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ドキュメンタリー・レポート ~ 石川銀行破綻の爪跡 ~ 2

コラム・連載

5. 現状分析

(1) 債務の増加

SPC は、整理回収機構から 10 社 120 億円程度の債権をいくらかで買い取り、そこに利益を
乗せて、M 社長他 10 社に請求しているように思われた。

M 社長の銭湯の債務は元々 5 億円だったのであるが、SPC のスキームでは、10 社が互いに
連帯保証をする契約になっていた。即ち、M 社長の銭湯の債務 5 億円がいつの間にか、10 社
分 (約 20 億円) に膨れ上がっていたのである。

ところが、M 社長は全くこの事に気付かずに、数々の契約書に押印をしており、私が解説して
初めて「そうだったのですか」と驚いていた。

(2) 債務の圧縮

M 社長の借金は、元々 5 億円であった。SPC は、この債務を時価に引き直した。
即ち、実際に回収出来そうな金額 1 億円 (優先債務) と、残額 4 億円 (劣後債務)に分け、
優先債務を当初の 10 年間で返済させて、残りを 11 年目から 5 年で返済
させるというスキ
ームであった。

残額の 4 億円を放棄してしまうと、債務免除益や贈与の問題が発生するので、契約書上は
劣後債務もキッチリと残してあった。劣後債務を回収する意思が無いことは、

1. 優先債務を完済すれば、銭湯に設定した抵当権を解除すること
2. 劣後債務を
請求したのでは「圧縮スキーム」が無意味になること、から明らかであった。

しかし、SPC が劣後債務を残したことで、後々我々は大変苦労をすることになる。

6. 借入申込書の作成

「優先債務を借り替えたい」という M 社長の要望を請けて、我々は融資申込書の作成に取り
掛かった。平成 21 年 6 月のことである。経営者や多くの再生アドバイザーが見過ごしている
ことの一つに、書面の重要性がある。

(1) 借入の申込みを書面で行うことの重要性

融資の申込みに行った時に、決裁権者である本店審査部門の担当者や支店の支店長が対応
してくれることは有り得ない。通常は、お客様に一番近いところに座っている若手の融資課員が
対応することになる。

懸命に事情を説明し、その課員を納得させる事が出来たとしよう。シャッターが閉まり、重要書類
の保管が終わる夕方以降になって、課員は上司に融資の申し出を報告する事になる。しかし、こと
融資の現場においては、 「向こうからやってくる融資申込客は要注意」であるのは常識となっている。こちらから申込みに行く時点で、既に色眼鏡で見られている (警戒されて
いる)のである。

報告を受けた融資課長に話が伝わる頃には、窓口で課員に熱意を以って伝
わったはずの内容が
半分ほどに減っている。融資課長の次は次長、または副支店長である。彼らに伝わる頃には、
もう元の話は 20% ほどに減っている。支店長に伝わる頃には、跡形も無く、従ってその案件は
否決される。

金融機関の人事査定は、極端な減点主義であるために、誰もがリスクを取らない。
その結果、「向こうからやってくる怪しい客」の話をまともに取り合ってくれることは滅多にない。

こういう金融機関の内情を考えれば、書面で提出することの意義が分かって頂けると思う。
書面の中で伝えたいことを 100% 書いていけば、その内容が保身に走る金融マンによって
減らされることもなく、最終決裁権者にまで届く。

(2) 借入申込書の中身

平成 13 年に金融庁が主導となって「私的整理ガイドライン」が策定された。ガイドラインには、
日本全国の金融機関が取引先の中小企業を支援するか切り捨てるかの判断基準が示されて
いる。

従って、借入申込書には、必然的に「私どもはガイドラインをクリアしています。ですから支援を
お願いします」という内容を書いていくことになる。

具体的には、以下の 2 つである。

1. 実質債務超過の解消年数
2. 借入金の償還年数

(3) 実質債務超過の解消年数

前述のようにSPC との契約には劣後債務が残っていたので、決算書の貸借対照表には、
石川銀行時代と同じ 5 億円の負債が計上されたままであった。

劣後債務を考えると、 M 社長の会社は大幅な債務超過となってしまい、ガイドラインで求められて
いる「実質債務超過の解消年数 = 概ね 3 年以内」をクリアできない。

そこで、今までの経緯を詳述し、SPC に請求意思が無いこと、課税回避のための工夫に過ぎない
こと、を説明した。更に、企業再生に詳しい弁護士の意見書を付けていった。「法的には債務は
存在するが実質的には請求されない」という内容の意見書である。

