連載・コラム

電子帳簿保存法と郵便法の改正で進めざるをえない、経理のデジタル化

先日10月1日より郵便法が改正されました。これにより速達郵便の料金が値下げされた一方で、普通郵便では配達日数が繰り下げられ、さらには普通郵便の土曜日・日曜日の郵便物配達がなくなりました。今月から支援先の経理の現場でも、取引先への請求書発送の翌日配達が叶わないことや取引先からの月末の請求書の到着が遅れるなどの混乱が予想されます。しかしながら多くの中小零細企業では、この郵便法の改正が月次決算に影響する可能性が高いことや、請求関連業務に関して、経理の現場でこれまで以上の効率化や日程管理に迫られるという認識が少ないように感じます。

郵便法の改正や月次決算の早期化に対応するためには、請求書などの発行業務を電子化、つまりデジタル化・システム化することが一番の解決策と考えられます。相手先の要求に応えるために電子メールでのPDF送付やファクシミリなどを使う方法も想定できますが、デジタル化していく他の業務との親和性を考えればバックオフィスの業務も並行してデジタル化を進めることが得策といえます。

加えて、来年(2022年:令和4年)1月からは電子帳簿保存法が改正されます。一見、郵便法の改正と関係ないように捉えがちですが、前述の郵便法改正で、これまでの「郵送」が企業の請求関連業務にとってやや不便なものになります。一方で、改正電子帳簿保存法は、紙媒体書類の郵便物に取って代わる電子媒体を認めます。書類の電子データ化が進めば、用紙代や印刷機(プリンター)のインク代、保管するためのファイルやバインダー代、保管スペースの確保など、紙ベースでの保存に要していたコスト負担が軽減されます。

加えて書類整理やファイリングに係る工数の削減にもつながり、事務職員の人件費も抑えることが可能です。つまりこの二つの法改正は郵便物、請求書に限らずバックオフィス業務のデジタル化(DX化)を推進するきっかけでもあります。

改正電子帳簿保存法は、国税に係る帳簿書類の保存についてのコストや事務負担を軽減する改正でもあります。一方、国税徴収の原簿ともいえる帳簿書類の保管義務に係る改正でもあり、隠蔽や改ざんなどを抑止するため、これが発覚した場合、10%の過重といったペナルティを課せられる場合があります。一方で、隠蔽や改ざんとは異なるリスクもあります。電子データで受け取った請求書などの書類は『紙』保存が認められません。けれに対する違反は、法対応していないということになるため、『青色申告や連結納税の承認取り消し処分』というリスクがあります。こうした点からも、前述の改正2法への対応は急ぎたいところです。

とはいうものの、大企業は別とし、個人事業やフリーランスでの導入はハードルが高いような気もします。

しかしながら電子帳簿保存法は、かれこれ四半世紀近く前(1998年:平成10年~)に制定され、その後時代背景に応じて柔軟に変化してきました。今回は特に、新型コロナウイルスの流行拡大を背景とし、書類等の電子化に対応するため、制度創設以来の抜本的な制度変更を実施しました。例えば、改正前は、「授受した請求書は電子保存して、契約書や納品書は『紙』で保存する」などチグハグなものでした。改正法は、電子帳簿保存の範囲を自分で決めて申請できる、という基本ルールです。

改正法までは、電子帳簿保存法に対応する“3カ月前”までに承認申請書と事務手続き概要を税務署へ提出する必要があります。しかし、改正後はそれが不要になります。例えば仮に現在(21年10月)に届け出ても、承認されるのは来年以降となる可能性があります。改正法では、これが大幅に要件が緩和されため、来年1月1日以降(改正法施行)まで待った方が賢いといえます。

今回の改正のタイミングでのシステム導入は、長期的に見れば、生産性の向上、経営情報の可視化など大きなメリットがあります。システム導入にはコストや手間がかかるものの、社員が取り組みやすい運用ルールを定めれば、現場の混乱を防ぐことも可能です。 電子帳簿保存導入を検討することを機に、あらためて自社のIT経営の道筋を検討されてみてはいかがでしょうか。そんな支援をひきつづき筆者もNPO東日本の活動として継続していきたいと考えております。

執筆者

高巣 忠好氏
認定経営革新等支援機関NPO東日本事業支援機構 理事長

1971年生まれ。愛知県豊田市出身。
時計・輸入雑貨量販店・ベンチャー系卸売会社・輸入卸売会社に勤務。チーフマネージャーを務め、コンサルティングファームに転職後独立。
「過去を否定せず、時流に合った方針・計画に書き直す」=アットリライトを理念として中小企業の経営改革支援や事業承継、事業再生の指導を実践している。
認定経営革新等支援機関NPO東日本事業支援機構[関財金1 第145 号] 事務局長