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事業再生奮闘記 ~台湾での不正調査5~

8.経緯報告

 

平成19年8月6日、A監査法人のパートナーM氏と、東京にある依頼主の本社を訪ねた。臨時役員会の席上で、台湾での調査結果を発表することになった。

 

架空売上の形で貸付を行い、それが焦げ付いてしまったことを報告すると、場は静まり返った。後から聞くと、T社長は創業者一族の遠戚に当たるそうで、創業者である会長の手前、誰もが遠慮して口を開こうとしない。

 

やがて創業者が言った。

 

「コンプライアンスが叫ばれている昨今、身内を庇うような企業は市場から退場させられてしまう。遠慮は要らないので徹底的に膿を出して欲しい」

 

監査法人の手前もあったのかも知れないが、なかなか立派な心がけだ。

 

実はこういう場面は初めてではない。しかし10年前なら間違いなく「割賦販売の焦付で処理しておいてくれれば良いものを(要らぬことをして)」という雰囲気があったものだ。時代も変わったのかも知れない。

 

9.疑念

 

8月8日、今度は成田から台湾に向かった。夏休みでフライトが取れず、都内に一泊することになった。

 

普段はビジネスホテルにしか泊まったことがないが、今回は依頼主の電気関連企業がホテルを用意してくれた。名前を言えば誰もが知っている有名ホテルで、夏休み期間は都心から人が出ていくせいか館内は思いのほか空いていた。

 

数か月ぶりのオフだ。プールで泳いだ。暑がりの私には天国だ。潜水用の深いプールがあったので、潜ってみた。3メートルも潜っていないと思うのだが、地上の音が急に遠く小さくなる。自分が吐く息が作る泡の弾ける音が聴こえるばかりだ。

 

その時、ふいに閃光が走った。

おそらく台湾で作業をしている時にも無意識に感じていた疑念なのだろう。地上の音を遮断されたことにより潜在意識の深いところに埋もれていたものが浮かび上がって来たのだと思う。

 

それはT社長の東京本社へのメールの内容だ。

 

「割賦で販売した客先から回収した手形が不渡りになった」

「社長は連絡つかず台北に居ない様子」

 

前半部分はもう判明した。架空売上だ。しかし後半部分はどうだ。なぜ「台北に居ない様子」だと書いたのだろう。携帯に電話をかける。何度かけても出ない。そこまではいい。よくある話だ。しかし電話が繋がらないことを以てなぜ「『台北に』居ない」と思ったのか。

 

京都に住む私が京都の友人の携帯にかける。何度かけても出ない。「どうしたんだろう?海外にでも行ったのかな」とは思うと思うが、「『京都には』居ない」とは普通発想しないはずだ。京都に居ないと考えるのは、そのことを既に知っている時だけだ。

 

T社長は、L社長と連絡を取り合っている、或いは前もって不渡りを出した後で台北を出ることを伝えられていたのではないだろうか。

 

時間にしておそらく10秒弱。これが潜水プールで私に閃いた疑念だった。

 

10.通話記録

 

台湾に戻ってきた。早速、電話会社の通話記録を取り寄せた。T社長の回線は独立した番号だ。17時15分の定時を過ぎれば、T社長以外は誰も残っていない。

 

L社長の携帯の番号がズラッと表示されている。定時以降のほとんどの通話記録がL社長にかけたものだ。一回や二回ではない。ここ1か月で三十数回は通話している。通話時間も記録されている。短い時で3分40秒、長い時で22分55秒。

 

私も何度かL社長の携帯にはかけたことがある。〝ニーポートティエンファ…〟(あなたのおかけになった電話は…)というアナウンスが流れる。まさかこのアナウンスを聴きながら、22分間も受話器を握りしめていることはあるまい。

 

間違いない。T社長は、L社長と毎日のように連絡を取り合っていたのだ。

 

以下、次号へ続く

 

(NPO法人西日本事業支援機構 アドバイザー

公認内部監査人 公認不正検査士 認定事業再生士 寺島健二)

 

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