(4) 借入金の償還年数

劣後の債務が法的には存在するので、これを考えれば、償還年数は 30 年を下らない。
ガイドラインが示す「借入金の償還年数 = 概ね 10 年」からは程遠い。

これについても、上記同様に説明を行った。

(5) 問題点の列挙とその回答

今回の融資申込では、いくつかの問題が予想された。こういう場合には、借りる側自らが正直に、
前もって問題点を列挙してその一つ一つに回答を準備していくというスタイルにすることが望ま
しい。これは私が銀行の審査部時代に学んだことである。

予想される問題と我々の回答は、以下の通り。少々長くなるが、この記事をお読み戴いているで
あろう経営者や再生アドバイザーの皆様にとって有用であると考えるので、原文をそのまま引用
したい。

■ 補足説明書

疑問にお感じになると思われる事柄に関しまして、あらかじめ説明させて戴きたく、Q&A の様式にて、以下にまとめました。

1. 石川銀行が破綻した際に貸付金債権が整理回収機構 (RCC) に移管されているという事は、
それだけ業績が悪かったという事ではないのか?

(弊社回答)
平成 13 年 12 月 28 日に石川銀行が破綻しました。金融庁のホームページによりますと、
破綻時の貸付金債権は 4,161 億円で、その内の2,593 億円が RCC に
移管されております。

別紙 「石川銀行破綻時の借入金一覧」 をご覧下さい。
石川銀行からの借入金の返済期間が、20 年や 30 年と突出して長くなっております。
添付の返済予定表をご覧戴きますと判りますが、私どもがリスケの依頼をした結果ではなく、
当初からこのような長期の返済期間を許容されておりました。

平成 13 年に策定された私的整理ガイドライン 7 項、金融検査マニュアルQ&A 36、民事再生法
155 条 3 項の趣旨から考えますと、返済期間としては、長くても 10 年が妥
当だと考えますが、
借入当時は石川銀行が弊社の返済能力に合わせて返済期間を設定してくれていました。

ところが、石川銀行が破綻し、その結果「 20 年~ 30 年」のモノサシが「 10 年」となり、
不良債権に区分され、RCC に移管されたものであると理解しております。従いまして、
「業績が悪かったから RCC に移管された」 のではなく、「モノサシが変更された結果、
不良債権と区分され、RCC に移管された」 と考えております。

今般の融資申込書 5 ページの 「債務償還年数の検討」 でも述べましたように、現在では
償還年数が 3 年半程度ですので、借入金が過大であるという状態ではない
と考えます。

もっとも、20 年や 30 年でしか返済出来ないような過大な借入をしてしまった点につきましては
経営判断として非常に問題があった、と猛省しております。

2. 借り換え前の返済期限は、平成 27 年 9 月となっている。即ち、今回の申し出は、このまま
返済を続ければ、後 6 年で終わる支払い期間を 10 年に延長する一種のリスケだと考えられる。
(1)  リスケを依頼するなら、現在の借入先に依頼するのが筋であるし、
(2) 肩代わり資金を融資せよと言うならリスケではなく、借入期間も現行の条件と揃えるべき
ではないのか?

(弊社回答)
(1) のご指摘はごもっともだと考えますが、借入先のSPC からは、毎月の報告会の席上で、
「こういう情勢で皆さんの経営状況も決して楽観できない。一般の金融機関
から借入をおこして、
早くうちを卒業してくれ (優先返済分を借り換えして完済してくれ)」 と言われております。
今般の申し出は、こういう背景もあってのことです。

(2) のご指摘についてもごもっともですが、我々は以下のように考えます。

1.返済期間を現行の 6 年から 10 年に延長する理由は、融資申込書 2 ページの
「申し出理由」 に書きました資金繰りの改善のためです。融資申込書 5 ページ で
計算したように、現状でも支払いは不可能ではありませんが、将来の改装などに
備えて返済期間を長く取りたいという趣旨です。

2. また貸し手側から見た与信リスクは (あくまで将来においても改装資金などを
ご融資戴けると仮定した場合ですが)、

・ 今回の融資は、返済期間 6 年→ 10 年の実質的リスケに応じる事と等しいが、
10 年の期間を設定すれば、債務者企業においてその間に将来の改装費、
修繕費の蓄えが今よりも可能となり、将来それらの資金要請を受ける可能性
が低くなり、リスケはするものの与信残高は減る一方である。

・ 返済期間を 6 年のままで融資に応じれば、実質的なリスケをするというリスクは
回避できるものの、債務者企業においてはそれだけ余裕が無くなるので、

将来において改装費や修繕費の融資要請が来る可能性が高まり、要請に応じ
れば与信残高が増えてしまう。

と、どちらにしても同じようなものではないかと考えます。即ち、実質的なリスケを許容してしまう
与信リスクと、将来の融資残高が増えてしまうという与信リスクの比較衡量となるのではないか、
と考える次第です。

 

NPO西日本事業支援機構

http://www.npo-shien.org/

アドバイザー 寺島健二

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