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為替デリバティブ被害の急増

2008年9月に起きたリーマン・ショック以降の急激な円高の進行を受け、多くの中小企業が経営の悪化あるいは倒産に追い込まれているという報道を聞いて久しくなります。とりわけ外貨決済を必要とする輸入業者では為替デリバティブ取引による多額の損失が顕在化しています。全国銀行協会の報告によると、2011年4月~6月期に企業からあっせんの新規申立があった紛争事案のうち、最も申立件数の多い案件はデリバティブ取引関連の案件であり、その数115件と、全体の57.2%に達したとのことです。為替デリバティブの購入を含め金融商品の購入については原則的には自己責任ともいえますが、為替デリバティブは、種々のオプション(銀行に有利に働くノックイン/アウト条項が付されたものも多く見受けられます)の組み合わせによる複雑難解な商品であるに加え、一般には長期契約で、中途解約するとなると莫大な違約金が課されるという建付けになっていますので、企業は長期にわたり為替変動による無限の損失を負担することになり、現在の円高傾向が続く限り、今後もデリバティブ取引の損失により経営の悪化に追い込まれる中小企業が増大することは必至です。

 

◆ 金融機関に対する主張 
‐金融機関に認められうる法的責任とは…                               
このように原則中途解約不可という前提の下、中小企業が金融機関の責任を追及し、解決を図るための法的な主張としては、主として、以下のものが挙げられます。

(1)適合性原則違反
為替デリバティブ取引を扱う銀行等の金融機関は、取引に際して、顧客の知識、経験、財産の状況及び取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならないとされています(適合性の原則)(金融商品取引法第40条)。為替デリバティブの高度な複雑性・専門性に照らし、企業側の理解度を超えた勧誘をし、あるいは、明らかに過大な危険を伴う取引を強引に勧誘するような適合性原則違反の逸脱度合が激しい場合には、不法行為として、金融機関側に対して損害賠償責任を追及することができます。

(2)説明義務違反
金融機関は、顧客に対して為替デリバティブ取引を売り込むにあたっては、市場リスク、取引の仕組み等について十分に説明する義務があり、これを怠り、説明義務違反があると認められれば、民法等を根拠として、金融機関に対して損害賠償請求をすることができます。

(3)優越的地位の濫用
中小企業にとって、銀行、特に主要銀行との取引関係の継続を考えると、銀行から為替デリバティブ取引を持ちかけられた場合にはなかなか断り難いものです。かかる両者の地位を比較すると金融機関は中小企業に対して独占禁止法上の優越的な地位にあるといえる場合があり、金融機関がかかる優越的地位を利用して融資と合わせてデリバティブ取引の購入を事実上余儀なくさせた場合には、その地位を濫用した違法行為について、損害賠償が認められる可能性もあります。


◆解決方法のメニュー

以上の主張の争い方としては、金融機関との示談、裁判外紛争解決制度(ADR)、訴訟による解決等が考えらえます。企業としては、金融機関との関係維持を考えると、関係が破たんしない程度に交渉し、示談による解決を望む場合が多いかと思われますが、示談により企業の損失の穴埋めをする行為は金融商品取引法で禁止される損失補てん等の禁止(同法第 39 条第1 項)に違反するため示談交渉は困難です。
そこで、ADRの出番です。ADRによる和解が成立すれば、それに基づく損失補てんは禁止されません。銀行との間の為替デリバティブ取引については、全国銀行協会のあっせん委員会を利用することになります。ADRは、短時間、低コストで問題が解決するというメリットに加え、銀行側はあっせん委員会の提示したあっせん案を正当な理由なく拒否してはならないことになっており、非常に高い確率であっせん成立に至り、問題解決が図れているようです。もっとも、ADR では、必ずしも厳格に違法性の判断を行わず、企業側と金融機関側との互譲を求めて説得にかかる傾向があるため、本来であれば金融機関に違法があり、訴訟で争えば企業側が全面勝訴、あるいはADRによる和解よりも大幅に有利な判決を勝ち取れる事案もないわけではありません。
ADRによる和解の前には、一度、専門家にご相談なさることをお勧めします。

NPO関西事業再生支援センター
弁護士 清水有希子

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