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オーナー死亡による事業承継トラブル

コラム・連載

1.事案の概要

地方都市で生コンの製造販売を営む年商数億円,従業員十数名程度の小規模な会社。創業者オーナーによるワンマン経営で近年は赤字経営に陥っていた。その社長が認知症にかかり成年後見人に就任し,取締役工場長を社長に昇格させた。その後意外に早く社長が亡くなり,事業に関わりのない親族が会社の株式の約75%も相続することになってしまった。
問題は,その企業の財務状態が優良で,不動産や工場設備・売掛金のほか,5億円超の預貯金・国債などの金融資産を保有していたこと。相続人は一刻も早く会社を畳み現預金等を分配しようと考えた。

2.経営陣の苦難

相続人から依頼を受けた弁護士から現経営陣に役員交代と報酬減額を求める内容証明が届いた。要求に応じなければ取締役・監査役の解任を目的とする臨時株主総会を開催して現役員を一掃し会社を解散したい,ときた。
経営陣は,何も事業を知らない社長が入ってきては無理難題を押し付けられるし,給料も減額される,急な廃業ということでは永年の取引先にも迷惑を掛けると,困惑。

3.専門家による支援

中小企業のオーナー死亡に伴う円満な事業承継をはかるべく私が関与することになった。相手方は多額な相続税の納付が必要となろうが,オーナー社長の退職慰労金の支払いは現経営陣が鍵を握っていることを交渉材料に使おう。相続税納付時期まで交渉を引っ張って納付期限前に勝負をかける。通常総会の開催時期が迫っていたが,従来から実質的な株主総会など満足に開催していないから,ズルズルと総会開催を延期。法人税の申告納付などは税理士さんが総会決議を行わずともやってくれる。

そこで,当方は,役員・従業員の雇用を確保する重要性を強調し,現社長の留任,数年間の事業継続見込みが立たなければ,株主総会の開催はしないと反発。先方は,裁判所に株主総会の招集許可を求める申立をするとの法律家発想の脅しをしてきたが,相手方には申立をするに必要な会社定款をはじめ資料が整っていない。仮に,申立をしても結論が出るまで相当な時間を要するし,審尋期日が開かれるから裁判所で事業承継の希望を伝え和解協議をすればいい,と考え強硬策にでた。駆け引きの結果,先方は取締役会の過半数を確保できれば当面は現社長の留任を認める,向こう数年間の事業継続は約束する,と折れてきた。当方は引き換えに退職慰労金として先方の希望額を支払うことを約束して,手打ち完了。

4.無事に終わって

役員改選や退職慰労金案件など事前に相手方相続人と合意しておいて,臨時株主総会をシャンシャンで開催。その後,何回か新役員で取締役会を開催したが,先方は月次の役員報酬をもらうことしか関心がなく,事業経営は旧経営陣が主導で行い,無事に事業承継をはかることができた。
先日,いい解決に喜んだ社長から慰労会を開いてもらった次第。

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執筆者:

佐久間 信司氏
弁護士
NPO東海事業支援機構 理事長
中小企業支援法務(事業再生や事業承継の指導,事業者の倒産処理,M&A指導,企業顧問業務など)など会社法務が中心。

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