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会社分割無効訴訟は怖くない 第 2 会社方式で気をつけてほしいこと ①

コラム・連載

1. はじめに

私が事業再生研究会や各地の NPO 事業支援機構の活動に共鳴し、名古屋を中心とする NPO 東海の活動に加わってから、4 年ほどになります。この間、東京で催されるセミナーやその他各地の集まりに参加し、最新の知識や経験を学んだり、各地の志の高い方々と面識を得られて大変感謝しています。

永年弁護士をしていますから、窮境に陥った中小企業の破産や民事再生の申立や破産管財人など、法的な倒産処理の経験はありましたが、事業譲渡や会社分割制度を使って、窮境企業のグッド部分を切り出して事業再生をはかる取組みをしている人たちがいることを知ったとき、「へえっ、こんなことができるんだ。」と、まさに目から鱗の思いでした。法的手続を優先し私的再建手続は困難そうだとの先入観から手を出さない弁護士のスタンスはよくないという思いを持ちました。

その後、大学の先輩に当たる後藤孝典弁護士や、その他先達の事業再生家の方が書かれた書物などを勉強し、会社法で整理された会社分割制度が中小企業の事業再生に、大いに役立つことを知りました。

今回は、私が最近獲得した会社分割無効訴訟の訴え却下判決の紹介と、会社分割や事業譲渡を使った事業再生に対する法的リスクとその対処について私見を寄稿することにします。

2. 分割無効訴訟の事案の概要について

私が関与した案件は、次のようなものです。

農産物・食品の販売等を目的とするある株式会社が過剰債務で行き詰まり、著名な再生コンサルさんの指導のもと、一切の事業を新設会社に承継させ、バンクミーティングを通じて新設会社が旧会社(分割会社)に月額 200 万円の賃料等を支払い、それを按分して、12 行の金融機関(無担保債務の総額は約 14 億円)に支払ってゆくというスキームで再生を行っていたところ、東海地方の某地方銀行(貸付金は約 1 億円)が会社分割無効訴訟を起こしてきたのです。

この事案の場合、分割会社の代表者が新設会社の代表者になり、事務所も従業員も全て以前と全く同一、しかも承継会社が分割会社の商号を続用し、対世間的には分割会社が銀行債務だけもとの会社に置いて新会社で事業継続しているという外観があり、一部銀行の怒りを買ったのかもしれません。

この再生スキームでは、当然ながら銀行債務は全て分割会社に残し、取引債務だけを新設会社が承継しており、原告銀行は貸付金の支払いを分割会社に履行請求できます。そして、新設会社に移転した純資産に対応する対価が新設会社の株式という形で分割会社に交付されています。ですから、分割前後を通じて分割会社の資産に変動はなく、分割会社に引き続き債務の履行を請求できる原告銀行は、会社分割に異議を唱える資格がありません。つまり原告は異議権のない分割会社の債権者であって、異議権のない分割会社の債権者は会社分割無効の訴えについて原告適格を有しないのです。

この点を、裁判所は次のように述べて明確に認めてくれました。

「会社法 828 条 2 項 10 号は 『新設分割について承認をしなかった債権者』 は新設分割無効の訴えを提起できる旨規定しているところ、ここにいう 『新設分割について承認をしなかった債権者』 とは、会社法 810 条 1 項 2 号により、新設分割について異議を述べることができる債権者に限られると解するのが相当である。なぜなら、そもそも、新設分割について異議を述べることができる債権者でなければ、新設分割について承認することもできないと解されるからである。」

ですから、この訴訟は実体審理に入る前に訴訟の入口で原告の主張を排斥し、訴え提起後約 5 ヶ月で一審判決がでるという、スピード決着でした。

3 分割無効訴訟の無効原因について 上記訴訟はこのまま確定するか原告銀行が控訴するのか、原稿執筆時点ではまだ未定です。分割無効の訴えについて分割会社ないし承継会社に、 「債務の履行の見込みがないこと」 が会社分割の無効原因となるか否かは、学説上意見が割れています。

会社法の権威の江頭憲治郎教授が、著書 「株式会社法 (有斐閣) 」 で、後藤弁護士や立法担当者の主張 (新法は旧会社法の規定と異なり 「債務の履行の見込みに関する事項」 を記載すれば足りるとしたから、履行の見込みがないことは無効原因にならない。) に反対して 「債務の履行の見込みがないこと」 は無効原因になると述べておられます。ですから、裁判所は、事案によっては債務の履行の見込みがない場合は分割無効判決を欠く可能性が大いにあります。しかし、通常の再生型会社分割では、銀行債務は分割会社に置いておきますから、銀行は会社分割後も旧会社 (分割会社) に債務の履行を請求できますから、再生会社が銀行から分割訴訟を提起されても、原告適格の論点で銀行の主張を排斥でき、敗訴するかもしれない 「債務の履行の見込みがないこと」 という論点に入る前段階で訴訟を終結できます。この意味で事業再生型の会社分割訴訟において銀行が分割無効訴訟を起こしてきても怖くないと言えます。

この点を突き詰めてゆくと、会社分割登記後 6 ヶ月間という無効訴訟の提訴期間内であっても、両会社間の資本関係の断絶 (分割会社の株式のスポンサーへの譲渡など) をしても一向に構わないということになります。

 

NPO東海事業支援機構理事 弁護士 佐久間信司

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