連載・コラム

DXの「いま」

2023年を迎えるにあたり、筆者が感じるDXの「いま」を記載してみたいと思います。

1.年頭所感にみるDXの「いま」

政界や経済界はDXの「いま」をどのように捉えているのでしょうか。著名人や有名大企業トップの今年の年頭所感を昨年と比べてみました。

岸田総理

2022年:(成長と分配の)成長については、「デジタル化」(中略)などの社会課題を成長のエンジンにします

2023年:今年も、デジタル(中略)などの分野に、官民が連携して、我が国の人とカネを大きく集中させ、大胆な投資と改革を進めてまいります

経済産業大臣

2022年:グリーン・デジタル投資の加速化や、伴走支援によって支えることで、中小企業の事業継続と成長を後押しします

2023年:グリーンやデジタルなどの新たな取組に挑戦する中小企業を後押しするため、事業再構築や生産性向上、輸出拡大に向けた支援に取り組みます

評:課題を「DX」ではなくいまだに「デジタル(化)」と表現するあたり、そもそもの日本の今の立ち位置が思いやられますし、内容にも1年前から進化がないように感じます。

経団連会長

2022年:GX・DXに加えて(中略)など内外の重要政策課題を強力に推進することが急務である

2023年:国内投資の柱は言うまでもなくGX・DXである

評:持続的な経済成長に向け、今年はDXへの投資を経済界により強く呼びかける内容となっています。

三菱商事

2020年:21年10月にDXとEXの一体推進を全社目標に掲げることができました

2023年:リアルを主とする企業や自治体のDXに伴走しながら、それらが有する顧客基盤にアクセスしていきます

住友電工

2022年:DXは当社事業との関係が深く、将来の持続的な成長に向けた千載一遇のチャンス

2023年:全社を挙げて推進しているDXを必ず活用することで、従来成し得なかった成果を挙げる

KDDI

2022年:社内DXの推進の取組みについて更に進化させたい

2023年:お客さま企業のDX加速による法人事業の成長

評:DXに前向きな企業は、内向きのDXから具体的成果の追求にフェーズが遷りつつあります。こうした企業が数多く出現することを今後期待したいものです。

2.投資家目線でみるDXの「いま」

2022年12月に新規上場(IPO)した23社の業種(事業内容)と株価の相関を調べてみました。以下に記載の、「株価」は、上場後1週間後の株価(終値)が公募価格の何倍になったかを表します。この23社を情報・通信(9社)、サービス業(7社)、その他(7社)に分類して株価を比較したところ、サービス業が1.60倍、情報・通信が1.54倍に対し、その他は1.14倍にとどまりました。サービス業、情報・通信の株価が好調な要因は、DXとの相性がいい企業が含まれているためです。例えば、ELEMENTS(情報・通信、株価3.44倍)は、DXに欠かせない本人確認システムを提供する会社で、スマサポ(サービス業・株価3.34倍)は、入居者や不動産オーナーに利便・利益をもたらす不動産DXを推進する企業です。この2社の詳細な事業内容の記載は省略しますが、いずれの企業もわかりやすい商品・サービスで世の中のDX化に貢献している企業と言えます。

これはあくまでも一例ですが、DX化によって得られる効果が明らかな(わかりやすい)企業や、DX化に欠かせないインフラや仕組みを提供できる企業が今後株式市場でも選別されていくことになりそうです。上場を目指さない中小企業にとっても、自社のために限らずステークホルダーとの協調のためにもDXへの取組の重要性が日々増していくことを意識したいものです。

執筆者

高橋 章氏
株式会社経営財務支援協会 シニアコンサルタント
http://kaikei-web.co.jp/

東京大学法学部卒業後三井銀行(現三井住友銀行)に入行。アットローンを立ち上げるなどリテール金融サービスの開発に従事。一部上場ノンバンク、サービサー会社社長を経て事業再生支援を含む財務コンサルタントとして活躍