適正な採用・雇用・登用を実現していくために必要な多岐に渡る〝支援〟に応え得るネットワークを構築することを通じて、地域経済の活性化に寄与していけるものと考えております。

執筆者

田村 徹 氏
特定行政書士

昭和38年生まれ。
京都市出身、中小企業経営などを経てICT法務サポート行政書士事務所を開業。専門分野は、ICT(情報通信技術)社会に対応した法務サービスと経営革新支援。
出入国在留管理局への外国人在留資格の申請取次業務、外国人人材の就労支援コンサルティングでも高い評価を得ている。